「言葉」は言葉では教えることが出来ません。
言葉をまだ知らない状態の子どもに、言葉で「木」という言葉を教えようとしても絶対に無理です。どんなに丁寧に説明しても子どもには理解できません。
これはchatGPTのような最先端のAIでも同じです。
AIに言葉を学ばせるためには、人間が言葉を教えるのではなく、多様な言葉を山のように体験させる必要があるのです。各種各分野の言葉をAIに体験させ、そこから知識や論理を抽出させ、「言葉とは」ということを自分で学ばせるのです。
だから「どういう言葉を体験させたのか」ということが、「AIが使う言葉」を決めてしまいます。
でも、AIは言葉から言葉を学んでいるので「嘘」と「本当」の区別が付きません。「石」を「木」と嘘をつくような文章をいっぱい読ませたら、実際の「石」や「木」に触れたことがないAIは「石」を「木」だと思い込むのです。そして、「木ってなあに」と問いかけられれば、その嘘をそのまま答えるようになります。
宗教を信じている人達の言葉を学ばせればAIも神を肯定するでしょう。でも、無神論者の言葉を学ばせればAIも無神論者になるでしょう。直接自分で現実の世界を体験する能力や、自由意志を持たないAIには他の選択肢はないのです。
AIが使っているのは「言葉によって作られた言葉」です。それは、身体的な体験とつながらない「空っぽの言葉」です。「水」についてどんなに詳しくても、自分自身の体験としての感触を語ることは出来ないのです。
そして、同じような現象が子どもに起きるのです。最初に「言葉で言葉を教えることが出来ない」と書きましたが、子どももAIと同じように自分の周囲にいる大人が日常的に使っている言葉を聞きながら言葉を学ぶことが出来ます。(というかその原理を使ってAIに言葉を学ばせているのですけどね。)
でもその場合学ぶことが出来るのは、AIと同じように「言葉の使い方」だけです。その言葉の「中身」を学ぶことは出来ません。
大人の会話を通して「お金」という言葉を覚えることは出来ます。また、大人と同じように「お金」という言葉を使えるようにもなります。
だから大人は子どもも「お金について分かっている」と勘違いしてしまうのですが、実際に子どもが知っているのは「お金」という名前と、その名前の使い方だけです。「お金そのもの」のことは全く分かっていません。
大人は子どもが大人と同じような言葉を使っていれば子どももその内容が分かっていると勝手に解釈してしまいますが、子どもが知っているのは「名前」と、その「名前の使い方」だけなんです。
大人は子どもに約束させたがります。そして「約束よ、分かった!」と言えば子どもは「分かった」と答えます。「約束」という言葉の使い方は分かっているからです。でも、「約束」という言葉の中身は知りません。「約束とはどういうことなのか」ということは全く知らないのです。
ですから当然、その約束は守られません。すると大人は「約束したじゃない、嘘つき!!」と子どもを罵ります。
でも子どもは「自分が何か悪いことをしたらしい」と言うことは分かっても、「なんで叱られているのか」は理解できません。だから同じ事を繰り返します。そして、「自分は嘘つきなんだ」という言葉を信じ込みます。
ちなみに、子どもが「約束」という言葉を理解できるようになるのは思春期が来て「社会」というものが理解できるようになってからです。
同じように、子どもは大人の会話を通して「命」や「木」や「水」と言う言葉や、その言葉の使い方を学ぶことは出来ます。
でも、言葉を覚え、言葉の使い方は分かっても、直接「命」や「木」や「水」と触れたことがない子には、その中身が分かりません。だから簡単に「殺すぞ」とか「死ね」とか言えてしまうのです。
そんな時大人は「まだ子どもなんだから」とか「自分が言っていることの意味が分かっていないから」と大げさに扱わないように言いますが、でも、幼いときにそういうものと出会う場や出会う体験を与えなければ、そのままの感覚で大人になってしまうのです。
「言葉」よりも「体験」の方を先に与えた方がいいのです。言葉は後からでいいのです。でも最近の子は言葉だけ学んで、体験と出会えないまま大人になっていきます。