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成定 竜一~高速バス新時代~

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2013.01.15
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カテゴリ:高速路線バス
「新高速乗合バス」は、もちろん決して私が作った制度ではないが、公式、非公式にいろいろアイデアを提供させていただいた。出来上がってから振り返ると、学生時代、京王新宿高速バスターミナル(通称「西口」)でのアルバイト経験がそれらアイデアの原点であったとあらためて実感する。厳密には、「西口バイト時代に感じたこと→愛好家として『妄想』→楽天時代に高速ツアーバス各社の事業に反映するよう提案→あり方検討会で、高速ツアーバスの『長所』として新高速に取り入れることが決定」という流れがあってのことだ。

その一つ、レベニューマネジメント(RM)概念に基づく「幅運賃」の原点は「8:00の飯田」だ。長野県飯田市は決して大きな都市ではないが、鉄道が極めて不便で、自家用車か高速バスしか対首都圏の交通機関がなく高速バスの利用は多い。こういう路線の特徴は、首都圏から現地へ向かう出張族が高速バスを利用してくれることだ(逆に鉄道との競合が激しい新宿~松本線などは、現地から首都圏への出張客はそれなりにバスを選んでくれるが、首都圏から現地への出張客はまず鉄道を選ぶ)。そして飯田まで所要時間4時間強だから、午後イチにアポイントを入れ新宿8:00便、というパターンに集中する。1本前の7:20便も1本あとの9;00便もガラガラなのに8:00便は満席というシーンが平日によくあった。

だが、では8:00発の乗客の全てが出張客かというと、飯田の実家に帰る学生あたりがけっこう混じっていたりする。彼らは、実は前後の便でもいいはずだ。13:00アポの習慣がある出張客は8:00便しか選択肢がないが、そうでなければ前後の便でも問題ない。一方で出張客は経費が会社持ちだから価格にそんなに敏感ではないが、逆に学生は数百円でも気にするはず。もし8:00便と前後の便で運賃差を付けられたら、学生は数百円セーブでき、かつ直前に予定が決まり事前に予約できなかった出張客は第一希望の8:00便に乗ることができ…みなハッピーなのに、という発想が「幅運賃」につながっている。

一方、「管理委託」の原点は(共同運行化する前、相互乗入時代の)富士五湖線と、夜行各線(といっても当時の京王の夜行とは、現・西東京バスの大阪、高松、松山線と現・西鉄単独の福岡線で、現在の京王の夜行路線とは異なる)である。当時、首都圏の大手私鉄系事業者は、総じて高めの人件費かつ車庫用地の限界というリソースの縛りがある中で、貸切バス事業からの撤退を開始していた。その副作用が、貸切バス車両を用いた繁忙日の増発(続行便、臨時便)による波動対応が困難になったこと。一方で地方側の共同運行先はどんどん続行便を設定してくる。富士五湖線の京王担当便、夜行各線の京王担当日だけ増発が設定されず早々に満席になり、窓口で発券を担当する立場としては、満席でお断りするのはなんとも申し訳ない気分だった。

共同運行先の貸切車両を京王便の続行便として運行すればいいとはいえ、それには様々な支障がある。なんとか続行便を増やす手段はないだろうかと考えていた時、貸切専業のバス事業者の車庫の前を通りかかると、バスがたくさん「寝て」いた。よく考えたら、年末年始など高速バスの繁忙日は、遠足も修学旅行も冠婚葬祭も社員旅行もなく、実は貸切バスの閑散日なのだ。これを高速バスの増発に使えないのか? もっとも、当時は乗合バスにも貸切バスにも需給調整があった時代。貸切専業の事業者がどんな理由であれ高速バス(乗合)の運行をするなど考えられもしなかった。

高速バス事業(あるいは宿泊や航空なども同様だが)の宿命である「繁閑の差」を何とか乗り越えようという思いは、大学卒業後に就職したホテルでたまたまRMの導入という大仕事を仰せつかったことで、さらに強くなった。その後の楽天時代、高速ツアーバス各社を集めてRMのレクチャーを繰り返し各社とも有効にそれを活用してくれ、このたびの制度改正で既存の高速乗合バスに「逆輸入」することができた。

