JEWEL
日記・グルメ・小説のこと711
読書・TV・映画記録2699
連載小説:Ti Amo115
連載小説:VALENTI151
連載小説:茨の家43
連載小説:翠の光34
連載小説:双つの鏡219
完結済小説:桜人70
完結済小説:白昼夢57
完結済小説:炎の月160
完結済小説:月光花401
完結済小説:金襴の蝶68
完結済小説:鬼と胡蝶26
完結済小説:暁の鳳凰84
完結済小説:金魚花火170
完結済小説:狼と少年46
完結済小説:翡翠の君56
完結済小説:胡蝶の唄40
完結済小説:琥珀の血脈137
完結済小説:螺旋の果て246
完結済小説:紅き月の標221
火宵の月 二次創作小説7
連載小説:蒼き炎(ほむら)60
連載小説:茨~Rose~姫87
完結済小説:黒衣の貴婦人103
完結済小説:lunatic tears290
完結済小説:わたしの彼は・・73
連載小説:蒼き天使の子守唄63
連載小説:麗しき狼たちの夜221
完結済小説:金の狼 紅の天使91
完結済小説:孤高の皇子と歌姫154
完結済小説:愛の欠片を探して140
完結済小説:最後のひとしずく46
連載小説:蒼の騎士 紫紺の姫君54
完結済小説:金の鐘を鳴らして35
連載小説:紅蓮の涙~鬼姫物語~152
連載小説:狼たちの歌 淡き蝶の夢15
薄桜鬼 腐向け二次創作小説:鬼嫁物語8
薔薇王転生パラレル小説 巡る星の果て20
完結済小説:玻璃(はり)の中で95
完結済小説:宿命の皇子 暁の紋章262
完結済小説:美しい二人~修羅の枷~64
完結済小説:碧き炎(ほむら)を抱いて125
連載小説:皇女、その名はアレクサンドラ63
完結済小説:蒼―lovers―玉(サファイア)300
完結済小説:白銀之華(しのがねのはな)202
完結済小説:薔薇と十字架~2人の天使~135
完結済小説:儚き世界の調べ~幼狐の末裔~172
天上の愛 地上の恋 二次創作小説:時の螺旋7
進撃の巨人 腐向け二次創作小説:一輪花70
天上の愛 地上の恋 二次創作小説:蒼き翼11
薄桜鬼 平安パラレル二次創作小説:鬼の寵妃10
薄桜鬼 花街パラレル 二次創作小説:竜胆と桜10
火宵の月 マフィアパラレル二次創作小説:愛の華1
薄桜鬼 現代パラレル二次創作小説:誠食堂ものがたり8
薄桜鬼 和風ファンタジー二次創作小説:淡雪の如く6
火宵の月腐向け転生パラレル二次創作小説:月と太陽8
火宵の月 人魚パラレル二次創作小説:蒼き血の契り0
黒執事 火宵の月パラレル二次創作小説:愛しの蒼玉1
天上の愛 地上の恋 昼ドラパラレル二次創作小説:秘密10
黒執事 現代転生パラレル二次創作小説:君って・・3
FLESH&BLOOD 二次創作小説:Rewrite The Stars6
PEACEMAKER鐵 二次創作小説:幸せのクローバー9
黒執事 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:碧の花嫁4
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄1
火宵の月 芸能界転生パラレル二次創作小説:愛の華、咲く頃2
火宵の月 ハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁0
火宵の月 帝国オメガバースパラレル二次創作小説:炎の后0
黒執事 フィギュアスケートパラレル二次創作小説:満天5
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士2
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て5
薄桜鬼 現代妖パラレル二次創作小説:幸せを呼ぶクッキー8
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ5
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法7
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁12
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:幸せの魔法をあなたに3
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華14
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女0
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜18
火宵の月 昼ドラ大奥風パラレル二次創作小説:茨の海に咲く華2
火宵の月 転生航空風パラレル二次創作小説:青い龍の背に乗って2
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊1
火宵の月×薔薇王の葬列 クロスオーバー二次創作小説:薔薇と月0
金カム×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:優しい炎0
火宵の月×魔道祖師 クロスオーバー二次創作小説:椿と白木蓮0
