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「あら?これで終わりですの?」
わたくしの言葉にグリモアは驚いた様子を見せましたわ(といっても、顔がないので実際にそうなのかはわかりませんけれど) 「おどろいたな、並の人間ならば、ここまでの知識と魔力を一気に入れられただけで廃人同様になってしまうものだが・・そなたにはまだまだ余裕がありそうだ」 「おほほほほ、わたくしは名門シジル家の娘にして世界最強の魔導士ですもの、これくらい余裕ですわ」 「なるほど、そなたであれば、我のすべてを受け入れ、真に我の主となれるやもしれんな。ここからはズィーゲルマギーア(封印魔法)や忘れ去られたフィアゲッセンマギーア(忘却魔法)等の超高等魔法の知識とそれに見合った魔力を注入するぞ」 「始めて下さいまし!」 わたくしの言葉を合図に、再び頭の中に魔法の知識と一緒に魔力が注入されていったんですけど・・ 今までの魔法とは比べ物にならないくらいの情報量にわたくしはそれらの情報をさばくだけで一杯一杯になっていましたわ。更にその上、強大な魔力がわたくしの中に入り込んできて、体を蝕んでいくのがわかる。 「ぅ……あぁぁ・・・・」 すさまじい情報量と魔力の注入に最初は何とか耐えていたのですけど、次第にわたくしはそれに耐える事すら厳しくなってきた。 「く・・苦しいですわ……で、でも・・うぅ……ここ、で・・やめるわけには・・・・」 あまりの情報量、そして魔力にわたくしの体は悲鳴をあげていた。 頭が割れるのでは?と錯覚を起こす程の激しい頭痛に嘔吐感。そして全身を引き割かれそうな程の痛み・・それらに耐えきることが出来ずに、わたくしはその場にペタリと座り込む。 だけど、それでもまだ知識と魔力の注入は終わりを迎えない。 「ぐ・・うぅ……こ、これが・・・・グリモア・・の力ですの……」 もし地獄というのが本当に存在するのならば、これこそ真の地獄なのかも知れませんわね・・終わりのない苦痛、ですけど・・ここで諦めたら・・・・ もうわたくしの体と精神はとうに限界を迎えていたはずですけど、それでも何とか気力を振り絞りグリモアの試練にあらがい続けた。 「あぁあああああああああああああ」 その場にうずくまり全身を襲う激しい痛みに悶えていたその時。1つの単語がスゥっとわたくしの頭の中にダイレクトに流れ込み、その単語が響き渡る。 「ハイ・・リッヒ……ライ・・ト……」 頭の中に響くその単語を最後の気力を振り絞って呟くと、それと同時に知識と魔力の注入が収まった。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 体力、そして精神を消耗しきったわたくしを激しい脱力感が襲う。 息も荒く、その場で衰弱しきったわたくしを空中でフヨフヨと浮かびながら無機質な顔(?)を向け、わたくしが落ち着くのを静かに待つグリモア。 短くない時間を掛けてわたくしが何とか落ち着くと、それを見たグリモアが声を掛けてきた。 「よくぞ我のすべてを受け入れ、そして耐えきった。そなたこそ我の真の主にふさわしい、新たなる主よ、その名を問おう」 「わたくしはアセト=シジル。この世界で一番の魔導士ですわ」 「我の新たなる主シジルよ、そなたは今、この世界で唯一究極魔法ハイリッヒライトの使い手となり、名実ともに世界最高の魔導士になったと言っても過言ではないだろう。そなたのその力と、マルミアドワーズを抜きし者の力が合わされば、世界が闇に閉ざされる事もないだろう。これから宜しく頼むぞ、シジルよ」 そうグリモアが言葉を言い終えると、わたくしの意識は反転し元の世界へと戻って行った。 グリモアの光に飲まれてから1時間弱経ったんだけど、未だにアセトの意識は戻らなかった。もしかして・・このまま……ううん、そんな事考えたらダメだよね・・でも、本当心配だよ・・ その時、グリモアが急にアセトの上にパサリ、と静かに落ちていった。 「グリモアが!?どうやら無事終わったようですね」 目を覚まし、グリモアを手に持って立ち上がると辺りをキョロキョロと見まわすアセト。 「アセト!?無事終わったのか?」 「えぇ、グリモアの試練に耐え、無事新たなる主として認められましたわ」 「おめでとうアセト!