小説「scene clipper」 Episode 25
「銀塚・・・」
山本の田舎は九州だが漁師町でかなり荒っぽい土地柄のせいか小学生の時分から男子は女子を呼び捨てにする。では女子は?と言えば、男子を君付けで呼ぶ。
不公平だとか傲慢だとか言わないで欲しい。特別に男尊女卑の意はなく、昔からそうなのだ。
「何?」
「お前変わったな」
「・・・・・」
ここでケンさんが間に入る
「そうだ、俺もそう思う、確かに由美は変わった」
「なるほど、ケンちゃんと山本君には分かっちゃうんだね・・・」
「自分でもそうと認めるくらいなんだから昔を知ってる俺らには隠せないさ」
「分かった。どうして、そしてどんな風に変わったのか教えてあげ・・・」
銀塚のセリフを横からさらったのは山本だった。
「それは俺に言わせてくれ・・・俺には必要なんだと思う・・・頼むよ」
山本はあろうことか銀塚に向かって手を合わせているではないか!
「山本君のその目、昔から私逆らえなかった・・・今日はそれに加えて手を合わせるなんて、私に逆らう術があるわけない。いいわ、言い当ててみて」
山本は大きく息を吸って、吐いたがそれは単なる深呼吸とは違った。
小3の時、銀塚が転校してきたあの日からの記憶が蘇り、映像化されていく為に酸素が多く消費されている?
そんな気分を山本は味わっていた。そのための深い呼吸だったわけだ。
「お前は、登下校時とか校内で顔を合わせて俺や上妻と話をする時と、校外で出会った時じゃ様子が違ってた・・・それは、校外の時にはいつもお前の横には・・・」
銀塚の顔から笑みが消えた。
「続けて・・・」
「お前の横にはいつだってお前んとこの、お袋さんが居た・・・」
銀塚の瞳が大きく開かれた。
「あれじゃあ飛べない・・・俺は中坊になった頃からそう思うようになったよ」
銀塚は体重を支える脚の力を失ったらしく、テーブルに手をついて腰を下ろした。
「今思い出したんだが、俺が上京するその日、俺たちが最後に偶然出くわした場所を覚えているか?」
「もちろんよ、新幹線の改札口だった・・・」
「そうだ、あの時俺は既に東京での生活を始めてたお前の電話番号を聞こうと思いついた。だがその時どこからか現れたんだ、お前のお袋さんが・・・」
「そ、そんな、そうだったの・・・」
「あの後、東京行きの新幹線の中で俺は感じ取っていた。俺たちが同じレールの上を走ることはもうないんじゃないかって・・・」
「そんなこと勝手に決めてしまわないで!」
「まあ聞け・・・あれからお前は東京で大学を卒業してCAになるために必死に努力を重ねてきただろう。その間・・・お前の隣にお袋さんは居なかった。そうだろ?
お前は立派に羽ばたくことができたんだ・・・・・頑張ったよお前は、なあ銀塚・・・」
「もー!お兄ちゃんと同じこと言ってー!」
ついに銀塚の目から涙が堰を切ったように流れはじめたが、僅かな間をおいて由美は涙を拭い、打って変わってその目に新たな輝きを見せた。
ほんの僅かな時間の経過のあとでも、人はその次のタイミングを逃さないでいられる技をいつの間にか身につけているものだ。
「そう、そこまで分かっちゃうんだ・・・だったら山本君が世界で一番私の良き理解者になってもらえるってことだよね」
マリが席を立とうとした、ガタっと音を立てて!
忘れられかけていた小説が今!
などと大袈裟なキャッチコピーでしたね。
応援感謝します。