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2024.05.16
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「菱友リハウスの三井と申します。鈴木様、素敵なお庭でいい眺めでございますね、このご自宅を売却して、駅近のマンションに買い替えたいというご要望でございますね。」

「そうなんです、都会の30分の1の値段で土地が手に入るからと、広々した土地に広々とした家を建て、家庭菜園をやり、ガーデニングをやり、巣箱には四十雀もやってきて、前の川で魚を釣り、蛍を見、 美味しい空気に囲まれた暮しをはじめたのが二十年前、まだ、体力もあり毎週のように山にも登ったんですよ、ここは静かで申し分ないのですが、後期高齢者になって、子供に危ないから免許証を返上して、車の運転はしない方がいいと云われましてね、そう警告されて気が付けば、体力は衰え 耳は遠くなり、視力も落ち、頭の回転も鈍く、運動神経も衰えてきてたのを感じるんですよ。スーパーの駐車場に上手に車を止められなくて、何度も切り返しをすることもあるんですよ、それで、転ばぬ先の杖で、免許書返上して、車も売却することに決心したんですよ」

「高齢者の自動車事故は増えてますからね、いいご判断だと思いますよ、事故が起きれば今までの人生が台無しになりますからね」

「でもねえ、この辺りじゃ、車がないと買い物、病院、ゴミ出しにも行けない不便さなのですよ。ですから、終の棲家と思っていたこの家を処分して、駅前の便利なところへ住み替えることにしたんですよ、お猿さんや、鹿さん猪さん、鳥や虫さんたちともお別れですわ」

「なるほどよくわかりますよ、ご高齢になると、そういうお客様が増えておりますよ、懸命な判断だとおもいますよ、子育ても終わり、老人二人になれば、広さは必要ないですからね、それに、広いお庭や家庭菜園の管理も体力的に大変でしょうからね、当社でも駅前の新築、中古マンションの物件が何件かありますので、ご希望に合った物件を探せると思いますよ。」

「そうですか、あなた、よかったですね、この家を売った金額でマンションを買いたいと思っているのですが」

「えっ、!それはなかなか難しいですよ、実は私の両親も奥多摩の猪原村に住んでいたのですが、15年前にその家を売却して、立川のマンションに住み替えました。その頃は、まだ田舎物件に人気がありましてね、売った金額でマンションが買えたのですが、いまはもう、猪原村はバス路線便は廃止になり、若者は田舎を見捨て都会に出たら、二度と帰っては来ないので、住んでいるのは老人ばかりの村になってまして、消滅可能都市、限界集落に指定され、村では道路や水道などの公共の維持が困難になると、行政効率の良い町づくり「コンパクトシティ」という政策を推進していまして、過疎地域に住む人に町中に住み替えるよう指導しているんですよ。おそらく、この地域も遅かれ早かれそういうことになると思いますよ」

「たしかに、ここもバス路線が廃止になりそうなんです、ですから、便利な場所に移り住みたいのです、買い替えのマンション価格にならなくとも、どのくらいの価値があるんでしょうか」

「この家はだいぶ築年数が経っているようですが、築何年ですか?」

「わたくしどもが買った時にすでに築20年でしたから、あれから40年ですから築60年になるんでしょうか、でもね、三井さん、この家は以前の方が別荘としてお使いになっていた家で、しっかりした建物なんですよ、基礎はべた基礎、柱は4寸柱、屋根は三州瓦、床は無垢材ですよ」 

「見ればよく分かります、確かにきちんとした建物でございますね、ですが築60年ともなれば、目に見えなくともあちこち痛んで、雨漏り、壁の剥がれ、排水管のつまり、ドアの軋み、床の歪み、シロアリの被害もあるかもしれませんし、いろいろ、痛んでいるんじゃありませんか」

「そりゃあ、そうですけど、外壁は二度も塗り替えましたし、風呂もトイレもキッチンもリホームしたんですよ、人間と同じ、まだまだ、修理修繕すれば暮らしていくには問題ないとおもいますが」

