【粗筋】
殿様が初音の鼓を手に入れ、「これを叩く時は生き物が現れるというが」と縁側で打ってみることにした。たまたま庭の手入れのために歩役(ぶえき)の者が通り掛かって、
「その方は何者じゃ」
「ただの歩でございます」
「おお、忠信なれば、屋島、壇ノ浦の話をいたせ」
「いえ、私では分かりかねます。次の歩(継信)にお尋ね下さい」
【成立】
『醒睡笑』巻之八の28「かすり」、安永3(1774)年『茶のこもち』の「歩の者」、翌年『聞上手』の「やしま」。文化4(1807)年、喜久亭寿暁の『滑稽集』にある「た々のぶ」もこれだろう。『平家物語』にも登場するが、『義経記』で大活躍をする佐藤忠信・継信兄弟が落ち。弁慶などと同じ架空の人物か。「初音の鼓」という題もあるが、小噺には鼓が出ないし、噺でも鼓を略してしまうことが多い。「初音の鼓」と登場人物を合わせる面白さは噺家が作り上げたのだろうか。速記では歩役の者が、殿様の御出座に慌てて縁の下に隠れるという演出もあるが、それでは次の歩はどこから来るのだろう。
初音の鼓は、親の皮が鼓にされてしまった子狐が、静御前に化けて取り変えそうとする物語。落語の「猫忠」は、そのまま猫に置き換えて、芝居の台詞を生かした噺。