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月10
火宵の月 遊郭転生昼ドラパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:それを愛と呼ぶなら1
FLESH&BLOOD 千と千尋の神隠しパラレル二次創作小説:天津風5
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母13
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫20
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黄金の楽園0
火宵の月 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:Ti Amo~愛の軌跡~0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳥籠の花嫁0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:蒼き竜の花嫁0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君0
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥6
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師4
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている2
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥27
火宵の月 転生昼ドラパラレル二次創作小説:それは、ワルツのように1
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計9
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~6
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華0
火宵の月 現代ファンタジーパラレル二次創作小説:朧月の祈り~progress~1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:ガラスの靴なんて、いらない2
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師1
火宵の月 吸血鬼オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黎明を告げる巫女0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:光の皇子闇の娘0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:闇の巫女炎の神子0
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く1
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~2
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら2
PEACEMEKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で8
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して20
天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:花びらの轍0
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達1
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔6
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~1
火宵の月 千と千尋の神隠し風パラレル二次創作小説:われてもすえに・・0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう8
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇2
火宵の月×天愛クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい4
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう)10
火宵の月×ハリー・ポッタークロスオーバーパラレル二次創作小説:闇を照らす光0
火宵の月 現代転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説:もう一度、始めよう1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:愛の螺旋の果て0
