【粗筋】
お婆ちゃん、まだ70前なのに、家でのんびりしているために老化が進んでいるようだ。お隣が学生時代に演劇部だったということで、夫婦喧嘩をしてもらい、止めに行くことで刺激になるだろう。もう一つ、天気予報を毎日夫に伝えることで頭の体操になるだろう。この二つを実践することにした。
「お隣で喧嘩が始まったようだから、行って止めてやってはどうですか」
「犬も食わないと言うのに、年寄りの出る幕じゃないでしょう」
「いや、こういう仲裁ほどお年寄りがいいんですよ」
説得されて出て行くと、すぐに戻って来た。
「あたしが、まあまあ、みっともないからおよしなさいと言ったら、すぐやめちゃったんですよ」
「さすが、お婆ちゃんの年の功ですね。それで、今日のお天気は」
「大学生の高血圧が張り出して腫れるが、喜多方の河童が来襲します」
「何だ……ああ、大陸性の高気圧が張り出して、晴れるが、北からの寒波が来襲するのか」
って、息子の方が頭の体操をやっている。
しばらくすると、お隣がおかしくなった。喧嘩のふりをしているうちに、だんだん相手の悪口をいい、本当の喧嘩になって来たらしい。お婆ちゃんが止めに行くと、
「放っておいて下さい。今日は本当の喧嘩なんです」
「今日はって、いつもは違うんですか」
「いつもは、お宅で頼まれて嘘の喧嘩をしていたんです」
「あらまあ……じゃあ、今日の喧嘩の原因は何なんです」
頼まれた喧嘩を続けるか、やめるかでもめているんです」
【成立】
大野桂作。もちろん、お婆さんちゃん落語でお馴染み古今亭今輔(5)が演じた。今輔からの依頼を受けたが、なかなか書けず、今輔から、公演で弟子の円右に代演を頼むことにしたという手紙をもらって慌てて書き上げた。楽屋を訪ね、朗読して、OKをもらった作品だという。