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2021.09.12
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  親友の 韮山清之助君から電話があり、浅海君が気に入りそうな幽霊市があるのでいかないかと誘われた。僕が死にたい死にたいと嘯いていて家に閉じこもっていたので、家から引っ張り出して気分転換させようとの見え見えの友情ではあったが、誘ってくれなければ、家から外に出るきっかけがつかめなった僕なので、少しは感謝していたのだ。
 韮山清之助君は高校生の時から、忍者やタイムマシンなどに凝っていて、ラーメン巡りをしながら、関東一円の骨董市をめぐってはお宝を探すのを趣味にしていた。蚤の市、古市、骨董市、お宝市、ぼろ市、ござれ市、青空市、はて、どんな市が待っているのか、重い腰を上げたのだった。
 「どんなお宝があるかもしれないので一応、10万円くらいは用意してきた方がいいよ」

 中央線に乗って、拝島で五日市線に乗り換え、武蔵五日市という駅で降りた。その日は十五日だった、五の日に市が立ったから、五日市というのだそうだ。だが、もう、夕闇が迫る頃である。こんな黄昏時に市がたつのだろうか?
 韮山清之助君はもう、俗世から離れ、自分の世界に身を置いていて、僕のことなど忘れて、ずんずん足を進めていった。秋川渓谷沿いにひっそり建つ古社に足を踏み入れる。平安時代から続く古寺で阿伎留神社という。
 辺りはすっかり、薄暗くなっていた。こんな黄昏時に市が立つんだろうか?

 天満宮と書かれた赤い幟が揺れていた。神社の裏手の空き地に九人の骨董屋、古物商、古道具屋やらしき人が、地面に蓆を敷き、その上に、昭和の時代の骨董品や古い家具、道具などを並べていた。
 ビー玉、お手玉,めんこ、ベーゴマ、セルロイドのキューピー人形、ゼンマイ仕掛けのおもちゃ、抱っこちゃん、ミルク飲み人形、レコード、ペンタックスやニコンのカメラ、野球盤、昭和初期の映画ポスター、古い家具やちゃぶ台、椅子、炬燵、皿に茶碗、本、など、どの商品からも懐かしい匂いがした。

 「この市は、幽霊市とも死霊市とも、亡者市とも言われてるんだ。昭和の時代に死んだ人から譲ってもらったものを並べている市だ。お宝があるよ、浅海君、、」
 僕は神社の広場に並べらえた骨董品などを眺めながらふらついていたが、ふと、関口電機商会と板切れの看板に書かれた骨董屋に引き付けられた。
 そこの主人、なにやら、ぶつぶつ言いながら、下を向いて、棒で地面に”絶望””無常””自死”などと、書いては消していた。心が病んでいるような暗い眼をした老君だった。
 その、老君の前には、扇風機やラヂオ、角型ランプ、アイロン、白黒テレビ、ラジカセ、どの家電にも謂れ因縁が閉じ込められているようなレトロ感満載であった。昭和の時代、僕が小学生の頃にどこかの家にあったような懐かしさだった。

 その中の、古びた木製キャビネットに釦の様なつまみがついたラヂオに僕は魅入られてしまった。其のラヂオは僕が小学生の時に家に置いてあったラヂオと同じ形をしていた。僕は、じいっと其のラヂオを見つめて、少年の頃を思い出していた。
 「お客さん、あの頃流行ったテレビやラヂオの主題歌が聴けるラヂオよ、少年ジェット、月光仮面、快傑ハリマオ、とんま天狗、赤胴鈴之助、笛吹童子、快傑黒頭巾、鞍馬天狗、銭形平次、チロリン村、少年探偵団、一丁目一番地、バス通り裏、若者たち、お笑い三人組、ウルトラマン、ザ。ヒットパレード、シャボンダマホリデー、壊れかけのラジオで昭和の少年の歌しか聴けないが、いいのかい?」

 僕はその昭和の時代のレトロな木製キャビネットに収まっている真空管ラヂオが欲しくなっていたのだ。そのラヂオの奥に秘められているだろう、懐かしい空気感が堪らなく欲しくなったのだった。
 「いくらですか?」老君は黙って地面に12万円と棒っ切れで書いた。
 「うんんんん、、」
 僕は唸った、ラヂオの性能ではなく形に惚れたのだ、それにしては高すぎないか?
 「安くなりませんか?」
 老君は12の上に棒を引いて10に直した。僕は落とし穴にはまったような詐欺にあっているような気もしたが、韮山清之助君が側で笑いながら
 「なっ、面白いだろう?買っちゃいなよ、死にたい気分が変われば安いもんだよ」と、肩を叩くので買うことにした。
 
 家に帰ってラヂオのスイッチボタンを廻してみる。ガーガー、ージージー 、ガーガー、ージージー 電波が捕らえられないのか、さっぱり音が聴こえない。
 「騙されたか?」
 昔父がやっていたように、ぼんぼんと、ラヂオの頭を叩いてみた。すると、

​ 真っ赤な太陽 燃えている、
 果てない南の 大空に
 とどき渡る 雄たけびは
 正しい者に味方する
 ハリマオ ハリマオ 僕らのハリマオ
 突然、少々甲高い昭和の声がモノラルラヂオから聴こえてきたのだ。​

 僕の心は一気に少年時代にタイムスリップした。そして、少し元気が出てきた。ラヂオから次々に昭和の少年が聴いていた曲が流れてきた。優しいかあさんとうさん、兄ちゃんに弟、近所の遊び仲間の顔が浮かび、僕の部屋中に、野っ原や、めんこで遊んでいた路地の臭いが漂っていた。
 それから、僕は何日もラヂオの前に座り、昭和の少年の唄を聴いていた。逃げていたわけじゃない、僕の心が休まるささやかな贅沢だった。ラヂオを聴いている時には、死にたいなんて気持ちはどこかに行っちまっていた。
 本当の幸せ教えてよ、こわれかけのラヂオ君、、

作:朽木一空

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最終更新日  2021.09.12 11:06:36
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