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風パラレル二次創作小説:愛の名の下に0
火宵の月 和風転生シンデレラファンタジーパラレル二次創作小説:炎の月に抱かれて1
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師0
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰2
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風昼ドラパラレル二次創作小説:砂塵の彼方0
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「それ以上騒ぐと、警察を呼びますよ。」 千鶴は理不尽なクレームをつけて来た男性客に、研いだばかりの柳葉包丁を向けた。「ひぃ、ごめんなさい!」 男性客は悲鳴を上げて店から逃げ出した。「ねぇ、あんな事をしてもいいの?最近じゃぁ、SNSである事ない事言いふらすような人が増えているのよ。」「構いません。」 昼間店で起きた事件の一部始終は、SNSで瞬く間に拡散された。「トシさん、これはヤバイ展開になりそうな気がする。」 八郎はそう言うと、パソコンの画面を見た。「千鶴、どうする?」「どうするもなにも、わたし達は貝のように口を閉ざすだけです。どちらが悪いのか、それはすぐに明らかになります。」 千鶴の言葉は、すぐに現実となった。 彼女に包丁を突き付けられたクレーマー男は、最初はSNS上で同情されていたものの、次第に彼が吐いた嘘が明らかになり、現実社会でもネット社会でも総スカンを喰らい、姿を消した。「ほらね、わたしの言った通りでしょう?」「千鶴・・」「さぁ、今日もお仕事頑張りましょうね、あなた。」「あぁ・・」 GWが終わり、梅雨の季節を迎えた。「今日も良く降るね、トシさん!」「そうだなっ・・て、また来たのか、八郎!」 歳三がそう言って八郎を見ると、彼は焼き立てのアップルパイを頬張っていた。「だって、トシさんが作るアップルパイ、美味しいだもん!」「あなた、只今帰りました。」「お帰り、千鶴。」「伊庭さん、いらっしゃい。後でシナモンクッキーを焼いて差し上げますね。」「やったぁ!」「千鶴、いつの間に八郎と仲良くなったんだ?」「ふふ、それは秘密です。」(何だか気になるな・・) そんな事を思いながら歳三が厨房で店の仕事をしていると、店のドアベルが鳴った。「いらっしゃいませ。」「久しいな、千鶴。」 そう言いながら店に入って来たのは、かつて千鶴を苦しめた帝だった。「てめぇ、何しに来やがった!?」「誰かと思ったら、あの時の狐か。」 蛇のような冷たい目をしながら、帝は歳三を見た。「退け、余は千鶴に用がある。」「帰れ!」 歳三は塩が入った瓶を掴むと、その中身を帝にぶち撒けた。「また来るぞ。」「二度と来るな!」 帝が店から去った後、千鶴は床に蹲って震えていた。「千鶴、大丈夫か!?」「わたし、わたし・・」「暫く店を閉めよう。」 歳三はそう言うと、千鶴の背を優しく撫でた。「主上、どちらへ行っていらしたのですか?」「そなたには言えぬ所だ。」「まぁ・・」 帝の帰りを待っていた明子は、そう言って笑った。「それよりも明子、余が留守にしていた間に、何かあったか?」「いいえ。」「そうか。」 寝室へと消えてゆく帝の背中を、明子は静かに見つめていた。「明子様、お呼びでしょうか?」「あの九尾の狐が今何をしているのか探れ。」「へぇ・・」 明子は金が詰まった袋を式神に手渡した。「頼んだぞ。」 式神は明子に深く頭を下げると、煙のように掻き消えた。(さて、これからどうしようか・・) 帝が、“華カフェ”に来店してから、千鶴は床に臥せるようになった。「千鶴、大丈夫か?」「ありがとう、あなた。」「余り無理をするな。」「はい・・」 歳三が店の前の道路を掃いていると、そこへ一台のリムジンが停まった。「見つけたぞ、九尾の狐。」「お前ぇは・・」「共に来て貰うぞ。」 リムジンから降りた女は、そう言って氷のような瞳で歳三を見た。「今更俺に何の用だ?」「それは今から話す。」 謎の女に半ば拉致されるようにリムジンに乗せられた歳三が彼女と向かったのは、銀座にある高級テーラーだった。「俺をこんな所まで連れて来て、どういうつもりだ?」「さぁな。」「あなた、浮気しましたね?」「ひぃ!」 ゆらりと、自分の背後に幽鬼のように立っている千鶴を見て、歳三は情けない悲鳴を上げた。「お前・・」「さぁ、あなた・・お覚悟・・」「そなたが、狐の嫁か?安心せよ、そなたの夫には手を出さぬ。」にほんブログ村
2022.11.11
