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テーマ:辛口映画批評(354)
カテゴリ:試写会2010
映画上映前に主演の米倉涼子、反町隆史、林遣都、陣内孝則、松田秀知監督の舞台挨拶があっての上映だ。司会はテレビ朝日の勝田アナが務めたのだが、出演者共々チョコマカとネタばれ発言をしてしまって困った。客席は満席、女性客が多い。
映画の話 2億6,000万円を乗せた現金輸送車の強奪事件が発生。人質をとって立てこもる犯人グループとの交渉に宇佐木玲子(米倉涼子)がやって来たそのとき、建物が爆発。そして数週間後、羽田空港にいた玲子は先の事件で人質になっていた青年を見かける。彼の様子に嫌な予感を感じた玲子は同じ飛行機に乗るが、なんと離陸直後にハイジャックされてしまい……。 映画の感想 私にしては珍しくチョコマカとテレビシリーズを見ていただけに素直に面白かった。本作は基本的にテレビシリーズを見ている事が前提で製作されているので、キャラクターや背景は予習が必要であろう。まず本作はテレビの監督なのでテレビ的なスケールなのは否めなく、突っ込みどころ満載の簡略化されたエピソードに不満が残るものの、映画を見ている間は勢いで押し切った形である。 本作は「交渉人」と銘打っているが、宇左木玲子の交渉シーンはオープニングだけで、本題はフライトサスペンス作品に成り下がってしまっているのはご愛嬌である。映画は米倉涼子演じる主人公・宇左木玲子の活躍に焦点が絞られている為に、事件の概要や背景は割愛されまくりである。 以下ネタばれ注意 映画は現金輸送車を襲撃して逃亡する犯人グループと警察のカーチェイスで幕を開ける。オープニングから犯人グループの現金輸送車襲撃シーンが割愛され、続く、犯人グループが50名ほどの人質を取り立てこもる巨大ショッピングモールを制圧するシーンも無い。本作を製作したテレビ朝日の名作ドラマ「西部警察」であれば、以上のシーンは物語の見せ場として絶対に描くはずであるが、本作は予算の関係なのか割愛されている。観客としては、どの様にして50名もの人質をたった3名の実行犯が制圧したのか知りたい所であるが、これはあくまでも宇左木を引き立てる為のお膳立ての様な扱いなので、犯人グループの行動は割愛されてしまう。 映画はショッピングモールでバイト中に人質になった木元兄弟にスポットが当てられる。不景気日本の被害者の様な存在の木元兄弟は事件を起こした主犯格・御堂啓一郎に感化されてしまい、犯人グループが次に起こすハイジャック事件の実行犯になってしまう。もう本当に無茶苦茶な脚本で、木元兄弟がどの様に犯人グループに接触して実行犯になる描写が無いのは映画として致命傷であろう。 人質が犯人に同情して一緒に犯罪起こす“ストックホルム症候群”と言う言葉がある位に現実的な話であり、木元兄弟の心情を深く掘り下げれば、映画として深みが出るが、本作の監督はまったく描く気がない。本作を配給した東映製作の乗り物パニック作品「新幹線大爆破」(75年)は、事件と並行して犯人グループの心情を回想シーンを使いながら、しっかりと掘り下げたおかげで犯人グループに同情出来たが、本作の犯人グループは理想だけ高い薄っぺらな存在になってしまったのが駄目だ。 映画は休暇を利用して飛行機で北海道旅行に向かう宇左木が、木元兄弟の弟・裕介が北九州行きの飛行機に乗り込む姿を見て、直感的に彼の後を追いハイジャックされてしまう飛行機に乗り合わせてしまうと言う、「ダイ・ハード」の主人公ジョン・マクレーンと同じ巻き込まれ型刑事アクションへと突き進む。そして、同じ飛行機に休暇中で宇左木の上司・木崎も同乗していると言うご都合主義に徹した脚本で物語は展開してゆく。 本作は日本映画初のハイジャック作品になるそうだが、映画のベースはハリウッド・ヒット作の良いとこ取りをしたような展開である。まず、犯人に面の割れていない宇左木が犯人の裏を欠いて単独行動を行う件や、犯人グループの要求が警察に拘束された犯罪グループのリーダー・御堂啓一郎の釈放の件や、主犯格と宇左木の格納庫でのバトルも「エアフォース・ワン」に酷似している。映画クライマックスに機長の変わりに宇左木が旅客機を操縦して着陸する描写も「エグゼクティブ・デシジョン」を思い出してしまった。 それにしても、物語後半でピストルの弾で打ちぬかれた客室の窓ガラスも割れたら割れっぱなしで、その後は何も無かったかのごとく平然とした客室だったり、ピストルで右腕を打たれた宇左木が苦しみながらも飛行機の操縦桿を握ったりとリアリティの無い演出には苦笑してしまったし、宇左木の抱える病気ってテレビシリーズで描かれていたっけ? 映画は犯人グループが起こしたハイジャックの真の目的や、事件を操る裏の黒幕など、国家を揺るがす一大スキャンダルに発展してしまう事件をおざなりにしてしまう幕引きが勿体無い。宇左木を主眼におきすぎて、もう一歩踏み込める余地を残して幕を閉じてしまうのが駄目である。最後の最後の宇左木の奇跡も演出しようがあったと思うのにサジを投げてしまう。何とも効率的に事を済ませてしまうイージーな演出が歯がゆい。 まぁ、本作は2時間のドラマにアレコレ詰め込みすぎて各エピソードが未消化になってしまったのは否めない。しかし、作り手の趣旨は米倉涼子のカッコいい姿を見せる為の映画なので、私が先に書いた事は野暮な突っ込みになってしまうかもしれないが、せっかくテレビドラマを映画化したのだから、映画でしか出来ない深みのあるドラマを見たかったのが私の本音である。 映画のフィルムについて それにしても昨日見たフィルムは黒つぶれが酷かった。多分、ハイビジョン撮影した素材をフィルムに変換した為に映像が劣化したと思われるが、こんな黒つぶれしたフィルムは海賊版並である。こんなフィルムを流すのならDLPを使いハイビジョンをスルーで流して欲しいものだ。 映画「交渉人 THE MOVIE 高度10.000mの頭脳戦」関連商品 交渉人the movie official book 湘南乃風 / ガチ桜 【CD Maxi】 交渉人~THE NEGOTIATOR~DVD-BOX / 米倉涼子 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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