これでアセトの旅の目的も達成だね♪」 「ありがとうございますセラ。これでわたくしの当初の目的は達成されましたわ。後はセラ達と共に、マモン、そしてサタナエルと戦い世界に平和を取り戻すだけですわね」 「元々上級魔導士だった所に、タリスマンとグリモアの力を手に入れて、更に一回り大きくなったように見えますね」 「わたくしは今や世界で唯一の究極魔法の使い手、これからはもっと活躍して見せますわ♪」 ミハイルの言葉を聞くと、アセトはそう答えてから、左手を腰に当てて右手を口元に持っていくと上体を大きくそらして「お~っほっほっほっほ♪」何て高笑いを始めたよ・・ だけど上体をそらしすぎたのか、盛大に後ろにバタン!って倒れたよ・・ 「ぶっ!なんでぇアセト。せっかくグリモアの力を手に入れたってぇのに中身は全く変わってねぇじゃんかよ」 「いくら世界最高の魔導士になったとはいえ、わたくしはわたくしですもの、そんな簡単には変わりませんわ」 「やっぱりさっきの一言訂正させて下さい・・・・」 「ともあれ、これでレテ大陸での目的は終わったわけだし、後はセイレーン国に戻ってお兄様と会うだけだね♪今の私達なら、今度は前みたいに簡単にはやられないよね」 「そうですね、無事目的は果たせたわけですし、まずはパンゲアに戻りましょうか」 私達は来た道を戻り禁断の洞窟からパンゲアに戻って、イシリオンさんが待つ家へとやってきたんだけど、彼は本当におどろいたようにして私達を見てきた。 「よもやそなた等がマルミアドワーズに続き、グリモアの主にまで認められるとはな・・その事にただただおどろくばかりだ」 「これもイシリオンさん、アイナノアちゃん2人が協力してくれたおかげだよ♪本当ありがとね」 「我も長く生きてきたが、ここまでの奇跡を見たのは初めてだ。礼を言いたいのはこちらの方だ」 「目的は達成しましたし、いつまでもここダークエルフ達の楽園に滞在し、迷惑を掛けるわけにもいきません。私達はこれにて失礼させていただきます」 「我等の崇めしオーディン、そしてグリモアに認められた者達だ、ここへ滞在しても誰も迷惑には思わんだろう。だが先を急ぐというのであれば、我にそれを止める理由もない、再びこの地へ訪れる事があれば、その時は我等パンゲアに住むダークエルフ全員でそなた等を歓迎しよう」 「へへっ、まさか最初敵対心丸だしだったイシリオンがそう言うなんてな。それだけで十分だぜ」 「それではお父様、私はお姉さん達のお見送りに行ってきます」 「あぁ、皆のモノ、武運を」 アイナノアちゃんに道案内してもらって、私達は自分たちが乗ってきた船の所までやってきた。 「アイナノア、ここレテ大陸に来てからは貴女に助けられてばかりでしたね、本当にありがとう」 「いえ、私も再びお姉さん達に会えてうれしかったですし、それに短い間でしたけど、一緒に行動することが出来て楽しかったです」 「もしまたここに来る事があったら、そん時はまた宜しくなアイナノア♪」 「はい、お姉さん達がまたここへきてくれる時を楽しみに待ってます。その時にはお2人に負けない位、私もボン・キュッ・ボンな素敵なレディになってみせます」 「そうなるのは何十年後になるかわかりませんわね。もしかしたらずっとそのままかもしれませんわよ?」 アセトが、ふふっ、と笑いながら言うとアイナノアちゃんは「そんな事ないもん!すぐにおっきくなるもん!!」何て言ってたよ。何か凄くその光景が微笑ましいモノに思える。 「アイナノアちゃん、本当にありがとね。それじゃ私達行くから」 「はい、また絶対来て下さいね!絶対の絶対の約束ですよ!」 「うん、絶対にまたここに遊びに来るよ♪」 私達はアイナノアちゃんに手を振り船に乗り込んで、レテ大陸からセイレーン国のあるジルオール大陸へと向かって船を出した。 そんな私達をアイナノアちゃんは姿が見えなくなるまで手を振って送り出してくれたのだった。 第28話 グリモアに認められしモノ その2.終わり 第29話 お久しぶり! その1.へ続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年12月05日 00時52分05秒
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