「幅運賃」の本格的活用は各社のシステム改修完了を待つしかないが、名鉄/九州産交の名古屋~熊本線の、往復割引を廃止しかつ正規運賃を値上げすることで繁忙日の単価を引き上げつつ、繁閑に合わせ5段階の運賃を設定し閑散日は値下げするという施策は、システム改修無くともRMが一定程度実現することを示している。単なる割引ではなく「繁忙日の単価アップ」「ウェブ限定とせず電話、窓口でも全乗客(障がい者割引など除く)に多段階の運賃変動を適用」辺りが既存高速乗合バスの従来の施策から一歩進んだ点だろうか。

「貸切バス型管理の受委託」も手探りながら活用が始まった。この年末年始からスタートしたのは3パターン。まず、京王がアルピコに新宿~松本線、長野線の一部の所定便を通年で委託開始した。もともとこの2社の共同運行だから、<運行比率を変えただけでは?>とよく聞かれるが、委託便は、運行はたしかにアルピコながら、売上は一度京王に立ち、そこから固定額の委託費が支払われる点がポイント。京王に限らず都内大手は、特に車庫用地に限界があり運行の規模は拡大しづらい。一方で両路線とも需要は強く増便を繰り返している。さらに細かく言うと、乗客は松本、長野側在住者が多いから現地午前発→新宿夕方発のダイヤを増やしたい。だが50%ずつの共同運行だと無理がある。そこで所定便を委託し、京王に生まれた運行余力は、(他路線も含めた)繁忙日の波動対応に回していく。

京王はもう1社、西東京バスにも委託を開始した。こちらは年末など繁忙日の続行便に入る。西東京バスは八王子郊外に多く立地する大学の学生向けに新宿~各大学の送迎業務を貸切バスとして請け負っているが、大学の仕業は平日中心。京王からの受託を前提に思い切って高速バスの続行に使えるトイレ付車両を投入し、車両と人の効率的運用を実現した。

関西では、西日本JRバスが日本交通(大阪~高知)、帝産観光バス(大阪~金沢)に繁忙日の続行便を委託開始。日本交通は厳密には貸切専業ではないが、いずれにせよJRバスの2号車に他社の貸切バスが入る「図」はセンセーショナルだ。これは上に書いた通り年末年始等は貸切バスの需要が減るので高速バス事業と補完関係にあることを利用したもの。

もちろんいずれのパターンも、目指しているのはそのような足元の増収策だけではないだろう。大都市立地の大手私鉄、JR系事業者は、何度も書いてきたように、運行コストやリソースの限界がありこれ以上「走る(バスの運行)」ことから収益を上げづらい。しかし、全国から情報が集約され人材も豊富である強みを考えると、「考える(戦略、戦術)」ことをもっと収益源にできるはずだ。そして乗車率や単価を戦略的にコントロールすることで収益性を高め、その新たな収益をさらなるサービス向上(総体的な単価下落を含む)に再投資し顧客基盤強化につなげる…「筋肉質」な高速バス事業の中核的役割を担うべきだ。

一方で受託側にも思いがある。アルピコなど地場の既存バス事業者は、人口減、旅行形態の変化(団体から個人へのシフト)を考えると地元での「平場」の路線バスや貸切バス事業の成長を望みづらい。このたび、同社は思い切って東京営業所を新設。従来からの共同運行先である京王以外の高速乗合バス事業者へも、管理受委託を提案、営業している。

そして帝産観光バスのような貸切専業者にとっては、もちろん貸切マーケット縮小の補完になるとともに、「JRなど大手乗合事業者からの受託」は、採算とは別の意味を持つはずだ。今回、受託者にはアルピコ、西東京、日交、帝産と見事に一流どころが並んだが、その次に位置する準一流~中堅クラスの貸切バス事業者にとって、追いかけるべき新しい夢が誕生したはずである。





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Last updated  2013.01.15 17:30:01
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京帝117@ ご参考まで この度 K電鉄バスの取締役安全技術部長に…
京帝117@ 残念でした 他にメッセージをお送りする方法を知らな…
成定竜一@ Re[1]:中央高速バス~ふたつの路線~(02/24) 京帝117さん、コメントありがとうございま…
京帝117@ Re:中央高速バス~この風は、山なみの遙かから~(03/02) 86年に私と、その後KKKに入社したH君の2…
京帝117@ Re:新宿高速バスターミナル(02/21) 私がカウンターに座っていた時は、空いて…

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