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 歳三が振り向くと、そこには左目に眼帯をした一人の少女が立っていた。 黒を基調とした、白いレースがふんだんに使われたドレスを着た少女は、敵意に満ちた視線を歳三に向けた。「すいません、お手洗いが何処なのかわからなくなって・・」「トイレならあっちだ。」「ありがとうございます。」 歳三は少女に礼を言うと、そのままその場を後にした。(危なかったぜ、あの娘、人間じゃないな。)「静、ここに居たのか。」「兄様。」 少女―静は、そう言うと男を見た。「こんな所に居たのか。随分探したぞ。」「申し訳ありません。変な女がこの船を探っていたので・・」「変な女?」「はい。長い黒髪の女です。」「そうか。」 静の兄―游也は妹を連れてパーティー会場へと戻った。「静、あの女で間違いないか?」「はい。」「あの女は九尾の狐だ。」 歳三はグラスワインの銘柄を見る振りをして、先程の少女が自分に近づいて来ている事に気づいた。「八郎。」「どうしたの、トシさん?」「あの黒いドレスの娘、間違いねぇ、あいつは鬼だ。」「えぇ!」「声がデケェ。甲板へ移動するぞ。」「う、うん・・」 ジリジリと自分達の方へと迫る鬼の兄妹を、歳三は甲板へと誘き寄せた。「狐が、この船に何の用だ?」「この船で開かれる“秘密”のパーティーとやらを知りたくて、ここに来たんだよ。」「お前達は招待していない。さっさとここから去れ。」「そうかい、わかったよ!」 歳三はそう叫ぶと、炎を二人にぶつけた。「ギャァァ~!」「静!」「八郎、今の内にずらかるぞ!」「え、海に飛び込むの!?」「あぁ、お前泳げるだろ、だったら飛び込め!」「わかったよ!」 八郎はそう叫ぶと、スーツ姿のまま海に飛び込んだ。 春先とはいえ、海は荒れていて氷の様に冷たい。「ひぃぃ~、死ぬかと思った。」「生きているから大丈夫だろ。」 歳三はそう言いながら、海水で濡れたドレスの裾を絞った。「ねぇ、これからどうする?車、港に置いて来ちゃったし・・」「さぁな。」歳三と八郎がそんな事を話していると、そこへ一台のリムジンが通りかかった。「歳三、乗れ。」「助かるぜ、兄貴。」「礼は風間さんに言うんだな。」「また会えたな、薄桜鬼よ。」 そう言って歳三と三郎に向かって笑ったのは、風間千景だった。「港に置いていた貴様らの車に、GPSを仕掛けておいた。その車が港から動かないので匡人に電話したのだ。」「へぇ・・」「それで、貴様ら腹は減っているか?」「確かに、パーティーでは何も食べなかったからな。」「中華街、中華街!」 千景達が向かったのは、コロナ禍では珍しい二十四時間営業のラーメン店だった。「へいお待ち!」「ここの味噌ラーメンは美味いぞ。」「そうか・・って、端から汁を飛び散らしてんじゃねぇ!」「細かい事は気にするな。」「気にするよ!あ~、また汁飛ばして!これ絶対シミになるだろうが!」「・・歳三は、風間さん相手にはいつもあんな感じなのか、八郎君?」 匡人がそう言って八郎を見ると、彼は泣きながらラーメンを啜っていた。「礼など要らぬ。」 歳三は店の前で千景達と別れ、店の中に入ろうとした時、中から奇妙な音が聞こえて来た。(何だ?) 恐る恐る歳三が厨房の奥を覗くと、そこには柳葉包丁を研いでいる千鶴の姿があった。 歳三は忍び足で自室に向かったが、ベッドの上に千鶴が正座して待っていた。「お帰りなさい、あなた。」「千鶴、ただいま・・」「浮気、しましたよね?」「あ、あれは・・」「今回は許します。でも、次はありませんよ。」「はい・・」 桜の季節が終わり、GWに突入した。 SNSの影響もあってか、“華カフェ”は連日賑わっていた。「コロナ禍でこんなに入るなんて、珍しいですね。」「あぁ。」 そんな中、ある事件が起きた。「おい、この店は酒出さないってどういう事だ!」「お客様、それ以上騒がれますと警察呼びますよ?」「ひぃっ!」にほんブログ村
2022.08.15
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「ねぇ、聞いたかい?」「女将さんが死んで、これからどうなるか・・」「泥船に乗って沈むのはごめんだよ。」 女将・恵美の告別式から数日も経たぬ内に、経営不振の為“神無月楼”は倒産した。「皆さん、短い間でしたがお世話になりました。」「豊さん、元気でね。」「あぁ・・じゃなかった、はい!」 “神無月楼”の前で従業員達と別れた歳三は、キャリーケースを引いて近くのバス停へと向かった。「ったく、早くこのド田舎から出て行きてぇな。」 歳三がそう言いながらバス停のベンチに座っていると、そこへ匡人が運転している車が停まった。「待たせたな。」「わざわざ東京までご苦労さん。」「詳しい話は車の中で聞こうか。」 歳三は東京へと向かう車の中で、匡人にダムで因縁の相手と千年振りに再会した事を話した。「そうか。」「あいつを八つ裂きにしてやりたかったが、あいつの澄ましたツラを傷つけてやっただけでもスカッとしたぜ。」「そうか。」「向こうで何か動きはあったか?」「ない。あぁそうだ、あの男が載っている。」 匡人が歳三に渡したのは、経済誌だった。 そこには、あの男のインタビュー記事が載っていた。「“カフェ界の寵児”、ねぇ・・」「東京に戻ったら、色々と忙しくなりそうだな。」「ええ。」 東京に戻った歳三は、千鶴と共に再び店を切り盛りするようになった。「いらっしゃいませ。」 最近“華カフェ”は、桜が満開になった季節を迎え、連日ほぼ満席の状態となっていた。「はぁ、疲れた。」「トシさ~ん!」「またてめぇか、八郎?」 ランチタイムが終わって一段落着いた歳三と千鶴が遅めのランチを食べていると、そこへ八郎がやって来た。「トシさん、僕の分のランチは?」「あなたの分のランチは、ありませんよ。」 千鶴はそう言うと、研いだばかりの柳葉包丁を八郎に向けた。「落ち着け、千鶴!」「びぇぇ~、トシさん!」