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2024.06.30
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カテゴリ:映画


公開前からずっと、これは観てみたいと思っていたのが「フィリップ」です。原作となった小説は、母国ポーランドでは長らく発禁処分となっていたとか。
この日なぜか観客は私ひとりでした…なぜだ!

ユダヤ人であるフィリップは、ナチスによって両親や兄弟、婚約者を一度に惨殺されてしまいます。ここまで体感1分。あっという間に彼がどん底に突き落とされます。

その後彼はフランス人と偽り、なんとフランクフルトのホテルで働き始めました。
なぜ彼がそんなことをしているのかというと…その美貌と肉体をもって、ナチス将校の妻たちを次々と誘惑し、寝取るため。そして寝取った後は、「お前の夫は戦場で死ぬ」とか、「その老いた身体を抱いてくれるやつなどもういない」とか、呪いのような言葉を吐いて彼女たちを捨て去ります。愛など微塵もないセックスシーンが強烈です。
当時のドイツは、ドイツ人女性は外国人と交わることを禁じられていたそうです。そのため、フィリップとの関係を公に口にできない彼女たちは、黙り込むしかないわけです。そうやって、間接的に復讐を果たそうとしているのが、彼なのです。あまりにも孤独。

そんな中で彼はリザというドイツ人女性と出会います。彼女は今までに出会った女性とは違い、純粋で、真っ直ぐで、彼の凍り付いた心を溶かしていくのですが……。

フィリップを演じたエリック・クルム・ジュニアの狂気は、圧巻でした。激情を解放するかのように、夜中にホテルのホールで走り回ったり転げまわったり、まるで前衛芸術のように踊る彼の姿は、言葉こそなくても、こちらに強く訴えかけてくるものがありました。特に、親友を無残にもナチスに殺された後のシーンは、彼の慟哭が痛すぎて、直視できないほどでした。その前にも、同僚を目の前で絞首刑にされていて、彼だけは目を閉じることなくそれを見ているんです。もちろん、家族と婚約者が次々と射殺されていく様子も見ているわけですから、彼の精神が崩壊しない方が無理という話です。
ぱっと見はそこまで美男子に見えないんですが、内側から匂い立つ何かが、彼を凄まじい美しさに仕立て上げています。おそらくそれは彼の背負う孤独や狂気なのでしょうが、くらくらするほど美しい。ナチスに殴られて、顔に傷を負ってからの方が、さらに美しいのです。

結局、彼はリザとの愛を選ぶ直前で親友の死に直面し、復讐の鬼と化してしまいます。ナチス関係者のパーティーで、ダンスに興じる彼らを、密かに手に入れた拳銃でまるでスナイパーのごとく射殺していくときのあの横顔!そしてそこから身を翻し、人波に紛れてパリ行きの列車に乗り込む彼の背中が漂わせる孤独と言ったら…その後、彼はどうなったのでしょうか。

リザが彼に「あなたには幸せになって欲しい」みたいな感じのことを言うシーンがあるのですが、彼は幸せになれたのでしょうか。心を引き裂かれた彼がどこに行きついたのか、その魂が平穏を迎えられることを願ってやみません。





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Last updated  2024.06.30 16:19:49
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