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カテゴリ:.1次メモ
「……ハイハ!どこに行っていたんだ、捜していたんだぞ」
目の前にはチムの優しげな顔。 以前は唯一の救いだったこの声も、暖かな目線も、今は少し居心地が悪い。 「すまないことをした、チム」 「…いや、見付かったならいいんだ。ハイハ、少し付き合ってもらいたい場所があるんだが、いいか?」 「え?」 「宝の収穫だ。ニースとリシカが、手が足りないと言っていてな……以前見てみたいと言っていただろう。今晩だ」 ……それだけで、済むはずがないと六感が告げている。俺は嘘には敏感なんだ。俺自身が嘘吐きなんだから、違いない。 チムの後ろ。ニースの存在はいまや怖くない。居続けようと思うから怖かっただけだ。 ニースと、俺に同情から優しくしてくれているリシカ、そして俺と同じように後ろめたいものをもつチム、そして俺。最後の話し合いの場を設けてくれたのだろうか。全てにおいて嘘を吐くことでしか生きられない俺を、最期に、綺麗に息の根を止めるために。 「……悪い、ほかの作業がある。また今度誘ってくれないか?」 今度など、きっとないが。 決意を込めそう言うと、悲しげな顔をするチム。 罪悪感と寂しさで胸がずくりと鳴る。 「そうか。なら仕方ないな……今回は、やめよう」 そう言って立ち去るチム。 その背中がどうしようもなく独りで、そうしてその独りに寄り添う誰かがじきにできるのかと思ってしまうとつい、 「……っ」 *** 走る音より大きな胸の音とともに、俺はあの闇の中に飛び込んだ。 「……ごめん、ティモ。誤魔化しきれない。今晩は無理みたいだ」 「…まあ、仕方がないね。カッフィもまだ準備することがあると言っていたし、明日にしよう」 そう言って、実に優しい信じきった笑顔を浮かべるティモに罪悪感。 まさか同情心と恋の残骸に動かされているなどとは考えていないのだろう。 「ところで、カッフィは何をしているんだ?」 「……カッフィは、この船に残る」 「え」 あのくそまじめな顔が過ぎる。 「僕とハイハを送り出すために、手引きに徹すると。この船になじみすぎてしまったんだ、カッフィは」 さびしそうな顔をするティモに、さきほどのチムの顔が重なる。 「……大丈夫だよ、俺は、一緒に行くから」 そうだ、チムには寄り添う人がほかに幾らでもいるのだから。 *** それでも、逃げなかった今晩はチムに捧げたい。 そう思って追い掛けた。ティモと話す直前にそのひらめく裾を、直後に彼の時間をこの手に握り締めた。 「一緒に行くよ」 これでやっと、この恋心を完全に殺せる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.03.29 15:49:29
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