「夫から離れなさい、この・・」「びぇぇ~!」 歳三は千鶴に揉みくちゃにされながらも、何とか遅めのランチを終えた。「はいトシさん、スイーツ!」「要らねぇよ。」「まぁ、これは最近人気のスイーツですね。三人で仲良く頂きましょう。」「そうだな・・」「ねぇトシさん、最近あのカフェのオーナーが変な事をしているよ。」「変な事?」「最近、このクラブで“秘密”のパーティーを開いているよ。」 八郎はそう言うと、タブレットを歳三に見せた。 そこには、色とりどりの仮面をつけた男女が集まるパーティーの写真が映っていた。「何かありそうだな・・」「パーティーは毎週金曜日の夜十時に横浜港から出港する船で行われるそうだよ。」「へぇ・・」「という訳で、僕と一緒に行こう、そのパーティーに。」「は?」 こうして、ひょんな事から歳三は八郎と共に横浜港へと向かった。「寒い。」「まぁ、春先だからね。」「八郎、そのパーティーにあいつは来るのか?」「さぁね。」 八郎はそう言うと、歳三と肩を組み、スマートフォンで写真を撮った。「インスタにアップしようっと!」「やめろ!」 歳三は慌てて八郎を止めようとしたが、遅かった。「・・後で、“お仕置き”ですね。」 千鶴はそう言うと、何台目かのスマホを静かに握り潰した。「ようこそいらっしゃいました。」「仮面はつけねぇのか?」「はい。今回は、特別なパーティーなので。」「へぇ・・」 そう言った歳三は、あの男の気配を船室の奥から感じ取った。「どうしたの?」「何でもない。」「そう。」―“あの娘”は、どうしている?―それが・・(“あの娘”って、誰だ?)「おい、お前そこで何してる?」にほんブログ村
2022.04.13
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「まぁ、初対面の方にそんな事言われるなんて、初めてですわ。」 歳三はそう言って自分に話し掛けて来た仲居を見た。「ここは、訳有りな人達が集まっている宿なんだよ。板長の友さんは、元ヤクザだし。」「へぇ、そうなんですか。最近、ここで働いている人達が次々と消えていっているのは・・」「それは、わからないね。人事は、女将さんが仕切っているからね。」「へぇ~」「あんたは見た所、素人でもなさそうだから・・ここからすぐに追い出されないだろうね。」 旅館の仕事は、歳三が思っていたよりも重労働だった。「あ~、疲れた。」『あなた、お仕事お疲れ様です。』「千鶴、一人で店番させて済まねぇな。」『いいえ。それよりもあなた、浮気していませんよね?』「あぁ・・」『浮気したら、どうなるかおわかりですね?』 スマホの画面越しでも、千鶴の妖気が歳三にはわかった。「わかっているよ・・」『お仕事、頑張ってくださいね。』(おっかねぇな・・まぁ、そういうところが好きなんだがな。) これが惚れた弱みか、歳三がスマートフォンを自分のロッカーにしまっていると、そこへ仲居の桂子さんがやって来た。「ねぇ豊さん、今夜カラオケにでも行かない?」「え~、いいんですか?」「いいのよ~、今日は、あんたの歓迎会なんだからさ。」「うわぁ~、嬉しい!」 歳三が旅館に潜入してから数日後の夜、彼の歓迎会が旅館内のカラオケラウンジで行われた。「あ~、美味しい!」「豊さん、あんたはここへ来る前、何をしていたんだい?」「う~ん、わたし実は、付き合っていた男に騙されて、借金取りから逃げて来たんです。」「そりゃ、大変だったね。」「ええ・・」「さ、飲みな!」「ありがとうございます~!」 歓迎会の後、歳三は恵美の部屋へと向かった。 そこには、誰も居なかった。 歳三は、恵美のパソコンを起動させたが、従業員名簿を見る為にはパスワードが必要だった。(クソ、用心深い女だな。) 歳三が部屋から出ると、廊下から彼女がやって来るのが見えたので、彼はとっさに狐へと姿を変え、近くの縁の下へと逃げ込んだ。「女将、桂子です。」「どうした?」「実は、折り入って話したい事が・・」「入りな。」 恵美がそう言って桂子を睨みつけ、自分の部屋へと招き入れた。「“例の娘”ですが・・」「見つかったのかい?」「いいえ・・」「そう。下がりな。」 恵美はそう言って舌打ちすると、誰かに電話を掛けていた。『“あの娘”は見つかったのか?』「いいえ、まだ・・」『早く見つけ出せ。もう時間はないぞ。』「かしこまりました・・様。」(女将の裏には、黒幕が居るって事か。暫く、女将の周りを探ってみるか。) 数日後、歳三は恵美が車で、一人で出掛ける姿を見た後、彼女を尾行した。 彼女が車を停めたのは、“自殺の名所”とされるダムの近くだった。「申し訳ございません・・」「全く、お前には失望したよ。」 冷たい男の声が聞こえた後、恵美の絶叫がダムの方から聞こえて来た。 そして、ダムは不気味な静寂に包まれた。「隠れていないで出て来い。」「その声・・やはりてめぇか。」「九美の狐か、千年振りだな。」 そう言って口元に笑みを浮かべた男は、かつて千鶴とその腹の子の命を奪った天敵だった。「お前ぇは・・」「ここへ来た事だけは、褒めてやろう。」「てめぇだけは、許せねぇ!」 歳三はそう叫ぶと、巨大な“気”を男にぶつけた。「くっ・・」 男は、顔に傷を受けるとそのまま姿を消した。(これから、楽しくなりそうだ。)にほんブログ村
2022.03.21
