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カテゴリ:作家
あらすじ
悠介は、長野県安曇野の隣、池田町に産まれ、長野高校に進学した。2年の春、写真部の新入生歓迎撮影会で、小平由樹枝に会う。その後、恋人関係になる。3年の夏休み、北海道無銭旅行を遂行。大学の推薦が決まった後、上高地へ出かけ二人は結ばれる。実力試しに受験したW大学に合格するも、M大学に進学する。そして1年が過ぎた。春休み、希望大学に合格した由樹枝が東京に来て、短いが二人の充実した同棲生活を送った。しかし、そのわずか1週間後、矢代美恵子と関係してしまった。 写真はネットより借用 =================================== 高橋を廊下に呼び出し性急に要件を伝えた。 「その女性って、矢代美恵子じゃーないのか?」 「え? どうして分かった?」 悠介は、もう既に同級生の間で噂になっているのかと驚いた。北村以外は知らないはずである。 「ほら、新入生歓迎会の時、北村さんと彼女が寺本の所に来たじゃーないか?」 「あぁ、高橋が席を外したので、どうしてかと思ったよ。」 高橋の話によれば、矢代美恵子について悪い噂を聞いていたと言うのである。それは、男の学生の所に転がり込んで、そこに居ついてしまい、生活費も面倒見て貰うとの事である。まさに悠介が困っているそのものである。 「それは確かか?」悠介は驚いて聞いた。 「いや、噂だよ、誰の部屋に転がり込んだとか、そこまでは知らない。そう言う噂を聞いていたもので、悪かったが、あの時席を外したんだ。」 「だとしたら、俺はまんまと引っかかってしまったようだ。」 その噂はもっと前に聞きたかった。今となっては遅すぎる。美恵子と深い関係、それも1度だけではなく、気は進まなかったが毎晩である。さらに由樹枝への手紙はもう今日、投函されているはずである。どんなに弁解しても分かって貰えないはずだ。美恵子は事あるごとに、深い関係であることを口にだし同棲を強要する。 対策は不十分でも何かせずにはいられない。由樹枝に手紙を書くことにした。返事は、高橋宛に出して欲しいと。内容は、事実を正直に書くことにした。 「酔っ払って意識不明となり気が付いたら自分の部屋で美恵子と寝ていた。出て行って欲しいとどれだけ頼んでも住みついてしまって帰ってくれない。自分自身も大変困っている。必ず別れるので、少しの間時間が欲しい。誓って言うが、自分が愛しているのは由樹枝だけだ。それは分かって貰いたい。」 このような内容にした。封をしてすぐに出した。これで美恵子の手紙と同時か1日遅れで届くことになる。そして手紙が届いても信用しないようにと言う山脇の伝言も伝わっているはずである。 由樹枝は山脇の電話になんだろう? と危ぶみながら出た。山脇と親しい話しをした事がないからである。ただ顔と名前は知っていた。悠介の同級生であったからである。要件は、「変な女性から手紙が届くが信用するな。」と言う事であった。何の事かさっぱり分からない。山脇はそれだけを言って電話を切った。手紙と言えば、悠介から届かないなー、と思っていた矢先である。きっと勉強とバイトに忙しいのであろうと推測していた。春休みの充実した日々が思い起こされ自然と口元に笑みが浮かんでしまうのであった。あれほど楽しく充実した日々が、産まれて来てあったろうか? と思うのである。 翌日、矢代美恵子なる女性から手紙が届いた。いきなり寺本悠介の新しい恋人である、と記載されており、びっくりした。何これ? と思った。まさかそんな事があり得るはずはないと確信している。それから、一緒に住んでいて、毎晩愛していると言われて幸せである。従って、もうこれから、一切、寺本悠介との連絡もしないで欲しい。会うことも厳禁である。と書いてあった。由樹枝には全く信じられない。あれほど硬い愛の約束をしたのが、わずか10日程前である。それが、急に新しい恋人が出来たなんて、嘘に決まっていると思った。そして、これが、山脇の言っていた事か、と昨日の電話を思い浮かべた。 急にこんな手紙を貰って驚いたし、そんな事はあり得ないと確信を持っていても、心配は心配である。万が一、そうであるならば、悠介が何か言ってくるはずだ、とその連絡を待つことにした。その翌日、悠介からの手紙が届いた。慌てて封を切り読み始めてびっくりした。なんと、昨日貰った恵美子と言う人と一緒に住んでいると言うのである。あの手紙は嘘でなかった。由樹枝は頭が真っ白になった。持っている封筒の手が震えているのが自分でも分かった。自分の愛しているのは由樹枝だけだとも書いてあったが、ほかの女と一緒に住んでいて、その言葉も信じられない。涙が出てきた。手紙をもう一度読む気にならない。何もする気にならない。何もかもが信じられない。5月の連休に東京へ行くのを楽しみにしていたが、それも叶わないこととなった。これからどうしようと思う気持ちにもなれず、まさしく茫然自失の状態である。 それから数日が経った。高橋の所に手紙が来ていないか、毎日確認しているが届いていない。それから、さらに数日経っても山脇からも連絡はない。居ても立ってもいられない気持ちで授業も上の空である。もう由樹枝が来ると約束していた5月の連休が来る。しかし、由樹枝は絶対に来ないであろう。きっと怒っているはずである。来られても美恵子が居るので修羅場になるだけだ。八方塞がりのまま連休がやって来た。何も出来ないまま時間がどんどん過ぎ去る。いつのまにか5月が過ぎ去り6月になっていた。その間、2回由樹枝に手紙を出した。しかし返事は来ない。美恵子とも別れていない。何度も出ていくように言ったが、全く意に介さず出ていく様子はないのである。 =================================== お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2021.02.08 09:01:02
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