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カテゴリ:思い出の宝箱
一方、きくさんは女学校から帰えってくると、食事とお風呂のとき
以外は自分の部屋に閉じこもりきりでいる。
女中頭のマツさんと一緒なら外出は許されるが、作治さんの家へ出
向くことは、たとえマツさんといえども、儘ならない。
きくさんの母親から固く禁じられてしまったのである。
「これでは手紙を届けてもらうことも出来ない、お母様の意地悪!」
そんなある日、マツさんが突然
「わたしに考えがあります」と きくさんの耳元で小さな声で言った。
次の日マツさんは、この屋敷の主である地主さまに頼み込んで1週
間の休暇をもらい、彼女の実家へ帰って行った。
きくさんがいくらその訳を尋ねても、マツさんは きくさんの手をとり、
優しくなでながら
「お嬢様、このマツにお任せください。1週間後には必ず吉報をたず
さえて戻って参りますから」
と、笑顔を見せながらきっぱりと頷き、屋敷の裏木戸から出て行った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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