5つのC シガーについて
レストランの文化、特にフランス料理店において、食事が終わった後の時間を豊かにする「5つのC」があると言われている。 ひとつめはCafe(カフェ;コーヒー)、Cognac(コニャック;食後酒),Chocolat(ショコラ;チョコレート),そしてCigar(シガー;葉巻),最後のひとつはConversaccion(コンベルサシオン;会話)である。 このうちの最初の3アイテムは比較的ポピュラーなものともいえる。コーヒーはもちろん、チョコレートはプティフールと言われるお茶菓子に供される。お酒の強い方には食後酒もおすすめしやすい。4番目のシガーについては、楽しまれるお客様はまだまだ少ない。昨今はは健康増進法などの施行もあって、少々控えられがちだ。 シガーはれっきとしたヨーロッパ文化のひとつであるといえる。しかし、タバコそのものがヨーロッパに持ち込まれたのは、コロンブスが新大陸を発見してから以降16世紀に入ってからであった。 ヨーロッパでの習慣では食後に夫婦はそれぞれ男性と女性に別れてメインダイニングから他の部屋に移り、おしゃべりに華を咲かせる。別室に移動した男性組は、食後酒を片手に葉巻をくゆらし、議論を交わす。このとき葉巻を吸うにあたって、上着に香りがつくのを避けるため、ジャケットををわざわざ着替えたのだ。 この時着用された上着が「スモーキングジャケット」の名を残す。スモーキングジャケットをLLサイズのジャケットだと勘違いしてはいけない。葉巻を吸う意味のスモークであって「すもう・キング」つまり横綱のことではない。服装で言う「スモーキング」とは、サーヴィスマンの制服の代名詞ともなっている「タキシード・スーツ」のことである。 葉巻きには様々なエピソードにも事欠かない。みんな写真を取られる時に「Vサイン」(ピースサインとも言う)をするが、実はアレは第二次大戦の途中、英国首相のチャーチルが葉巻きを掴む自分の指の形から「ヴィクトリー(勝利)」の意味で使い出したのが広まったそうだ。 レストランで葉巻きを提供するのはいろいろな意味で制約が多い。まず、葉巻きを吸っていただくにあたって、他のお客様に迷惑のかからぬ様考慮する必要がある。タバコが嗜好品である以上、煙りを好まれないお客様もいらっしゃるからだ。葉巻き用に別室を用意しているレストランもある。 また、葉巻きはワインと同じように温度管理、湿度の管理も必要だ。サーヴィスマンに葉巻きを保存、サーヴィスするだけの知識と技量も必要とされる。 更に、日本の税制ではタバコにプレミアを付けて販売してはいけないことになっている。買ってきた値段で売らなければならないと言うことだ。ワインのように原価から何%の粗利益を付けることは禁じられている。 葉巻きは1本あたり1000円から3000円とする高価なものでもある。葉巻き1本を吸い切るのに4、50分から2時間近くかかることもある。金額も、時間の使い方も贅沢なものだ。それでもなお、シガーを楽しんで頂くだけの価値はあたえてくれるはずだ。