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カテゴリ:ひろし少年の昭和ノスタルジー
いよいよ卒業式が間近に迫ってきた。その卒業式の直前に在校生との『お別れ演劇会』が行われることになった。まず送る側の代表として5年生が劇を演じる。そして次に送られる側の6年生たちが小学校最後の劇を演じるだ。これは担任の松川先生の発案で今年から行われることになったのである。もちろん観劇するのは、5年生・6年生と6年生の父兄たちであった。 ひろし君の6年1組の出し物は、人気のTVドラマ「おらあ三太だ」の『三太物語』である。さて演劇に自信のあると思い込んでいるひろし君、主演の三太を演じたくて手を挙げたが、結局のところ三太役は芸達者の北島君に決まり、ひろし君は準主役の仲良し四人組の一人「さだ」を演じることになった。 仲良し四人組とは、三太、花子、さだ、とめの四人のことである。TVで主役の三太を演じたのは渡辺篤史で花子はジュディ・オングだったのだが、さだととめは知らない子役が演じていた。そのほか大人の脇役として中西杏子、市村俊幸、七尾怜子、左卜全、牟田悌三などが花を添えていたものである。 一応市販されていた演劇用「シナリオ」を元に毎日何度も練習して、なんとかそつなくこなしたのだが、それほど好評ではなかった。演じているひろし君自身も、余り面白くないなと思っていたので仕方ない。一体誰がこんなつまらない劇を選んだのだ、もちろん担任の松川先生に決まっているではないか。ただ出来不出来は別として、父兄たちはこの『お別れ演劇会』を十分楽しめたようだ。だから多分これからは、毎年『お別れ演劇会』は恒例行事になるだろう。 さてその『お別れ演劇会』は無事終了したのだが、今度はまたまた松川先生が自分のクラスだけの卒業記念に、クラス全員の歌声を録音しようと言い出したのだ。そして当時まだ珍しかったテープレコーダーを自宅から持ってきたのである。さすが何でも時代の先端を突っ走らないと気が済まない松川先生だね。 それはそれとしても音痴のひろし君には苦痛だし、何を歌えばよいのか分からない。仕方なく誰でも知っている童謡の『どんぐりころころ』を調子外れな声で歌い、しかも途中で笑い出してしまった。もう一度歌い直したいとも思ったが、どうせ巧くは歌えないので諦めた。 女の子たちは殆どが無難な唱歌が多かったが、文武両道の萬屋君が橋幸夫の『潮来の伊太郎』を歌い上げると拍手喝采。ところが作曲家の息子である夏木君が美空ひばりの『リンゴ追分』を、こぶしをきかせながら絶唱すると皆ウットリと聞き惚れてしまった。さらにオオトリは、音楽と演劇の天才児である北島君が、CMで流れている『お菓子と娘』を「お菓子の好きな巴里娘~」と抜群の歌唱力で歌い上げたからたまらない。教室の中は割れんばかりの歓声と大拍手の嵐が吹き荒れてしまった。 ひろし君は悔しいよりも恥ずかしくて堪らない。どうして同い年なのに、あいつらはあんなに歌が上手なのだろうか、それに度胸もある。それにしても安易に即興で「どんぐりころころ」などつまらない歌を選んだ自分の馬鹿さ加減が嫌になった。…でもまあ仕方がない。中学に入ったらもう少し頑張ろう…。こうしてひろし君は目出度く山崎小学校を卒業して、隣にある山崎中学校へ進学してゆくのだった。 さて2013年10月から、約9年間に亘り67回の連載を重ね続けてきた『ひろし少年の昭和ノスタルジー』ですが、ひろし君が小学校を卒業したのを機会に、とりあえず筆を置きたいと思います。いずれ機会があれば『ひろし外伝』のような形で戻ってくるかもしれませんが、余り期待しないでください。それでは長い間応援ありがとうございました。 作:五林寺隆 下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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