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カテゴリ:◎2次裏漫
彼はあたしを必要だと言ってくれた。
あたしだから、と。 そんなこと、男の子に言われたことなかった。 すごくうれしかった。 うれしかった、んだけど。
こんなこと、大親友にも言えない。 大親友の彼女のツレ、おいしいパスタ作ったお前、なんて歌がある。 彼と話してる時はあの曲がよく頭ん中を流れてた。馬鹿って言われそうだけど。 大親友のことを大事にしてるあの人のツレが、彼だった。 だから、最初からいい感じだなーって思ってた。 得体のしれない相手だって、あたしたちのチームの何人かはピリピリしてたけどー 新しく入ってくる子なんていつでもそういう扱いを受けるものだし、何か大きな問題でもなければそのままなじんでいける。 その手伝いをしたくて、皆がぴりぴりしているのがイヤで、初めは支える為にピエロになった。 じきに、あたしが敢えて空気読まないことするまでマジ惚れしちゃうなんて思わなかった。 頭が良くて。 スポーツがうまくて。 冷静なのに、案外心の中は熱くて。 汚れ役を買って出ようとして。 あの人に見られることも他の誰かに認められることもなく、ただあの人の為に一心に尽くすその姿が、とても綺麗だった。 あたしにその想いが向けられることは期待してなかったけど、それでも一方通行でもいいから彼を守りたかった。 きっと、あの人に向ける彼の守りたい気持ちと同じ。 他の人に対しては、あの人に向けるものほどではないけど面倒見はけっこうよくて平等。 そんな彼に絡んでうざがられてはの繰り返し。 それでもそのやりとりが楽しかった。 だから――――だから。 はじめて抱きしめ返された時は、もうここで死んでもいいとさえ思えた。 それなのに。 「必要だ」 そう、繰り返し言ってもらうたびに、 抱きしめられるたびに、 あたしの心と彼の心がすれ違っている気がするのは何でだろう。 ごまかされてるような、あたしの捉える必要と彼の捉える必要のテイギが違ってるように感じるのは。 彼は、いつもあの人を見てる。 それは、危なっかしいからとか、支えに生きてきたとか、幼馴染だとか、そういうのを越える何か。 子供が出来たら、そうしたら、もっとこっちを見てくれるんじゃないかと思ってた。 ……あの人も、本当にうれしそうに、あたしと彼の仲を応援してる。 * ー甘かった。 子供。 子供を必要としていたのは。 誰よりも、彼――――が、大事に思うあの人。 あの人と彼は、子供を作ることは出来ない。 一番近くに居ても、どんなに尽くしても。 だから。 だから、きっと。 あたしの何よりも『ここ』が大事にされてた。 他の人じゃなくて。 どんなことをされても、彼をきらいになれないあたしの『ここ』だから。 ねえ。 生まれたその子を、そうやって命をかけて守るのは、家族のように愛するのは、誰の為? 彼には訊けない。 きっと彼も自覚してるけど。 そして綺麗過ぎるあの人は、自覚してもない。 その目が日に日に憎らしくなる。 あの人は、今日もその綺麗な目で、愛おしい目で、あたしよりも、彼よりも、わが子を見るような眼差しで、あたしと彼の子供を見つめる。 見ないで。 なんて、言えるはずがない。 そんなこと言ったら、彼にきらわれてしまう。 だけど、その綺麗な慈愛の眼差しに、かつての行き場をうしなってしまったたまりにたまった大きな大きな愛に、あたし達の赤ん坊は、さらわれてしまいそうで。 苦労を買って出るあの人の振るまいがいやでたまらない。 ヨメシュートメ大戦争とか、ヨメコジュートメの争いとか、田舎という村社会にやってきたお嫁さんの苦労とか、見てきたけど。 あたしはああはならないようにって、要領よく動こうって、思ってたけど。 無理。 いっそ、さらわれてしまったら、そうしたら、あきらめられるのかな。 愛せない。 疲れた顔だねと大親友には言われる。 産後のヒダチが悪いのかもと言う。 バカの振りバカの振りバカの振り。 都合のいい子都合のいい子都合のいい子。 あたしはそういうキャラでしょ。 愛さなくちゃいけない。 取られる。 でも、愛せない。 最初から勝負にもなってない。 闘っちゃいけない。 周囲の人に今日も笑顔をばらまく。 気をまぎらわすように。 周囲の人は、あの人に近付かないから、きっとあたしの気持ちは分からない。 誰にも言えない。 空気を読んで。 空気を読めなくて。 息ができない。 ぎゅっと、あたしの指を握るその小さな手が、あたしを必要としてくれるから。 息をしなくちゃいけない。 お願いだから、彼に似ないでと祈りながら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.10.23 19:12:26
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