ゴールドベルク変奏曲は、盲目のヘルムート・ワルヒャ(Helmut Walcha)がAmmer Cembaloで弾くのを聴くのが好みだったのですが、その半分の時間で躍動的に演奏するグールドを聴いてからは、Walchaを聴くことが無くなりました。
J.S.Bach "The Goldberg Variations" [ Glenn Gould ] (1955)
天才とは長生きさせることが無いのか、50才で夭折することになり、その直前にも演奏したゴールドベルク変奏曲の録画が残されていますが、その躍動感は1955年版に及ぶべくもありません。
グールドは異様に低い椅子(父親に依頼して作ってもらった高さおよそ30cmの特製折りたたみ椅子)に座り、極端に猫背で前のめりの姿勢になって大きな手振りでリズムを取るといった特異な奏法と斬新な演奏で世間の注目を集めた。
グールドは自身の奏法についてほとんどの点において有利であるが、「本当のフォルテが出せない」と分析していた。演奏時にはスタジオ内録音の際でも常にメロディーや主題の一部を歌いながら演奏するため、一聴しただけでグールドの「鼻歌」が聞こえ、彼の演奏と分かることが多い。レコーディング・エンジニア等が再三注意し止めさせようとしたにも関わらず、グールドは黙ってピアノを弾くことはできないとして生涯そのスタイルを貫いた。しかしこの歌声によって現在弾いている曲の隠れた旋律や主題を分かりやすく聞くことができる。その点で指揮者ニコラウス・アーノンクールに類似するという指摘もある。また歌っていることにより、旋律がなめらかに聞こえるという者もある。