パン
80年代、中国の某地方都市。パンは売ってはいたが、甘い菓子パンのような生地の大きめバターロール、という風情のパンを1日1回昼頃に近所の食糧店で売り出すぐらい。食パンは…大きな商店に遠征すればなくはなかった。しかし、まずサイズが小さい。ドイツのライ麦パンみたいなサイズ。まあそれはいい。問題は、味。もう生地が異様に甘い。で、ぱさぱさ。ちょっと焼くとカリカリになってしまう。何かに似てると思っていたが、思い当たったのはラスク。そう、軽く炙れば即ラスクになってしまうのであった。このパンでサンドイッチを作ろうったって、そう話は簡単ではない。まず、バターが手に入らない。外国人教師用食堂では欧米人の教師のためにバターを常備していたが、このバターはハルピン(ハイカラな都市だったのだ)の乳製品工場と契約して、月に一度コックがわざわざ列車で買い出しに行って手に入れていたものだった。それを分けてもらうとはいっても限度がある。そんなバター難民のために、春節休みの時内モンゴル方面に行ったついでにフフホトで知り合った人の親戚の親戚(ほとんど他人)を紹介してもらい、フフホトから列車で50時間以上、氷点下30度のハイラルの町で、手土産のセブンスター1カートンと引き換えに無事無塩バター1ポンドを手に入れたのであった。2月。漸くバターを自由に使えるようになった。冬、二重窓の内窓と外窓の間は天然の冷蔵(凍)庫なので、そこに保存する。次は具。冬場、野菜はない。秋の終わりに買い込んで保存しておいた越冬用の根菜類と白菜しかない。レタス?何それ。胡瓜?トマト?そんなものはこの数ヶ月見た覚えがない。とりあえずハムによく似た「午餐肉」という豚肉の缶詰を開ける。マスタードの代わりに練り辛子。野菜はとりあえず玉ねぎの薄切りでいってみよう。さて、いよいよサンドイッチにチャレンジ。パンを焼くとは言っても、もちろんトースターなんていうオサレなものはない。電気コンロにアルミ鍋を載せ、パンを置いて温めるというか軽く焼く。軽く焼いたためにラスクと化した食パンもどきに、バターと練り辛子を塗る。午餐肉を薄くスライスしたものと玉ねぎを載せる。その上に、またバターを塗った食パンもどき。サンドイッチ(仮)、遂に完成!いそいそと皆で食す。(;´∀`)…ちとパンの甘さが勝ちすぎてはいるが……バターに塩味がない分、甘さが余計気にはなるが……パンの甘さと午餐肉の塩味が喧嘩してはいるが…でも、とりあえずサンドイッチだぁ~!多少躊躇いは残るが、まあうまいということにしよう。ていうか、ここまでできれば上等だいっ!多分今食べたら不味いんだろうけど、当時は西洋の香りがするというか。それなりに満足していたのではあった。それから10年近い歳月が過ぎ、北京で暮らすようになった頃。すぐ近くに、台湾資本のベーカリーができた。日本風の菓子パン類や食パン、ケーキやクッキーを売るしゃれた店。喜び勇んで買いに行き、コーンマヨネーズとかハムマヨネーズとか食パンを買い込んで早速食べた。……………(; ̄ー ̄)ふかふかしっとり、だけど…惣菜パンも食パンも生地が激甘…(泣)中国人にとって、パンとは甘くなくてはいけないものなのだろうか?今は事情は違っているのかもしれないけど。中華街や中国食材店で売ってますね。 ↓