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カテゴリ:帝国
きのうは満月だった。春の嵐が吹き荒れたきょうの月はわずかに上が欠けた月だ。その月光の下を首都の週末の午前一時、真夜中の散歩をしながらふとかんがえる。道ばたには掲示板がありそこには白地に大きな赤い丸に斜めの線の入ったマークが描かれ「路上喫煙禁止」とあった。舗道のあちこちにも同じマークが画かれていて、英語、日本語、韓国語、中国語で「路上喫煙禁止」とある。むらむらと悪戯心がわいてマークの上に両足を乗せてたばこを吸ってみた。たとえば掲示板のポスターでも破ってみたらどうか。もし現場を警邏巡回中の警察官が見つけたら逮捕するに違いない。そういう世の中になった。警察国家などといわないが、まさしくそれ以外の何物であろうか。しかしひとびとは従順に受け容れる。日本においてはかの仏国のような25万人のデモはけして起きない。政治の無法がないわけではなく、しかしそれでも起きない。いっぽうで、無宿人がとつぜん若者の投げる火炎瓶によって生きたままに焼き殺される。平和が長く続いてきたが、これらの中身を観てゆくにつれ、時代閉塞と無気力の支配する平和でもあるなともおもえてくる。月光がつくる黒い影は、街路灯の放つ強い光にかき消されている。
満月の夜 君んちへ行ったよ 満月の夜 君んちへ行ったよ なのに 君んちは 丸い丸い月の中に 君んちは ぷかりぷかり 浮いてしまってて ねえ 仕方なくてぼくは 飛べないからぼくは 君の窓さがして 石を投げたの 君、ねてたのかい? 君、驚いたかい? ペイパムンペパムーン 君んちへ行ったの ペイパムンペパムーン 君んちへ行ったの なのに 君なんてどこのだれかの 胸の中に 君なんてしらずしらず だまされちまってて ねえ 仕方なくってぼくは じっとがまんのぼくは 君のくつさがして 川へ落とした 君、どうだい? 君、まいるかい? 両耳に装着した愛歩奴のイヤホンのなかで太田裕美がうたう、「満月の夜君んちへ行ったよ」がひびく。作曲は太田裕美で、作詞は山本みち子、つまり銀色夏生がつくったという。メロディも歌詞もまったく「奇妙な」歌だが、なぜだかいまのこの時代の状況の奇妙さを、どこか言い当てているようにもおもえるのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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