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翌朝、宿屋を後にした私達は早速船着き場へと向かって、アルカダ大陸はリーリエへと向かう船へと乗船したんだけど、朝船に乗った時は天気も良かったのに船が進むにつれてだんだんと天候が悪くなり、ついには嵐になってしまった。
「まさか海が大荒れになるなんて思ってもなかったぜ、これちゃんとアルカダに着くのか?」 「まぁ、海や山の天気は変わりやすいと言いますし、すぐによくなりますよ」 「そうですわよ、それでなくてもそんな不吉な事を言うのはタブーですことよ?」 「まぁまぁ、これも旅の一つの思い出になると思えば・・ね?」 私達は特にやることもなく、船室でのんびりと過ごしてたんだけど、その時アセトが急にこんな事を訪ねてきた。 「そういえばセラ、アルカダ大陸に着いたらまずはどこへ行かれるつもりですの?」 「ん~・・そうだねぇ、まずは島の中央にあるジブリール帝国を治めるキュロス城へ行こうかな?って思ってるよ」 「キュロス城ですわね、それでしたらリーリエから南東に歩けば着きますわね、特に道中危険な場所もなかったはずですわ」 「そう言えばアセトはアルカダ大陸出身でしたね、それでしたらアルカダ大陸での道の先導をお願いしてもいいですか?」 「任せて下さいまし♪」 アセトはそう答えながら豊満な胸を前に張りポンと叩く。 アセトが叩いた事によって、激しく揺れるその胸に私達の目はくぎ付けになってしまう。 「なぁアセト、気になってたんだがよ、何を食ったらそんなに大きくなんだ?」 「うんうん、私も気になるし、是非教えて欲しいよ・・」 「別にこれと言って何もやっていませんわよ?気付いたら勝手に育っていただけですもの。それに大きいからと言って別段良い事なんて何もありませんわよ?それどころか、殿方の視線もそこにばかりいきますし、肩も凝って大変な事の方が多いですわ」 はぁ・・と、大きくため息をついてから肩をトントン、と叩くアセトに対して 「アセト・・いらないというのでしたら、私が特別にこのナイフで切り取ってさしあげますけど?」 携帯用の小型ナイフをとりだし、目を座らせたミハイルがじりじりとアセトの方に近寄って行く。 「け、結構ですわ!!」 両腕で胸を押さえるように隠し、後ろにずるずると後退するアセトだったけど、ドン!と、壁にぶつかり退路を断たれる。 「まぁまぁ、別に胸の大きさだけが全てじゃないよ・・皆にはそれぞれ良い所があるんだしさ、それでいいんじゃないかなぁ」 「それもそうですね・・私とした事が失礼しました」 手に持ってた小型ナイフを鞄にしまうミハイルを見て、私達はホッと一息、よ、よかったよ・・・・ここで何か事件が起こったら迷探偵セラフィムちゃんの出番になるところだったよ・・ じきに嵐も過ぎて再び船が動き出した。私達は船室から甲板に出るとリーリエに着くまで潮風に吹かれながらそこでのんびりと過ごしたのだった。 突然の嵐に見舞われてリーリエへの到着が数刻遅れ、朝一で船に乗ったにもかかわらずすでに夕刻。 「くぁ~・・やっと着いたぜ」 「予定よりも少し遅れてしまいましたね、今日はここで休んで出発は明日にしましょう」 私達はミハイルの提案に賛成して宿屋へと向かおうとしたんだけど、そこへ更にミハイルは言葉を付け足す。 「アセト、絶対に酒場へ行ってはダメですよ?」 「お、おほほほほほ・・何のことやら、わたくしがそんな毎回飲みにいくと思いでして?」 何やら冷や汗をダラダラとたらしながらそう言うアセトを見てると図星をつかれた、っていうのが目に見えるよ・・・・飲みに行く気だったんだね・・ 「流石に前回の事もあるし、酒場へ行くのは許可出来ないけど、宿屋の部屋で少しだけ飲むくらいなら別にいいかなぁ」 「そうだな、そこでなら私達の目もあるし、ほどほどの所でやめさせればいいしな」 「わかりました、セラとクレッシルがそう言うのでしたら、宿屋のルームサービスを使う事は許可します、ですが飲み過ぎてはダメですよ?」 「セラ・クレッシル、愛してますわぁ♪」 パァっと笑顔を作り、私とクレッシルに対して投げキッスをしてくるアセト。あはは・・これで、よかったんだよ・・・・ね? 翌朝、私達は宿屋を後にしてキュロス城へ向けて歩き出したんだけど、その途中でアセトが何かを見付けたようで「あら、あれは?」そう言って、草むらの方に向かって駆け出していった。 「どうしたのアセト?何かあったの?」 