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2024.02.25
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カテゴリ:ライトノベル


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 ​小説 「scene clipper」 Episode 39​





「事実は小説より奇なり」


イギリスの詩人バイロンが言った言葉が元になった慣用句とされている。そのバイロンの文章は下記の通りである。


「奇妙な事だが、真実だ。
真実は常に奇妙であり、
作る事よりも奇妙である」


だから「事実は小説より奇なり」であり、これからその実例が展開されていく。


 「あれは終戦直後昭和20年の暑い夏だった。空襲で家を焼かれ・・・両親も焼け死に・・・たった一人の兄は19年に戦死していて、わしは文字通り天涯孤独の身となった」


 青木は天井を見上げると大きく息を吐き、そして目を閉じた。恐らくは当時を回想していたのだろう。

やや間があって目を開けると、目に前のグラスを持ち上げ

残っていた半分ほどの水割りを一気に飲み干した。

誰一人、口を開くものは無い。青木会長が次に発する言葉のみ、それだけがこの場の重い空気を変えてくれるはず。


セキュリティ上前方向に五感を集中していなければならない者たちは前を向いてはいるが、耳は会長に集中してしまっている。

普段ならケンは厳しく注意を促すのだが

(この空気だ・・・入口にだけにしておくか)

一歩後退して会長の死角から外れ、手を上げる

入口の警備担当がハッとして我に返りケンを見た。

目を険しく光らせて首を横に振るケン。

担当者たちは慌てて頭を下げ、入口に向き直った。


 「ある日、近くに住んでいる夫婦が訪ねてきた。その人たちは普段から良くしてくれていたのだが、前日はわしの両親の火葬や埋葬を何もわからない少年だったわしに代わって手続きをしてくれた」

「そのご夫婦が言うには『以前、青木君のお父さんから聞いたんだが・・・お父さんの親戚が大分県にいるらしい。そこを訪ねてみてはどうだろう』

『大分県・・・ですか?』

『ああ、九州だよ。九州の大分県。温泉の街だ・・・』


「かれの奥さんが口を添えた『別府だよ、九州の大分県別府市だってお母さんがそう話してた・・・』そう教えてくれてね・・・」


「東京、いや関東一円にも親戚はいない・・・母方の叔父が深川に居たんだが終戦の年の3月10日、あの下町大空襲以来連絡が取れなくなった・・・なら、もう九州に行くしかない・・・」


そこまで話すと青木はケンを振り返った。


「ケン、烏龍茶を頼んでくれ・・いくら飲んでも酔えやしねえ」

「わかりました、おい」

側にいた若い者が直ぐに応じた。


 青木氏はリョウに

「別府にたどり着いてからの話は、あまり面白くないんだ・・・期待していた親戚も空襲で亡くなっていたし・・・」


「そこでだ、君が叔父さんから聞いたという話を聞かせてもらえるならば、君にバトンタッチしたいんだがどうだろう?」


リョウはしっかり頷いていた。


 「分かりました、お話します」

「おお、そうか、是非とも頼む」会長は頭を下げていた。


 初めて見るその姿にケンは驚きを隠せないでいた。


やがてリョウの言葉は、奇跡的な出会いが、過去から現在に続く糸のように、新たな章を紡いでいきながら、青木の心深くに秘められていた温もりをよみがえらせていく・・・リョウはそう願っていた。


 「暑い日でした。私は夏休みを利用して叔父の家に遊びに来ていました。

その日、叔父はたまたま仕事が一段落したとかで私を川に連れて行ってくれたのです。春木川という川です」


 青木氏が膝を叩いて

「それだ!春木川だよ!思い出せなくてねえ、そうそう春木川だ・・・あ、すまない続けてください」

「はい、その春木川ではカニが獲れまして。それが美味しくて、持って帰るとカー姉が茹でてくれて、美味しいんですよー・・・あ、カー姉というのは私の叔母で、私の母の妹なんです。叔父と結婚して田島姓になりましたが・・・あ、すみません話がそれましたね」


「構わない、続けて・・・」

「はい、その日はカー姉が弁当を持たせてくれて、お昼に川の土手で食べていた時でした・・・目の前に橋が架かっていたのですが、叔父が急にその橋を指さして言うんです。『ここじゃあ、ここにあのボウズがおったんじゃ・・・』 そう言うんです」


リョウは見た。青木さんが膝の上に置いていた手を握りしめるのを・・・


「ボウズって?」

「おう、あれは戦後間もない夏の暑い日じゃった。今日みたいにのう・・・仕事の帰り道じゃったが、その橋の下に人影が見えた。誰じゃ思うて近づいてみたら、子供やった」

「子供が橋の下におったの?」


「ああ、わしが近づいていくと驚いたのか、慌てて飛び上がった・・・ずいぶんと痩せておった・・・子供に見えたがよく見ると、まあ尋常小学校は何年か前に卒業しとるようだったな。14,5歳かな?そんなところだった・・・


逃げ出しそうになったからわしは引き止めた。

『お前、なんか悪さしたのか!』そうするとその少年は立ち止まって振り向いた」

「おれは何もしてません!」

「そうかそんなら逃げることはない・・・お前痩せとるなあ、なにも食っとらんのやないか?」


「親戚を訪ねてきたけど、空襲でやられたらしいんです・・・」

「どこから来た?」

「東京です」

「そりゃあまた難儀したもんじゃのう・・・」


わしは竹の皮に包んでもろうた握り飯を持っておったことを思い出してな・・・


 「ほれ、たいして量はないが腹の足しにはなるやろう」

そう言うてボウズに差し出したが、受け取ろうとせん。

「子供が遠慮なんかするな、子供は食うて寝て大きゅうなるんが務めじゃ、ほれ早く食え!」


「その少年はとうとう我慢できなくなって、叔父からおにぎりを受け取ると貪るように食べ始めた、と・・・」


 リョウは得体のしれない気配を感じて話を止めた。

すすり泣くような声とも言えない異様な音が、意外な方から聞こえてきた・・・青木さんだ。

膝の上で握りしめた拳をぶるぶる震わせながら、耐えようとして耐えきれない、およそ人前で見せたことのない涙を


流し、歯をくしばっていても形容し難い声音が歯の間から漏れてしまうのか。

誰も身動きすら出来ないでいる。

瞬時迷ったが、リョウは話を続けることにした。


 つづく



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いつもお読みいただきありがとうございます。
今回もどうぞよろしくお願いいたします。

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最終更新日  2024.03.12 00:23:24
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