引退後20数年して尚、ちあきなおみの歌の世界に多くの人が魅了されていて、折に触れTVで「ちあきなおみの歌」番組が放映されていて、先日もTVを見入ってしまいました。
歌手として栄光に包まれながらも、自分が歌いたい歌をと、歌謡曲、ニューミュージック、ジャズ、シャンソンなど様々な遍歴して辿り着いたポルトガルのファドでは、人間の嫉妬心や所有欲を"憑き物"と言って良い程怪しく表現する。
1992年9月に夫である俳優の郷鍈治が肺癌のため死去。夫の遺体が荼毘に付されるとき、柩にしがみついて「私も一緒に焼いて」と号泣したと言う。これを機に一切の芸能活動を停止して、その後、公の場所にはまったく姿を現していない。夫に先立たれて、歌う心が萎えきってしまったのだろう。歌の世界そのものを彷彿させる話ではないか。
そう言えばちあきなおみの歌には「喝采」「冬隣」など、彼女の運命を予見したような歌がいくつかある。男に去られた女の孤独と哀切を歌った作品も多い。
TV番組の核心となった「ねぇあんた」は彼女の最高傑作ともされ、心根のやさしい娼婦と客のやりとりを一人芝居の歌で表現した大作で、シャンソンやファド、ひいてはオペラブッファ風のレスタティーボ・アリアを彷彿とさせてくれます。
ちあきなおみ ねえ、あんた
純心だけが取柄の幼稚な女の脇に本当に男がいるようなリアルさを感じられる世界を演じていて、名唱として語り継がれている様です。