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テーマ:ベトナム好き集まれ(2186)
カテゴリ:ベトナム文学
「子供の結婚」 タック・ラム著 岩井訳
初夜 きょうは一日本当に疲れた。花嫁側の人たちは夜になってようやく帰り、ぼくの家では芸者を呼んで、ドンチャン騒ぎが夜中まで続いた。エビのような口元をした数人の芸者が、ぼくの頭を撫でてはくすくす仲間内で笑い合うのだ。本当に腹が立つ。 こんな夜更かしは今までしたことなかったので、眠たくて眠たくて今にも目蓋がくっつきそうだ。ふとお金のことを思い出し、財布と紙の包みを開けてみると、3ドンと300スーが入っていた。やった! どこに隠そうかと算段していると、母がどこからか駆けつけてきて、電光石火でお金をひったくって行ってしまった。残念でならなかったけど、あえて苦情は言わなかった。 ベッドに入ってうつらうつらしはじめたとき、母が来てぼくを引っ張り起こして言った。 「嫁がいるのになんで独りで寝てるんだい!」 そして母はちょっとしたアドバイスを耳打ちしてくれたので、ぼくはすこし意を強くすることができた。ぼくは大胆にも寝間着のまま、手探りで妻の待つ寝室へと向った。 寝室のドアの前まで来たが、ぼくは全身が震えて胸がドクンドクンと高鳴り、逡巡するばかりでそこから一歩も踏み出せない。根性を見せるときじゃないか! 膝はまだ震えていたけど、意を決してドアを押すと、ベッドの端に腰掛けていた妻にばったり遭遇した。くわばらくわばら。 ぼくはとても直視することができず、そんなものは存在しないかのようなふりをした。ぼくの目は鶏を探していた。母は、部屋に入ったらまず頭を折った鶏を探し、それをすぐに食べれば妻はもうぼくに危害を加えることはない、と教えてくれたのだ。 それなのに当惑の末やっと鶏おこわが置いてある場所にたどり着いたと思ったら、なんてこったい、鶏の頭はどこかに消えちゃって、ひょろひょろの首だけが寂しく残されているじゃないか。 ヤバ過ぎる! この女、鶏の頭を食べちゃったのか? だとしたら、ぼくをいじめ殺しかねないぞ。椅子に腰掛け考えてみるが、熟考すればするほど不安が抑えられなくなって、どうすればいいのか分からなくなる。 ぼくはずっと待っているというのに、どうして彼女は眠ってくれないんだろう。目は二つとも閉じられているが眠ってはおらず、頬杖をついて鶏をじっと凝視し振り向こうともしない。 ベッドの竹が軋む音がしたと思うと、しばらくして豚のような鼾が聞こえてきた。やっとほっとして、ぼくはベッドに近寄った。目を大きく見開いて妻がぼくの何倍大きいか見当してみると、優に四倍は超える。なんたるデブ! 勇気を出してそっと妻の傍らに身を横たえ、死力を尽くしてやっと掛け布団をすこし引っ張ることができた。どうやらさっき、彼女は酔いで眠りに落ちたらしい、ごそごそ動いて咳払いをしていたかと思うと、突然腕をぼくの首の上にドスンと落とした。ぼくは息ができなくなって、必至に押しのけて、なんとか九死に一生を得る。 急いでベッドの隅に退避し、身体を丸めて咳をするのもためらいながら息を殺す。ぼんやりと、妻がぼくの髪を鷲づかみにして、薪をかち割るみたいにぼくをぶん殴るシーンを想像した。まるでテオの母親のドゥンおばさんが、旦那を叩きのめしているときのように。 そして、ぼくは眠りの淵へと引きずり込まれていった。 おわり (風化紙、27号、1932年12月) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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