「ご愛着が詰まっているおうちですね」

「そりゃあそうですよ、子供たちも孫もここで育ちましたし、庭でバーベキューをしたり、狸や狐が遊びに来たり、喜びも悲しみも詰まっております」

「ですがね鈴木様、築年数が50年を過ぎた家に価値はないんですよ、無価値どころかマイナスになることもあるんですよ。この家を売却となると、更地にして売るしか方法はありませんよ、まずは、この家を解体処分しなければなりませんが、その費用もばかになりません、屋根の上に太陽光パネルが載っていますが、その処分費用も安くありません。その解体費用以上の値段でこの土地が売れることはまずないでしょうね。それに、広いお宅の歴史にはそれ相応の家財があるものでして」

「そうなんですよ、広いものですから、知らぬ間に物が増え続け、椅子だけで20脚、机が三つ、ベッドが五つ、テーブルが三つ、テレビ2台、パソコン2台、自転車二台、子供らの三輪車にベビーカー、ピアノにオルガン、掃除機が二台、冷蔵庫に冷凍庫、スコップに鍬に鎌、バーベキューコンロに燻製機、デッキ椅子にパラソル、洗濯物干し、バケツに一輪車、その他にもいっぱいありますわ、都会の家じゃ、塵屋敷一歩手前ですね」

「その家財の処分費もばかになりませんよ、狭いマンションに引っ越すのですから、ほとんどの家財は処分しなければなりません、仮にこの家を購入する物好きな方がいらしても、家財の処分費、荷物の片づけ費、引っ越し費用、その他の経費がかかり、差し引きいたしますと、間違いなく足が出てしまいますよ。ただでいいから差し上げるといっても貰ってくれる人がいるでしょうか?町に無償で寄付するといっても断られます。子供さんですら、いらないといわれている家ですからね」

「そういえば、この地域に古くからいる山之上さんから、山をあげるから登記しないかと言われましたよ、材木が売れるわけでもないし、山をもらってもどうしようもない、固定資産税がかかるだけですものね、この辺りじゃ、いらない山を押し付けあっていいるみたですわ」

「そうでしょう、鈴木様、いま日本じゃ10軒に1軒以上、凡そ900万戸以上の空き家があるんですよ。人口減少なのに、新築のマンションや新築の家が建ってますから、空き家は増える一方です。自治体も空き家処分に頭を悩やましているくらいですからね、特に田舎ではその傾向が強いのですよ、消滅都市、限界集落、危機的集落、廃村集落、消滅集落なんて言われてましてね、最早、公共の機能維持が困難になり無住化危惧集落になりつつあるんですよ、こういう背景ですからね、田舎の中古物件はババ抜きゲームの様相なんですよ、誰か運の悪い人に買ってもらえれば幸いなんですよ」

「三井さん、それはあんまりですね」

「鈴木さん、落ち着いて考えてみてくださいよ、人間も家も同じことで、若い頃には綺麗でいい思いをしてきても、年をとれば、あちこち故障して、修理修繕しながらごまかして生きても寿命だけは誰にでもきてしまい、家も人間も最後は塵になることは避けられないのですよ」

「じゃあ、私たちはどうすればいいのですか」

「つまり、この家は負動産なんですよ、この家の売却資金でマンションを買うのは無理ですが、保険の解約、預貯金の取り崩し、箪笥に埋まった金銀の売却などをして、割安な中古マンションを購入して、便利な場所へ移転することをお勧めしますよ、逃げた者勝ちですよ」

「そんな資金はないんですよ、この家の売却資金ををあてにしていましたから」

「それは困りましたね」

「でも、確か菱友リハウスさんは賃貸の斡旋もしていましたよね、マンション購入は諦めて、賃貸でしたら、駅前のマンションに住み替えできますかね」

「賃貸マンションでしたら当社にも委託物件はいろいろございますが、後期高齢者となりますと、後々面倒なことが予想されますので、大家さんが首を縦に振らないことが多いのですよ」

「ではどうすればいいのかしら」

「高齢者の施設がよろしいのではないですか?」

「老人ホームですか?」

「鈴木様、一口に老人ホームといっても様々ありますよ、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、などです。当社の関係会社にも老人ホームもございますので、よく検討してみたらいかがですか」

「ああ、住み替えも無理、賃貸も駄目で老人施設行きになるのですね、がっかり、夢の田舎暮らしの行先は負動産でしたのね」

 田舎物件臨終でした、チン!

​作:下肥 流行​

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最終更新日  2024.05.16 19:57:36
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