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長押 綴

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2011.02.26
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カテゴリ:.1次小
選べないことばかりだよ、人生なんてのは。

歩んではじめて、もしかしたらあんな道もあったのかもしれない、なんて思う。

だけど今歩む道こそが全てと思えばこそ、人は未来へ進めるんだ。





またかよ。

寄宿舎で毎日あたしは一度は後悔する。

なんであたしは、この部屋を選んでしまったんだろう。
なんとなく南側で広めだから選んだ部屋をあたしは毎日後悔する。

何故なら。

「樹里ちゃん、また渓子ちゃんがいじめる~」
「はいはい。苺香、落ち着きな」

こうやって同室の奴と隣の奴がしょっちゅういちゃつきやがるのを延々と見せつけられるから。
それはあたしが二段ベッドの上にもぐりこんでも一緒だ。

「……はあ」

うるさい、なんてもう言えない。
言ったらまたびいびいうるさいから。

嫌なことに、しかもこの関係性は何故か昔からずっと一緒で。
仲良しなのはこいつらなのに、腐れ縁なのはあたしと苺香。

ほんとにばかみたい。

樹里だって、何も知らない癖に。
ばか。ばーか。

焼けそうに胸が痛むのも、もう慣れた。





「死にたい。死にたい。死にたい。死にたい」
「……」

あたしの読書灯がついているんだから、もしかしたら起きてるってこと、苺香は気付いてるんじゃないかと思うんだけど。

彼女は毎晩こうなる。
決まって、樹里が居なくなった後に。

あたしに聞いてほしいのかな。
それとも。
気遣うほどの余裕がないのかな。

……それと、も。

あたしのことがどうでもいいのか。



……前に、気遣った時。苺香はごめんなさいごめんなさいと繰り返していた。

よく知らないけど、苺香には複雑な家庭環境があるらしかったから。
それと、重ねてしまったのかもしれないと思った。

だとしたら人が居るのは逆効果だろうと思った。
樹里ならどうするのだろうか。落ち着かせて、宥めることができるのだろうな。

でも、樹里はこれを知らない。知らない癖に、昼間は苺香に一心に愛されている。

苺香の大嫌いな、苺香をいじめる「おねぇちゃん」と似ているらしいーあたしとは、違って。
峡子とかいうその女は、あたしも見た事がある。
年に一度、どうしても会わなくちゃいけない時があるから。あたし達も心配でついていったのだ。

互いの目はどう見ても相手の事を憎み切っているそれで。
立ち去るとき、また樹里が居ない時に、私はシュラバみたいなものに遭遇した。

「……友達が居る前でも、取り繕えないのねえ」
「……っ行くよ、渓子」
「また、そうやって逃げるんだ」

苺香が、姉を憎む気持ちがなんとなく分かった。
つまりはどこまでも相手を攻撃することに慣れている。
だけど帰りしなにー泣くのをこらえながら背を向けた苺香に投げつけられた言葉に、あたしは少し共感してしまった。

攻撃しないと、苺香に言葉が届く気がしないのだ。

いつも、いつまでも、苺香は自分の望む世界でしか暮らそうとしない。
あたしのように、苺香から押し付けられるものをただ飲み込む人の気持ちなんてきっと分からない。
望んでも得られない、泣き叫んでも意味がないと悟っているあたしの気持ちなんて。

でも、それでも仕方がないのだ。

愛はきっと生き物に課せられた仕事なのだから、あたしは。あたしだけは。この世界を、この夜を、ただ静かに、愛を持って見守ってあげよう。これからも。





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最終更新日  2017.04.30 01:06:32
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