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「おい待て、俺がいつそんな事を言った!?」「百五十年前だよ。」「そんな昔の事、憶えている訳・・」「あなた、わたしというものがありながら、浮気を・・」 背後から凄まじい殺気を感じて歳三が振り向くと、そこには研ぎ終えたばかりの柳葉包丁を握り締めた千鶴が立っていた。「ち、違うんだ・・」「トシさん、誰なのその女!?僕の事は遊びだったのね~!」「二人共、落ち着いて・・」「あなた、こんな男に誑かされるなんて・・」「トシさんは、僕のだぞ~!」 八郎と千鶴が繰り広げるカオスな修羅場は、その後小一時間も続いた。「それで、俺に話ってなんだ?」「実は、このカフェを調べて貰いたいんだ。」 匡人がそう言って歳三に見せたのは、一軒のカフェのチラシだった。「へぇ、新しくオープンしたカフェねぇ・・別に珍しくも何ともねぇが・・」「実は、このカフェにアルバイトとして雇われた若い娘達が次々と姿を消している事が判ってな。そこで、お前に潜入捜査をして貰いたい。」「は?」「まぁ、わたしが潜入捜査ならいいのですが、何故旦那様が?」「そのカフェのオーナーは、お前を死に追いやろうとした帝の生まれ変わりなのだ。」「まぁ・・」 千鶴は驚きの余り、持っていた食器を盆ごと落としそうになった。 彼女の脳裏に浮かんだのは、自分の子の命を奪った男の冷たい笑みだった。 千年の時を経て、あの男と再び会う事になろうとは思わなかった。「安心して下さい、千鶴さん。あなたをあの男に絶対会わせませんし、させません。」「わかりました・・」「トシさん、安心して!トシさんの事は、この僕が守るよ!」「お、おぅ・・」「あなた、浮気したら、殺しますよ?」「は、はい・・」 こうして、歳三は若い娘達が行方不明になっているカフェに匡人が運転する車で向かった。「それで、このカフェの経営者はどんな奴なんだ?」「何でも、この町の有力者一族の息子だそうだ。それ以上は知らない。」「そうか・・」 やがて、匡人が運転している車は、山間にある温泉町の中へと入った。 コロナ禍もあってか、週末だというのに観光客の姿は余り見かけなかった。「ここだ。」「へぇ、立派なもんだな。」 匡人と共に車から降りた歳三は、カフェがある建物の中へと入った。 その建物には、“神無月楼”という立派な看板が掲げられていた。―ねぇ、聞いたかい?―また新人が来たんだってさ。―命知らずもいい所だね。「お前達、こんな所で油を売って何をしているんだい?」「ひっ・・」「も、申し訳ございません!」「まったく、最近の子はすぐにサボりたがろうとするんだから・・」「恵美、新人の面接を頼む。」「あいよ。」 “神無月楼”の女将・恵美は、そう言うと新人が待っている事務所へと向かった。 そこには、紫色の小袖姿の女性と、彼女の夫らしきスーツ姿の男が座っていた。「へぇ、この子が・・」「ここで働かせて下さい!」「あたしは、不細工と怠け者が大嫌いなんだ。でも、あんたは骨がありそうだからね。」 恵美はそう言うと、口端を上げて笑った。「女将さん、よろしいんですか?あの子、素人じゃありませんよ。」「それがどうしたんだい?あたしが雇うって言っているんだから、誰にも文句は言わせないよ。」「は、はいっ!」(さぁて、これから面白くなりそうだね。)「本当に、一人で大丈夫か?」「あぁ。それにしてもあの女将、何処か臭うな。」「お前の嗅覚の鋭さは昔から変わっていないな。」「人を犬扱いするんじゃねぇ!」「まぁ、ここはカフェと旅館を営んでいるようだから、言葉遣いには気をつけろ。」「わかったよ!」「何かあったら、この番号に掛けてくれ。」「あぁ。」 匡人が去った後、歳三はキャリーケースを引きながら従業員用の独身寮に入った。「みんな、今日からここで働く事になった豊さんだよ。仲良くしておくれね。」「はぁ~い!」「じゃ、後は頼んだよ。」 恵美が独身寮の部屋から去った後、一人の仲居が歳三の元へと駆け寄って来た。「あんた、ここに来たって事は訳ありかい?」にほんブログ村
2022.01.10
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 千年前、京で悪逆の限りを尽くしていたその鬼の名は、風間千景といった。 彼はかの酒呑童子、茨木童子と並ぶ“三大鬼”の一つで民話の中で人々に言い伝えられてきたが、千景にとってあの鬼達はただの雑鬼に過ぎなかった。 千景を封印したのは、土方匡人―妖狐を異母弟に持つ、陰陽師だった。『お前は、そのまま眠っていろ!』 封印された時の事は、千年経っても忘れられない。 人里に下りる前、千景は美しく澄んだ鏡のような水面で己の姿を映すと、溜息を吐いた。 千年前の装束のままだと、変な輩に絡まれてしまうかもしれぬ―聡い千景はそう思うと、“人”の姿へと変わった。 紫のフロックコートと揃いのスーツ姿を見て満足した彼は、そのまま森を去っていった。「人が沢山居ますね!」「まぁ、今の季節は紅葉が映えるからなぁ。」 会津若松駅へと降り立った歳三と千鶴は、タクシーで飯盛山へと向かった。 昨年会津藩を舞台にした大河ドラマの影響なのか、飯盛山周辺は観光客で溢れ返っていた。「今年も、来ましたね。」「あぁ。」 線香を自刃した少年達の墓前に供え、彼らの冥福を祈った歳三は、かつて彼らと戦った日々の事を思い出していた。 あの頃、歳三は“土方歳三”という新選組副長の魂として生きていた。 いつの世も、人は些細な事で戦をする。 