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白い女性が歩いている。
手足は抜けるように白く、所々仄かに温かみを示す桃色。 白装束の上の羽織は周囲の木々と溶け込む色で、空を流れる雲の影を映している。 ふ、と立ち止まる。 草履からしゃり、と音が鳴る。 彼女の目線の先には、醜い凝りがあった。 一瞬も迷わず彼女は手を伸ばす。力強い手付き。 「もう、大丈夫だよ」 彼女の顔の上半分は、紫色の仮面に覆われていて判然としない。 けれど彼女はその口角だけで慈悲を感じさせた。 その声の温かみに溶かされるようにして、凝りは微かな笑みを浮かべた。 「ありがとう」 その声に、彼女は手甲が張り詰める程に手を握り締めた。 「……、いいのよ」 これぐらいしかできないから、と口惜しそうに口を歪める。 絞り出すようなその声を聞いていたのは、彼女の足元の影だけ。 「なぁ」 「にゃ」 「にゅ」 翡翠の三対の目は、彼女を慰めるように取り囲む。 「……それでも、やんなきゃあ、ね」 口元を引き締め、彼女はまた歩き出す。 背中に負ったものは、彼女が人を救うごとに増えていく。 けれど彼女はそれでも笑みを浮かべるのだ。 いや、それだからこそ、と言うべきか。 彼女はそういった自分の生き方に矜持を持っていた。 彼女は木々の中を散歩しているようだと思う。 その中で会った友人と立ち話をしているような、道で倒れた人を助けるような、そんな自然さで彼女は人を人として救ってゆく。 彼女の心はこれまでにない解放感と義侠心に満ちていた。 「そちらに行くのは、当分先になりそうだけれど、許してね。 ……気持ちは、ちゃんと届いているから」 いつにか緑の風景は途切れ、三匹は木漏れ日の端で立ち止まる。 彼女も、立ち止まっている。 彼女を想う気持ちが、彼女をそこから先へ進ませないのだ。 「……でも、今度は……今度は、行かなくちゃ」 彼女は一歩踏み出す。……いや、踏み出しかける。 すんでのところで足を、戻す。 泣き笑いに似た表情。 優しさは彼女の因果だ。 「……試してみようか」 故に彼女は、悲壮な決意にも似た表情を浮かべた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.10.25 22:49:18
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