先日、ママ仲間のお友達が亡くなったと聞きました。
持病もなく、ごく普通にすごしていたある日、お昼寝のさなかにクモ膜下出血を起こされてそのまま…
お年は私より若いのです。長患いで苦しむことなく亡くなられた、とはいえ、
何も託せず、整理もできずに、まだまだ育ち盛りのお子を残してさよならも言えず逝ってしまうのは、
どんなに無念でしたろう。
互いを知らぬ仲ながら、胸が痛んでなりません。
昔、母と一緒にテレビ放映で見た古いアメリカ映画『センチメンタル・ジャーニー』は、子供だった私が悲しい気分になったとき、その画面が思い出される切ない切ない物語でした。
父と幼い娘を残し、母が亡くなるのです。悲嘆にくれて酒びたりになる父。
悲しむばかりの娘の前に現れて、生きる力を与えてくれるのは亡霊になった母でした。
私が「母」となってから、健やかとばかりは言えない毎日を送りながら、折に触れて思い出すのもその映画です。
私なら、微笑んで励ますことなどできないかも。
歯がゆさのあまり手を出そうとして『ポルター・ガイスト』と家族に思われるかも。
そんなことを常々考えているのですが…
東京創元社・ミステリ・フロンティアのシリーズで今年2月に刊行された一冊です。
ハルさん
(瑠璃子さん…今日はね、ふうちゃんの結婚式なんだよ。まさか、この僕が「花嫁の父」になるなんて…)ふうちゃんの結婚式の日、お父さんのハルさんは思い出す、娘の成長を柔らかく彩った五つの謎を。幼稚園児のふうちゃんが遭遇した卵焼き消失事件、小学生のふうちゃんが起こした意外な騒動…。心底困り果てたハルさんのためにいつも謎を解き明かしてくれるのは、天国にいる奥さんの瑠璃子さんだった。児童文学の新鋭が、頼りない人形作家の父と、日々成長する娘の姿を優しく綴った快作。 (「BOOK」データベースより)
ずっと気になっていましたがやっと読むことができました。
読み終えて今、「ミステリ」…と言い切っていいのか、迷いながら感想を書いています。
内容紹介にあるように、この本には5つの事件が語られています。
どれもハルさんの1人娘・ふうちゃんが育ってきた折々のできごとです。
ハルさんが冷や汗を流し、どきどきしてしまったこともあったけれど、どれも優しくてまっすぐなふうちゃんが出会った、かけがえのないできごとでした。
幼稚園のある日の、消えた卵焼き事件。
小学生になって、夏休みの失踪。
中学生になったふうちゃんの、涙の理由。
高校最後の冬休みに、サンタが指輪を持って…。
そして大学生になった春のある日、ハルさんが招かれた人形の家。
ハルさんの奥さん――ふうちゃんのお母さん・瑠璃子さんは、幼いふうちゃんをハルさんのもとに残して亡くなってしまいます。
ハルさん、とにかく頼りないのです。人付き合いが上手ではありません。人形作家としての才能はともあれ、仕事に没頭してしまうと、もともと手際のよくない家事もさらにおろそかになってしまいます。
洗濯機の中の洗濯物は?
晩御飯は?
声をかけてあげたくなるような暮らしぶりです。
幼いふうちゃんを抱えて、謎に出会って途方にくれるハルさんを助けてくれるのは、いつもそばにいてくれる人――瑠璃子さんです。
こんな旦那さんと娘を残して旅立たなければならなかったなんて、さぞ心残りでならないだろうと思ってしまうのだけれど、瑠璃子さんはいつも軽やかに微笑んで、やさしくハルさんを支えてあげます。
困ったときに風のように愛しい人の声が助けてくれる『ささらさや』や、
成長の節々の娘が目の前に現れる『鉄道員(ぽっぽや)』
…思い出される本はいくつかありましたが、どれともやはり、違います。
やわらかで、頼りなくて、はかない。
綿菓子のような物語でした。