だが、あの頃―幕末に生きた頃の記憶は、千年前のそれよりも鮮やかに思い出せる。「あぁ、これは・・」「あなた?」 白虎隊資料館の中で、千鶴は夫がある展示物の前で立ち止まった事に気づいた。 それは、会津藩降伏の時に旧会津藩士達が悲しみの涙を流しながら切り取ったとされる緋毛氈だった。「帰ろうか。」「はい・・」 その日の夜、千鶴は宿泊先のホテルの部屋で、夫がうなされている事に気づいた。「あなた、どうかなさったのですか?」「逃げろ・・早く・・」 そう言った夫の額には、汗が浮かんでいた。 そっと彼の手に触れると、そこは燃えるように熱かった。(いけない・・) 千鶴は己の霊気で、歳三の熱を下げた。「風邪ですね。お薬出しときますから、安静にして下さいね。」「はい・・」 熱に浮かされながら、歳三は夢にうなされていた。 血と硝煙が立ち込める戦場で、彼は戦っていた。『土方君、我々は仙台へ向かう。』『それは、会津を見捨てるって事か?』『会津の降伏は、時間の問題だ。我々の戦いは、まだ終わっていない。』 会津から仙台、そして箱館へ・・歳三は、最後まで戦った。 そして―「あなた、大丈夫ですか?酷くうなされていましたよ?」「悪い夢を見ていた・・」「わたし達は、長く生き過ぎた分、色々と辛い思いをしてきましたね。でも、“彼ら”の生き方は間違っていないと思います。」「そうか・・」「あなた、ゆっくり休んで下さい。」「わかった・・」 歳三は、妻の言葉を聞いて安心した後、静かに寝息を立て始めた。「ほぉ・・九美の狐と鬼の夫婦とは珍しい。」「何者ですか?」 この部屋には結界を張っているというのに、それをいともたやすく破るとは。「俺はお前と同族だ。」「では、あなたが・・」「そうだ、俺はお前の夫の異母兄に封印された鬼だ。」「わたしに、何かご用ですか?」「いや。ただ、挨拶をしに来ただけだ。」 鬼はそう言うと、そのまま部屋から消えていった。 翌朝、歳三の熱は下がった。「心配かけて、済まなかったな。」「いいえ。」 東京へと戻った歳三達が帰宅すると、そこには彼らの“家”を守っていた狐達がやって来た。“お帰りなさいませ。”「ただいま。」「留守中、何も変わった事はなかった?」「はい。」「失礼致します。歳三様に、お客様がいらっしゃいました。」「客?こんな時間にか?」「邪魔するぞ。」「あ、兄上・・」 カランとドアベルが鳴り、中に入って来たのは、歳三の異母兄であった匡人だった。「どうして、ここがわかったかって?君の友人が、わたしをここまで案内してくれたのさ。」「トシさ~ん、会いたかったよ!」 そう言って歳三に抱きついて来たのは、伊庭八郎―伊庭家の御曹司だった。「お前ぇ、どうして・・」「トシさんに会いに来たかって?トシさんを、抱きに来たからに決まっているじゃない!」 八郎の爆弾発言に、歳三は飲んでいた茶を思わず吹き出しそうになった。にほんブログ村
2021.11.08
※BGMと共にお楽しみください。「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 止まない雨の中、一人の幼女は両腕に傷ついた狐を抱えていた。―まぁ姫様、黒い狐など不吉な・・―いけません、元の場所に戻していらっしゃい。「嫌です、今日からこの子はわたしの家族です。」 女房達や母親がそう宥めても、千鶴は頑として狐を離そうとしなかった。 結局、彼らは根負けして黒い狐を家族として迎えた。「これからは、ずっと一緒だからね。」 千鶴の声に答えるかのように狐は嬉しそうに鳴いた。 やがて時は過ぎ、千鶴は裳着を済ませ、入内する事になった。「父様、この子も連れて行っても良いですか?」「ならぬ。妖を宮中へ連れて行く事は出来ぬ。」「わかりました。」 千鶴は入内前夜、狐にこう告げた。「ごめんね、また一緒に暮らそうね。」 狐は、悲しそうに鳴いた。 その後、狐は彼女の帰りを待ったが、半年経っても、彼女は帰って来なかった。 入内して一年経った頃、彼女は帰って来た。 大きな腹を抱えて。「ここにね、新しい家族が居るの。」「まぁ、めでたい事。」「元気な御子を産むのですよ。」「はい、父上。」「何だか、すっかり大人になったな。“父様”とお前が呼んでくれた頃が懐かしい。」「まぁ・・」 千鶴は、元気な男児を産んだが、その子は何者かに毒を盛られて死んだ。 悲しみの余り、千鶴は床に臥せた。「大丈夫よ、きっと良くなるわ。」「ごめんね・・あなたを独りにしてしまう。」 狐は、悲しそうに鳴いた。“死なせない” 狐は霊力を使い、自分の“気”を千鶴に分けた。 すると、彼女の黒髪はたちまち美しい銀色へと変わっていった。「姫様!」「一体これは・・」「今まで、隠してきたというのに・・」「黒い狐の所為だ!」「黒い狐を殺せ!」“やめて!” 眠っていた筈の千鶴が目を覚まし、狐を殺そうとした男達の矢を阻んだ。「千鶴、貴様!」「この子は、わたしの家族よ!」「黙れ、この役立たずが!」 激昂した千鶴の父親は、千鶴の頬を平手打ちした。「お前など、もう娘ではない!その不吉な狐と共に消えるがいい!」「父上・・」“そうかい、ならばこの娘、貰い受けるぜ。” 黒い狐はそう言うと、人の姿へと変化した。「漸く会えたな、我が妹(つま)よ。」 こうして、千鶴と狐―土方歳三は夫婦となった。 歳三は、一族を追放された妖狐だった。「ん・・」「あなた、起きて下さい。」 歳三が目を開けると、そこには心配そうな顔をして自分の顔を覗き込んでいる千鶴の姿があった。