あらすじ
悠介は、長野県安曇野の隣、池田町に産まれ、長野高校に進学した。高校の後輩である小平由樹枝と恋人関係になる。3年の夏休み、北海道無銭旅行を遂行。大学の推薦が決まった後、上高地へ出かけ二人は結ばれる。M大学に進学し、1年が過ぎた。春休み、希望大学に合格した由樹枝が東京に来て、短いが二人の充実した同棲生活を送った。しかし、そのわずか1週間後、飲み過ぎて記憶喪失し矢代美恵子と関係してしまった。何とか別れたい悠介であったが、美恵子は別れてくれない。数か月後、アパート代を出すとの約束でようやく別れてくれた。そして由樹枝との仲を戻すべく努力したが、完全に振られた。
写真はネットより借用
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「では、来年のアパート代は僕が支払うよ。と言っても貴女に全部支払ったから、今はないけどね。今から貯めて来年分を支払うよ。」
「そんなー。申し訳ないよ。由樹枝さんだっけ? 彼女に使いなさい。」
「その可能性は極めて少ない。」
「え? 元の鞘に納まったのではないの?」
「それが、そうしたいけど、先方がね。全く取り付く島もないんだ。」
「そうだったの。」
悠介は事実を正直にそのまま話した。美恵子に内緒ごとを作る必要はなかった。この話は高橋と美恵子だけである。いや、もう一人いた。由樹枝との仲を取り持ってくれた山脇は全て事情は知っている。
美恵子は飲みながらじっくり合いの手を入れて話を聞いてくれた。
「私のせいで、申し訳なかったわね。私が悪いのよ。ごめんなさい。」
悠介は、同棲して出て行ってくれと頼んでいた時は、美恵子さえいなければこんな事にはならなかったと、美恵子を恨んでいた。今もその気持ちはあるが、美恵子を攻める気にはなれない。まして美恵子の生い立ちを聞き、彼女なりに懸命に生きて来た事を知ってしまったから、尚更である。今こうして話していると由樹枝と別れるのも仕方ないか、と初めてそう思った。絶対に別れたくない、何とか元に戻りたい、とその事ばかり考えていたのに、不思議な気持ちである。
「いや、俺も悪かった。飲み過ぎたのだ。酷いことを言ったりしたらしいから。」
「実は・・・」
「え? 何?」
「本当にごめんなさい。貴方は良い人だからこれ以上、騙すことは出来ない。実は、始めから貴方をだますことで仕組んだ話なの。」
高橋から、騙されたのではないか? と言われてそうかも知れないとは思っていた。だが美恵子の口から真実を言われて頭が真っ白になった。
「では、北村先輩とグルになって仕組んだ事だったの?」
「そう、ごめんなさん。私、その為に貴方を見に行ったのよ。私は誰とでも寝る女じゃないです。気に行った人ならそう言う関係になっても良いけれど。」
「それで?」
「それで、気に行ったので、北村さんに計画の実行をお願いしたの。」
「まんまと嵌ってしまたって事か。」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい。貴方があれだけ由樹枝さんと言う人のことを愛しているとは思っていなかったもので・・・。私と同棲したら私の方を向いてくれると思っていたの。」
この真実を同棲した頃に聞かされたら、女といえども、ぶん殴っていたかも知れない。それほど酷い話である。だが由樹枝に立ち上がれないほど冷たい仕打ちを受け、美恵子の生い立ちも聞いた後である。
「もう終わった話だ。悔やんでもどうなるもんでもない。」
と自嘲気味に悠介は呟いた。今は、美恵子に対してを怒る気持ちはない。逆に可哀そうに思える。美人の部類に入る容貌と容姿を持っているにも関わらず、男に頼るしか生活する術がないのである。
「さっきの話だけど、来年のアパート代は僕が支払うから安心して。」
「ごめんなさい、酷いことをしながら、優しすぎる。だけど、貰う訳にはいかないわ。そのお金貸してくれる? 就職したら返します。良いでしょう?」
「いや、俺はお金が欲しくてバイトしているんじゃーないんだ。仕事は好きだし、暇しているより働いていた方が気分が良いしね。だから気にしなくていいよ。」
悠介がそうは言ったが、美恵子は納得せず、必ず返すと言う。本件は、絶対にこうすべきだと言う問題でもないので、そんなに言ってくれるなら、催促なしの支払いで良いと言う事になった。シリアスな話が続いたが、料理は食べながらで、ビールも飲みながらであった。今は、既にビールは飲み終わり、悠介が持参したウィスキーを飲んでいる。
「いい友達でいてね、貴方はとっても良い人よ、今までに会ったことがない。」
「そんな良い人でもないよ。いつもうじうじしているだけだ。俺って、友達と言う人が少ない。大学では一人しか友人らしき友人はいないんだ。美恵子さんが友達になってくれるなら有難い。」
「そう? ほんとにそう思う?」
「同棲していた頃と違う。ほんとにそう思う。」
「じゃー、1週間に1回は、ここに来て? 一緒に飲んで食べよう。」
「良いの?」
「良いよ、酔っ払ったら、泊まって行って。私たち他人ではないのだから、全然問題ないでしょう?」
悠介はそう言われると、猛然と性欲が沸き上がって来た。席を立って美恵子の隣に行った。美恵子はしなだれかかって来た。当然の成り行きでくちづけを行う。二人は熱心にお互いの身体を確認し合っている。
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