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奴隷になってから久しいが、なんか僕こっちの方が向いてる気がする、と、大陸に名を轟かせる貴族の十男坊は思った。
人権ないといえばないけど、一応主人優しいし。仕事決まってるし。複数の人を動かす責任とかないし。 唯一困るのが同僚とのコミュニケーションか。なんか下層過ぎて言葉通じない。 「……天蓋って、何?」 「……ベッドにつく覆いのこと」 「ベッドって?」 「…………」 こんな風に。 けれど、呆れ困ると同時に。 何故か僕の口は奇妙に口角を上げるのだ。 「政治って何?」 「芸術って何?」 「宗教って何?」 こんな話を聞くと、笑えてくるのだ。 とうさま、あなたのあれだけ押し付けてきた考えは、ここでは無価値なのですよ! あなたが『これがなければ世を生きていけない』とまで言い幼い僕を震え上がらせた思想などなくても、ここの者達はこんなにも元気に生きているのですよ! 笑えて笑えて笑えて、――……ふっと、虚しくなる。 ……あー、僕これからどうなるんだろう…… なんか乗ってた船襲われて身分良さそうだからって人質取られて身代金祖国に要求されたけど結局彼らに切り捨てられてしまいましたし絶望しかありませんね。初めの内は強制的に下働きに使われてたけど、倒れてからは働けない奴隷ってことでひとところに集められて、何も説明受けないままどっかに運ばれてるのはもう嫌な予感しかしませんね!!何日か太陽見てないよ!もうそろそろ野菜食べたいよ!!!少なくてまずい保存食飽きたんですが!! ああ、内臓いくつか売り飛ばされるのだろうか。 それとも口には出せないような汚れ仕事をさせられるのだろうか。 どちらにしろ、(生きてれば)国にいた時は存在を知りつつも投げ銭与えるくらいでしか関わって来なかった奴らから更に見下される生活の始まりだよな、逆に面白そうだな!!! 神も仏も信じちゃいないが、僕自身の心持のしぶとさは信じている。というか、それに縋るしかない。 誤魔化すことでどうにかしていた僕及びその他体力の無い奴隷たちのもとに、唐突に鈍い連続した音。 ……これは。 「足音?」 言うが否や、ドアが開かれる。うわ、眩しい。 「お待たせしました、みなさん。私達の島に着きましたので、そこで、働いていただきます」 ふわんと料理の匂いが、逆光で潰された小柄な姿から香る。 「といっても、長旅で、食料も節約していましたので、急に動くことは難しいでしょう」 召し上がってください、と彼女の体に不釣り合いな大きな鍋を、これまた大きな音を立てて置いた彼女。 女神か。 そう思いながら、何故か俺は。 「えっ、ちょ、どうしたんですか!」 「な、なんでもないです……っ」 泣きながら、今まで浮かべたことの無い笑みを、何故か自然と浮かべていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.12.28 22:50:13
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