「どうされたのですか、酷くうなされていましたよ?」「昔の事を、思い出していたんだ。」「まぁ。」「なぁ千鶴、俺達が夫婦となってもう千年か・・」「えぇ、そんなに経ちますね。」「千年、か・・俺達妖にとっちゃ、あっという間の事だが、人の世は変わっちまうものだなぁ。」「そうでしょう。わたくしは、あなたと夫婦になったのは運命だと思っております。」「・・そうか。」 歳三はそう言うと、千鶴を抱き締めた。「土方さん、斎藤です。」 烏天狗の斎藤一は、そっとドアを開けて部屋の中に入った。「何かあったのか?」「はい。会津の方で、何やら不穏な気配を感じて様子を見に行った所、封印された鬼が・・」「厄介な事になったな・・」「あなた、行くのですか?」「あぁ。」「では、わたしも参ります。」「わかった。」 こうして二人は、会津へと向かった。 その会津では、千年封印されていた鬼が、覚醒めようとしていた。「千年振りか、待ちくたびれたぞ。」 膝裏まである銀髪をなびかせながら、その鬼は破壊された洞穴の外へと出た。「さて、人里へと下りてみよう。」 鋭い牙を覗かせながら、鬼はそう呟くと笑った。にほんブログ村
2021.11.03
「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。「はぁ・・」 仕事が終わり、会社を出たのは午後十時。 定時で帰るつもりだったのに、急に上司から仕事を押し付けられて、こんな時間まで残業していた。 今の会社に就職したのは、半年前。 大学在学中に必死に就職活動し、卒業と同時に就職してから、ずっと毎日朝九時から夜十時まで休みなく働いている。 食事はたまにコンビニで買う弁当やおにぎり。 偶に安売りスーパーでスナック菓子を爆買いしてはそれを貪り食う日々。(わたし、何の為に働いているんだろう?) ここ半年、仕事に追われてまともに食事や睡眠をとっていない。 その所為で、仕事の効率が下がり、毎日上司から怒鳴られている。 とぼとぼと自宅があるマンションまでの道を歩いていると、突然背後から男の荒い息遣いが聞こえて来た。「なぁ、ヤラせろよ・・」「嫌ぁっ!」 男に押し倒され、必死に助けを呼んだが、人通りが少ないこの場所では無駄だった。 もう駄目だ―そう思った時、突然自分の上に覆い被さっていた男が悲鳴を上げた。 彼の周りには、一羽の烏が旋回し、その鋭い爪と嘴で何度も男の両目を突いていた。「大丈夫か?」「はい・・」 目の前には、山伏のような恰好をした黒髪の美青年が立っていた。「立てるか?」「何とか・・」「行くぞ。」 覚束ない足取りで謎の美青年と共に向かったのは、ポツンと都会の片隅に建っているカフェだった。「いらっしゃいませ。」「土方さんを呼んでくれ。」「かしこまりました。」 二人を出迎えたのは、着物の上にエプロンを着けたおかっぱ姿の店員だった。「あら、どうしたの?」 とんとんと軽い足音が聞こえたかと思うと、美しい銀髪金眼の女性が二人の前に現れた。「千鶴様、お久しぶりです。」「まぁ斎藤さん、お久しぶり。あなた、酷い格好をしているわね。」「はは・・」 確かに、わたしの格好は泥だらけのスーツに破れたストッキング、折れたパンプスといった酷い有様だった。「こちらへいらっしゃい。そんな格好では出歩けないでしょう?」 女性はそう言うと、自分の部屋へとわたしを連れて行った。 そこには、美しい柄の帯と着物が広げられていた。「あの、みんな高級な物みたいだから、わたしには似合わないかも・・」「いえ、そんな事はないわ。あなたには、あなたにしか持っていない良さがある筈よ。」「はぁ・・」 女性にぐちゃぐちゃだった髪を黄楊の櫛で梳かれ、薄化粧をして貰った。 化粧なんて半年もしていないし、髪もぐちゃぐちゃのままだった。「これが、わたし?」「あなたは、生きる事に疲れているのでしょう?」「え・・」「千鶴様、失礼致します。」 コンコンとノックの音が聞こえたかと思うと、一階に居た店員が部屋に入って来た。「はい、これ。」 女性がそう言ってわたしの前に置いたのは、美味しそうな市松模様のクッキーだった。「頂きます。」 わたしがそのクッキーを一口食べると、たちまち口の中で程よい甘さが広がった。 五臓六腑にしみわたるとは、まさにこの事だ。「これは、幸せを呼ぶクッキーよ。あなたに、幸運がありますように。」 その後わたしは、一階で久しぶりにまともな食事をとった。「美味しい・・」「お代は要らないわ、気を付けて帰ってね。」「はい・・」「ありがとうございました。」 翌日出社すると、いつもわたしに仕事を押し付け、怒鳴って来る上司はいつの間にか居なくなっていた。「○○さん、どうしたんだろうね?」「あの子、S部長との事が奥さんにバレて、その上会社にもバレてクビだってさ。」「自業自得だね。」 会社からの帰り道、わたしはひっそりと都会の片隅に佇んでいる神社の前を通った。 わたしは賽銭箱に十円玉を入れ、神様にお礼を言った。“ありがとうございました。” 風に乗って、何処かで聞いたような声がした。「行ったみてぇだな。」「はい。」 去り行く女性を見つめていたのは、昨夜彼女が会った銀髪金眼の女性と、銀髪紅眼の男性だった。「では行きましょうか、あなた?」「あぁ。」 この二人は、平安の世から夫婦として長年連れ添って、令和の世ではある商売をしながら生きてきた。 チリン「ようこそ、華カフェへ。」にほんブログ村
2021.11.02