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クール田中が怪物に食われた。
「脳の断面」 「うわああああああっ!!?」 「突っ込みくんうるさい」 「運ばれてる分際で文句言うなハゲ!」 「えっちょっ酷くない!?それに何!?僕がイケメンだって!!?嬉しいけど今言うことじゃないよ突っ込みくん!」 「だあああああああああああああああ!!!」 佐藤は相変わらずマイペースだ。前々からおかしい奴だと思っていたがここまでくるといっそすがすがしい。 クール田中が呑み込まれたのを皮切りにして、一瞬にして沸き立った海。 押し合いへし合いしながらももっとも近くに居る者達を呑み込みながらあいつらは追ってきた。 「うあ、うあ、うあああああああああ!!!」 「大丈夫だ木鈴、大丈夫だ」 木鈴は泣きながらも自分の足で走っている。最早幼女の走る速度じゃない。セコム田中、どれだけ特訓したんだ。 「ネエ、トチュウデドコカカクレタホウガヨクナイ?」 「そうだな、良い所が見付かればいいが」 大蛇の形態に戻ったワタは最も足場の悪い瓦礫に覆われた道をするすると走る。 ワタに言われたように、周囲を見渡す俺。しかし閑散とした海辺一帯には小さな瓦礫大きな瓦礫しかない。たまに視界の端に民家が映るが、海から8割がた姿を現したやつらが一瞬にしてそれらを屠っていく。 民家の中に誰か居るんじゃないかとか心配して助けに行く余裕なんてない。都心のビル群のサイズで砂山を作ったように自由に溶け崩れてはまた盛り上がり確実に俺達を食い殺す気でかかってくるそれは段々と速度を増しているようにすら思える。 囮になると言って照れ田中と一緒に違う方向へ走って行った高橋先生は無事だろうか。 同じ研究所で改造されたからか、彼女は確かにあの肉達を若干ながらもひきつけているようだったがここまで追手が多いと焼け石に水、効果があるのかないのか。 脳裏に浮かぶのはワタの居た研究所、地下の冷たいコンクリート金属に蛍光灯。あそこには閉塞感も安心感もあった。あそこに潜ればしばらくはやり過ごせるだろう。……だけどここから何キロあるっていうんだ。 木鈴の息が切れてきたみたいだ。もういっそ俺達だけ捕まるか?最後にあがいておけばちょっとは足止めをできるか?あの肉の波を喰いながらならば食われることにも耐えきれるか? 肉は地平の瓦礫も地面も仲間さえも喰らい尽くし増殖しながら迫ってくる。まるで分裂する度に怪物達を食べて回復する俺達のような。 振り返る余裕もないが、きっと右から左へ一直線に肉の線が見えるんだろう。 どれだけ走った? 気付けば周囲にはバラックが増えていて、逃げ出した人々の生活の跡と、そして。 「婆さん、捕まってろ」 「……おい」 「何だよ、文句あんのか」 「ないけど……」 「僕が落ちちゃう」 「お前は黙ってろ」 止めない。「俺」だから、気持ちも分かる。 だが、 「……行けるのか?」 「行くしかないだろ」 本当に大丈夫なのか。 ああ、でも通りすがりの老婆やら子供やら何人もを無理にでも連れて行こうとする突っ込みに駆け寄る俺も、俺か。 「手伝う。元々こっちの地方に来たいと言ったのは俺だからな」 「私も手伝います」 「浜から随分離れた、少しは弱体化しているだろう。守り切れる筈だ」 いつまでも逃げてはいられない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.06.18 02:05:00
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