イラン核合意が、破綻に瀕している。
トランプ政権が一方的にイランと主要6カ国と結んだ核合意から離脱し、穏健派ロウハニ大統領の行方が漂流した。今年、バイデン政権が発足すると、アメリカは核合意の立て直しに乗りだした。
◎保守強硬派のイスラム原理主義聖職者ライシ当選
しかし時間切れだった。イランに先の大統領選で、強硬派のイスラム聖職者ライシが当選し(写真)、再構築は不可能になった。
イランにイスラム原理主義=保守強硬派政権で、2つの反作用が起こった。
イスラエル議会で6月13日、右派国家主義者のナフタリ・ベネット氏の率いる新たな連立政権を承認された。これにより、12年間首相の座にあったベンヤミン・ネタニヤフ氏は退陣した。
新首相に就任したベネット氏(写真)も、ネタニヤフ前首相と引けをとらない対イラン強硬派である。ライシ新政権の核合意離脱は、イスラエルにとってイラン核施設の空爆の引き金を引く可能性がある。以前のネタニヤフ政権は、アメリカのトランプ政権と緊密なつながりがあり、それだけにトランプ政権はネタニヤフ政権に対し、対イラン空爆を抑えられた。
◎ガザ戦争の黒幕はイランなので
しかしバイデン政権とベネット新政権との間の緊密化はこれからの作業であり、その間、イランのライシ新政権が核施設を本格稼働させるようであれば、ベネット新政権はアメリカに遠慮無く空爆に踏み切るだろう。
先月のイスラエルとガザを支配するハマスとの戦闘(写真)でイスラエル領内に撃ち込まれた、ハマスの唯一の武器のロケット砲がほとんどイランの援助によるものだったことからも、イスラエルにとってイランは不倶戴天の敵であり、イスラエル領内に届く中距離弾道ミサイルを持つイランの核武装は決して容認できない。
中東の緊張は、一気に高まっている。
◎ライシ登場で核合意修復なく、イラン産原油が市場に出ず、油価高騰
もう1つが、原油高である。
イランにライシの当選が確実視された6月初め、ニューヨークの原油先物相場は、久々に1バレル=70ドルをつけた。最近は、安値も70ドルを下回ることがなくなり、70ドル台が定着した。
これは、核合意の修復でイラン産の原油輸出100万バレルが見込めなくなったからである。
そして皮肉にも世界の脱化石燃料の動きが、原油高を促しさえしている。
◎原油100ドル時代再来か
普通なら、脱化石燃料と再生可能エネルギーのミックスは、原油が市場に溢れ、原油安につながるはずだ。
ところが理想と異なり、世界はいきなり脱化石燃料になるわけではない。特にスターリニスト中国やインド、その他の途上国を中心に、まだまだ化石燃料である原油需要は根強い。欧米の原油需要は、確かに漸減しているが、その漸減を途上国の需要増が帳消しにしているのだ。
一方で、石油メジャーの油田開発への新規投資は、ESG投資の圧力で減っている。原油価格が騰がれば、原油の生産増を促し、やがて価格は均衡するが、そのメカニズムが働かないようになりつつある。
マーケットは、中期的に原油需給がタイトになる、と見ているのだ。
だから今の勢いでいけば、遠からず原油100ドル時代が再来するかもしれない。
昨年の今日の日記:「ズームも監視する? ビデオ会議もスターリニスト中国の監視網から逃れられない不都合」