山下紘加「ドール」
第52回文藝賞受賞作。帯には山田詠美、星野智幸、藤沢周、選考委員3名の賛辞がこれ見よがしにあるが、いずれも額面どおりには受け取れない。話半分として捉えておくべき。結婚して家を出ていた姉が一時的に戻って来て、自室を姉のために明け渡さねばならなくなった主人公は、1万5千円のテントを買ってリビングに置き、その中にラブドールを隠匿するのだが、中学生が即座に出せる金額として1万5千円はあり得ないだろう。そもそも、母親がパートに出て家計を支えている母子家庭の男子中学生が、何の躊躇もなくネット通販でラブドールを購入する時点で、現実味に欠ける。また、男子中学生の闇は、こんな単純なものではない。これは如何にも女性が頭の中で作り上げたもので、やはり現実味に欠ける。