【粗筋】
上燗屋で、店の主人をからかいながら飲んでいた男、いざ勘定になったが細かいのがない。夜店の道具屋で両替をするというのを、自分でやってくると道具屋の店をのぞくと、仕込み杖があったので、面白がってこれを買って家に帰る。
刀を持つと使ってみたくなるのが人情。わざと戸を半開きにしておくと泥棒が入り込み、中をのぞきこんだ途端に首を斬ってしまう。
泥棒あわてて逃げ出すが、首の皮一枚残っているだけなので、動くたびに頭がぐらつく。間の悪いことにちょうど火事に出くわし、現場へ急ぐ連中が、提灯を前に出して「火事や、火事や」と走っている。そんな人にぶつかってとうとう首を落とした盗人、首を拾って、グーッと前に突き出すと、
「火事や、火事や」
【成立】
安永3(1774)『軽口五色帋』の「盗人の頓智」。東京では盗人ではなくなり、「首提灯」という題になる。明和9(1772)年『聞上手』の「すえ切」は、試し斬りで斬られた男が知らずに進み、しばらくして首が落ちる。後ろから「もしもし、首が落ちました」
延宝8(1680)年『囃物語』序は、盗人が斬られた首を懐に入れて逃げてしまう、奉行所に届けると、もし首のない者が道を通ったら捕らえるようにとのお達しが出る。
落ちは東京の「首提灯」と同じであるが、前半の上燗屋の部分の滑稽に重きが置かれ、ここだけを演じる例もある。松鶴が晩年によく演っていた「あとひき酒」などもここからの独立と考えられる。
【一言】
むこう(東京)の『首提灯』では、酔っ払った職人が侍にからんだ挙句首を斬られるのです。職人のタンカの小気味よい緊張感といい、斬られてからのリアルさといい、噺の構成としては東京の方がすっきりしているように思います。その代わり大阪型は、ゴタゴタしたおもしろ味があります。前半の上燗屋での酒呑みのウダウダ言う部分、道具屋とのやりとりのひいたイキのおもしろさ、そしておしまいの首を斬られてからのナンセンスと、いかにも盛りだくさんなコースです。(桂枝雀(2))