私達はアセトについてその場まで行き、しゃがみ込んだアセトの方を覗きこんでみるとそこには全身傷だらけの人が倒れていた。 倒れてたのは、褐色の肌に尖った耳を持ったショートカットの少女、パッと見私達より歳下に見えるよ。 その場に倒れてるから、もしかしたら死んでるのかも、と思ったけどどうやら息はまだあるみたい・・ 「ダークエルフの子供ですね、どうしてこんな所で・・」 「それよりもひどい怪我だよ!治してあげなきゃ!!」 私は傷ついて倒れてるダークエルフの子を抱きかかえ、ケアを唱えてみたんだけど、傷が深すぎるのか、私の回復魔法じゃちっとも効果がないように見える。 「私の魔法じゃダメみたい・・アセト、お願いしてもいい?」 「わかりましたわ。光の精霊たちよ、シジルの名の元命じる、傷つきし者に癒しの力を・・ケア2!」 アセトの回復魔法を全身に受けると、見る見るうちに傷は癒えていき、ダークエルフの子は目を覚まし私達を見るとバッと起きあがって、ぺこりと頭を下げてくる。 「あの・・お姉さん、ありがとうございます」 「いえいえ、お気になさらないで。わたくし達が偶然ここを通りかかってよかったですわね」 「それよりもあんた、どうしてこんな所で倒れてたんだ?」 「はい、実は私、長の命を受けてジブリール帝国にお使いに来てたんですけど、その帰り道で魔物に襲われてしまいまして・・何とか逃げ切ったんですけど、その時に受けた傷がひどかったみたいで・・」 こんな小さい子にお使いを頼む長って……もしかしてドS!?あ、でもでも、エルフって確か普通の人間より長命だって聞くし、こんな幼い姿でも私達より年上だったりして・・ 「それで、そのお使いの品は無事だったんですか?」 ダークエルフの子は肩から提げてた鞄をごそごそとあさりだし、その中から何やら瓶のようなモノを取り出し、それが無事だとわかると安堵の息を漏らす。 「はい、無事みたいです。よかったぁ、これがないと儀式が出来ない所でしたぁ」 アセトはその子が持っていた瓶を見ると、いつも眠たそうにしてる半開きの目を大きく見開いて驚き声を上げる。 「そ、それは!!伝説の焼酎と言われてる森正宗じゃありませんの!?」 「はい、毎年この時期になると城下町の酒屋さんに無理言ってとり置きしてもらってるんです」 「これってそんなに凄いお酒なの?」 「凄いってレヴェルじゃないですわよ!!年間50本しか生産されなくて全然手に入らない幻の逸品ですのよ!?確かこれ1本で10万Gはするはずですわ」 じゅ・・10万って・・・・そんな飲んでしまえばすぐになくなってしまうようなものに・・そんな大金払えないよ……あ、でもそんなに高いお酒なら美味しいんだろうなぁ・・ 「あぁ、幻の森正宗が目の前に、す、少しでいいですから味見何てさせてもらえないものですかしら?」 ハァハァ、と息を荒げてじりじりとダークエルフの子に歩み寄るアセト、そんなアセトを見てびくびくと脅えると、その子はお酒を大事そうに両手で抱え私の後ろにサッと身を隠す。 そんなアセトのすらっと長く綺麗に伸びた脚にミハイルは素早くひざ蹴りを加え、侮蔑するような視線で見下ろす。 「そんな目をしながら近寄って何をする気ですか・・この子脅えちゃってるじゃないですか・・それに貴女もそんな大事なモノならいつまでも手に持ってないで早くしまったらどうですか?」 「い、痛いですわ!暴力反対ですわ!!ちょっとした冗談でしたのに・・」 あ、あはは・・さっきのアセトの目は絶対本気の目・・・・だった、よね・・ ダークエルフの子も、ミハイルの言葉を聞くと、慌てて手に持ってたお酒を鞄にしまい、それを確認すると 「さて、それじゃ私達は先を急ぐからこれでね、もう魔物に襲われちゃダメだよ?」 「あぁ、あんたの里まで見送ってやりてぇところだが、私達も先を急ぐからな」 クレッシルはそう言ってからダークエルフの子の頭をわしゃわしゃとなでる。 「はい、本当に危ない所を助けていただいてありがとうございました。このご恩決して忘れません!人間にも良い方がいる、その事を村に戻ったら長にちゃんと報告しますね♪」 ダークエルフの子は可愛らしい笑顔を私達に向けると、そのまま元気よくリーリエの方へと向かって走り出していったのだった。 第13話 魔法大国ジブリール その1.終わり その2.へ続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年08月22日 01時02分23秒
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