碧の騎士 第2章
素材は、黒獅様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。※シエルが女装しています、苦手な方はご注意ください。「シエル王女は何を考えているのかわからん。」「そうでしょうか?」「あぁ。双子の上に、あの薄気味悪いオッドアイも気に喰わん。和平条約の為とはいえ・・」 王宮内に用意された部屋でシエル王女の陰口を叩いている主の横顔を見ながら、セバスチャンはこんな男の元へと嫁ぐ事になったシエルが哀れでならなかった。「どうかしたのか?顔色が悪いぞ。」「少し、外の空気を吸って参ります。」 ヘンリクと離れたくて適当な嘘を彼に吐いたセバスチャンは、部屋から出て王宮内を散策した。 暫く廊下を歩いていると、シエル王女が中庭で刺繍をしていた。「シエル様、見事な刺繍ですね。」「あなたは、確か・・」「セバスチャン=ミカエリスと申します。ヘンリク王子の秘書兼騎士を務めております。」「そうですか・・セバスチャンさんは、ヘンリク様にお仕えして長いのですか?」「ええ、ヘンリク様がお産まれになる前からお仕えしております。」「ヘンリク様は、“噂”通りの方ですか?」「・・残念ながら。」 セバスチャンの言葉を聞いたシエルは、深い溜息を吐いた。「わたしは、どうすれば良いのでしょう?」「ヘンリク様には、恋人がいらっしゃいます。」「まぁ・・」「これは、わたしとあなただけの“秘密”ですよ。」「はい・・」 シエルは不安な気持ちを抱えながら、ヘンリクとの婚儀の準備に追われていた。「まぁ、素晴らしい刺繍ね。これは全部あなたが縫ったの?」「はい、お母様。」 白薔薇の刺繍が施された純白のヴェールを見たレイチェル王妃は、そう言ってシエルに微笑んだ。「そうだ、これをあなたに。」 レイチェル王妃はそう言うと、サファイアのペンダントをシエルに手渡した。「わたしからの結婚祝いよ。」「ありがとうございます、お母様。」「幸せになってね。」 レイチェルはシエルを抱き締めた。「シエル、何かあったら僕に手紙を書いて。すぐにお前を虐める奴を倒してやるから。」「ありがとう、お兄様。そのお気持ちだけで充分です。」 シエル王女とヘンリク王子の婚儀は、土砂降りの雨の中で行われた。―不吉ね・・―あの二人の結婚が、上手くいくかどうか・・ 挙式が行われている中、貴婦人達がそんな事を囁き合っていると、突然雷鳴が轟き、突風で大聖堂の扉が開いた。「シエル様!」 神の下でヘンリクと愛の誓いを交わそうとしたシエルは、扉の前に立っているセバスチャンの姿に気づいた。「セバスチャン・・」 セバスチャンは何も言わず、シエルに微笑み、両手を大きく広げた。「ごめんなさい、お父様、お母様・・」 シエルはドレスの裾を翻し、ヘンリクに背を向けた。「おゆきなさい、シエル。」(ありがとう、お母様・・) シエルは涙を堪えながら、セバスチャンの胸元へと飛び込んだ。 大聖堂から飛び出したシエルは、セバスチャンにエスコートされながら、用意された馬車へと乗り込んだ。「これからどうします?」「どうするも何も、前に進むしかないだろう。」 シエルはそう言うと、頭を覆っているヴェールを外した。「それを貸せ。」「何をなさるおつもりで?」「いいから貸せ。」 セバスチャンは急に口調や態度が変わったシエルに対して若干戸惑いながらも、腰に帯びている長剣をシエルに差し出した。 シエルは長剣を鞘から抜くと、腰下まで長く伸ばした髪を躊躇いなく切り落とした。「これで、“シエル王女”は死んだ。」「大胆な事をなさいますね。」「行くぞ、セバスチャン。」「どちらへ?」「何処へでも。」「わかりました。では行きましょうか、シエル様。」 そう言って自分に向かって差し出されたセバスチャンの手を、シエルはしっかりと握り締めた。「酷い雨ね。シエルは、大丈夫なのかしら?」「レイチェル、あの子の事が心配なのかい?」「ええ・・」「大丈夫、シエルなら何処でも生きていけるだろう。もう、あの子は“独り”じゃない。」 そう言ったヴィンセントは、笑顔を浮かべていた。にほんブログ村