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「で、お前は敵か?味方か?」
何を言う暇も無く、ゆっくりと手を引かれて連れて行かれた食堂。 ぼそぼそ、がやがや、てめーけんかうってんのかーと喧騒響く中、切り出された言葉がこれだ。 「えっと……」 「……」 何も言われていない。言われていないが、左前から物凄く圧力を感じる。恐らく先程俺に詰め寄ってきた背の低い奴だろう。 「ウツギ、ガン飛ばすな。まだはっきりしてねえだろーが」 「はーい」 この。『はっきり』とは。 もしかして、このヤクザの兄貴分っぽい人は、味方には情が厚いけどそうでなければ冷酷無比、とかそういう人だったりするのだろうか。 「……ええと、俺、いきなり、なんか、『カミサマ』?に連れて来られて、ここのことも良く分かってなくて。敵とか味方とか、すみません、分からないんです」 こういう時は。 馬鹿に徹するに、限る。 こういう態度は恐らく一部の人をイラつかせる。気丈に振る舞った方がいい場合もあるだろう。 だが、下手に振る舞えば即殺されるかもしれないここで、そんな博打を打てるほど俺は自分に自信を持っていなかった。 「もしかしたら、あの、後輩というか、いやそれより部下?下っ端?としてここで暮らすかもしれませんが……」 へりくだり過ぎたか。 こちらの反応を窺っているのか、それとも何を言おうか迷っているのか、右前の『デイゴ』とウツギに呼ばれた男はだんまりを保っている。やたらデイゴの真似をしたがるウツギもそれに従っている。ああ、畜生、こういうプレッシャー苦手なのに。空間に言葉がなければ焦って放出してしまう俺はこういう時大抵口を滑らせて、更に空間を重くしてしまうんだ。だから、求められなくても助ければ喜ばれるヒーローの仕事が好きだったのに。 「……そうだな。お前さん、多分人に色々決められて生きるタイプだろ」 「へっ」 「人の為になるようにって思って人の意見求めすぎるほうだろ?だから、いざ自分を求める人間が居なくなったらどう生きればいいのか分からなくなっちまうんだ」 「……」 この人の言っていることが、急に大量に言葉を渡されたせいか、半分も呑み込めない。けれど、当たっているような気もする。 「……俺は、ヒーローとして、生きたかったんです」 ぽつりと言う。人の感謝する声が好きだった。その心底嬉しそうな心境を推測できるような時が至福だった。仲間とやったなと声を掛け合うのが楽しかった。無力な過去の自分を粉砕できるような、「昔からは変われた」と思えるこの力が頼りだった。 「けど、俺程度のできることだったら、俺なんて居なくても、きっと他の仲間がやってくれます」 ぽたりと何かが垂れる音。気にしない。目に写らないなら、それはなかったことにできる。いや、そうしたいのだ。相手にもそうであると、相手がそう振る舞ってくれると、なかったことにしてくれると思いたい。 「……なら、俺の『仲間』になってくれねーか」 誰でもいいんなら、俺の仲間になってくれてもいいだろ?と、その人は言った。 「俺はお前さんを唯一無二にするわけにはいかねーし、時にお前さんを俺がヒーローみたいに助けるかもしれない」 「……まあ、それは、仲間でしたら、それはそうでしょう」 そんな、密接な関係など恐れ多い。 「この組織には、お前さんの望む『相棒』だの『パートナー』だのは、居ないかもしれない。勿論俺がなれるわけでもないだろう。お前さんを引きずり込もうとしてる癖にそういう事を言うのはずるいかもしれない」 でもな、と彼が続ける。 「もし、仲間になるんだとしたら。『先輩』としては、頼りにしてほしいと思う」 何も映らない目に、少し、ほんの少し暖かい色が見えた気がした。 「さっきお前さんが後輩って言ってたようにな。……勿論こいつ、ウツギのことも、そこまで頼り切る相手ではないにしても、まあ、普通の学生の仲間と似たようなものだと思えばいい」 ――――――世界には色々な関わり方がある。けれどどうしても何か割り切らなきゃいけないって時には、俺は『仲間』のほうにつく。―――――― そう言って『先輩』は、その話を終えた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.08.04 02:56:01
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