カテゴリ:高速路線バス
前回書いたように、「既存組」の基幹システムが、楽天トラベルなどの予約サイトとシステム連携を行なった際、一部を除いて「在庫フルオープン」という仕様になった。つまり、繁忙日など人気の便についても、(その気になれば)最後の1席まで、予約サイトが取扱うことができる。なお、高速ツアーバスからの「移行組」の各基幹システムは、もともと、各予約サイトに対し何席販売を任せるか制御することができる。事業者が、販売力や手数料率を勘案しながら、自社サイトも含めた各販路に対する提供在庫数をコントロールできるのだ。それが健全だと思う。
予約サイトとしては、「既存組」のそのような判断は一見「しめしめ」だろう(「既存組」各社は、今後、各予約サイトのパワーが拡大しても、「搾取されている」などと言わないでほしい。上記仕様を選んだことでその権利を失ったはずだ)。だが本当に「しめしめ」なのか。 現状、「既存組」による予約サイトの活用は、長距離夜行路線が中心だ。高速ツアーバスがその種の路線で「攻めて来た」という理由が大きい。発券期限が厳格に設定され、どうせコンビニ等で事前発券され手数料が必要なので、予約サイトで販売しても手数料の負担感が小さいということもあろう。だが、「既存組」が予約サイトを活用すべきなのは夜行路線だろうか。いや、高速バス市場の多くは高頻度昼行路線が占めている。それらの路線では、地方側を朝、また大都市側を夕方以降に出発する便は地方側在住のリピータで高乗車率であるが、大都市での需要喚起が不十分なため、大都市側の午前便、地方側の午後便は乗車率が低い。午前と午後では別の市場が相手であり、片方の「伸びしろ」がまだまだ大きい。 その伸びしろは、まさにウェブマーケ、特に宿泊とのクロスセルを期待できる総合予約サイトと親和性が大きい。つまり、まだ予約サイトに登場していない高頻度昼行路線こそ、予約サイトを活用すべきである。だが、地方側のリピータが、ポイントプログラムなどを目当てに予約サイトに転移すれば手数料負担が増加するのみ。だからこそ便ごとに提供座席数を変動させ、大都市側の観光客の利用が見込める便に限って、予約サイトに座席を提供すべきなのだ。 「在庫フルオープン」仕様になったことで、10年前に私が絵に描いた「大都市部からの観光需要を予約サイトが喚起」という構図が遠のいた。これは、高速バス市場の「本丸」たる高頻度昼行路線の取扱いが進まない予約サイトにとってはもちろん、「既存組」各事業者にとっても、乗車率向上の大きなチャンスを失ったことを意味する。 普通の商品(例えばパソコン)ならば、店によって在庫があったりなかったりするし、すぐ「お隣」の宿泊予約の世界でも消費者は何ら違和感なく販路ごとの在庫や価格の違いを使い分けているが、バスではなかなかそうはいかない(制度的には特に縛りはないけれど。特に幅運賃制導入以降は)。「売れ残りそうな座席を、手数料率は高いが販売力がある販路に預ける」というよりは「どこで買っても公平に」ということなのだろう。究極的に「既存組」各社が予約サイトに望むのは、「手数料率を下げてくれたらさえ、全路線の全座席を提供するよ」ということのようだ。「そうすれば、全国の高速バスを一元的に予約できて便利になるし」 それが、前回ご紹介した読者の方のお考えだったようだ。たしかに、「既存組」の予約センターの仕事ぶりなどを見ていても、かなりの数、自社で運行していない路線について問い合わせを受けて他社を紹介している。高速ツアーバスが手を付けられなかった地方路線はマルチトラック化していないから、例えば京王が小田急を紹介しても、阪急が近鉄を紹介しても、ほとんどの場合「ライバル」には当たらないのだ。だからこそ、「全国の高速バスを一元的に紹介、予約できるワンストップ予約サイト」という話が、何かある度に業界内で頭をもたげる。 おそらく「バス屋の夢」なのだ。個社がバラバラに運行する高速バスが、JRブランドで全国を結ぶ鉄道に伍するためにも、全事業者(この場合は「既存組」同士しか意識がないのだろうが)をヨコにつなぎたい、という思いはわかる。たしかに、私自身、学生バイトとして現場にいた頃はそう考えていた。だが、それは本当に意義あることなのだろうか? <次回に続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.09.24 13:41:34
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