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長押 綴

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2013.06.14
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カテゴリ:.1次メモ
 白い女性が歩いている。
 手足は抜けるように白く、所々仄かに温かみを示す桃色。
 白装束の上の羽織は周囲の木々と溶け込む色で、空を流れる雲の影を映している。

 ふ、と立ち止まる。
 草履からしゃり、と音が鳴る。

 彼女の目線の先には、醜い凝りがあった。
 一瞬も迷わず彼女は手を伸ばす。力強い手付き。

「もう、大丈夫だよ」

 彼女の顔の上半分は、紫色の仮面に覆われていて判然としない。
 けれど彼女はその口角だけで慈悲を感じさせた。
 その声の温かみに溶かされるようにして、凝りは微かな笑みを浮かべた。

「ありがとう」

 その声に、彼女は手甲が張り詰める程に手を握り締めた。

「……、いいのよ」

 これぐらいしかできないから、と口惜しそうに口を歪める。

 絞り出すようなその声を聞いていたのは、彼女の足元の影だけ。


「なぁ」
「にゃ」
「にゅ」

 翡翠の三対の目は、彼女を慰めるように取り囲む。

「……それでも、やんなきゃあ、ね」

 口元を引き締め、彼女はまた歩き出す。
 背中に負ったものは、彼女が人を救うごとに増えていく。
 けれど彼女はそれでも笑みを浮かべるのだ。

 いや、それだからこそ、と言うべきか。
 彼女はそういった自分の生き方に矜持を持っていた。

 彼女は木々の中を散歩しているようだと思う。
 その中で会った友人と立ち話をしているような、道で倒れた人を助けるような、そんな自然さで彼女は人を人として救ってゆく。
 彼女の心はこれまでにない解放感と義侠心に満ちていた。


「そちらに行くのは、当分先になりそうだけれど、許してね。

 ……気持ちは、ちゃんと届いているから」


 いつにか緑の風景は途切れ、三匹は木漏れ日の端で立ち止まる。

 彼女も、立ち止まっている。
 彼女を想う気持ちが、彼女をそこから先へ進ませないのだ。

「……でも、今度は……今度は、行かなくちゃ」

 彼女は一歩踏み出す。……いや、踏み出しかける。
 すんでのところで足を、戻す。

 泣き笑いに似た表情。

 優しさは彼女の因果だ。

「……試してみようか」

 故に彼女は、悲壮な決意にも似た表情を浮かべた。





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最終更新日  2015.10.25 22:49:18
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