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唐突だが、私はいつもドッジボールでは逃げ回ってばかりのタイプだった。
当たり障りなければ怖い者から逃げ続ける。 そうしないでいられるのは強い奴らばかりなのだと思っていた。そういう奴が当たって砕けてしまうのを見てやはり私のやり方は正しいのだと思っていた。最後に残る私が卑怯者で関心を向けられないで敵とも思われていないのだということに気付かないままで。 そうして今、この状況でもそれは変わらない筈――だった。 「せんせっ、先生、突然何を……」 どうしてこんなことになったのだろう。 恐怖でまともに動かない頭は、『とにかく敵から逃げろ』とだけ告げてくる。 「簡単なルールだ。最後まで俺に捕まらずに済んだ奴は逃がしてやる。まあ、俺に捕まったやつは俺がブチ殺すから、その死体の中を最後の奴が逃げるのかと思うと今から愉快でたまらねぇけどさ」 「はぁ!?何言って……いった!!!」 突然巨体の教師の腕が薙ぎ払われる。つっかかった彼女は、その餌食になった。 「うっ、うーーっっ…!」 折れてはいないまでも、みるまに赤く腫れて行く彼女を見て、クラスの皆がとった行動はふたつ。 彼女を庇うか、呼び出された物置のような資料室のようなここで隠れたり距離を置ける場所に行くか。 ……そうして、初めの『分裂』は起こった。 「卑怯者と気持ち悪い仁義に突き動かされるやつしか俺の教室には居なかったのか…まあ、いい。今と逆に、俺にダメージを与えられれば俺は居なくなってやる。危害を加える奴は居なくなる。鬼は死ぬんだ。嬉しいだろ?やってみろよ」 名前も憶えたくなかったその教師はにやりと笑った。誰もがそいつをその名前に先生とつけては呼ばなかった。ことを、今更になって思い出した。 * 結局それ自体は大した変化をもたらさなかった。 彼女を庇う者達が作ったバリケードを避けて私達の方に向かって来たり、バリケードを壊したりと教師の行動には余念がない。 それに、彼女は何故か触られた所から赤く腫れが広がって、痛みさえ感じられない状態で火傷のようになって、文字通り『蒸発』してしまったからもう守るものもない。彼女を庇っていた人達は今、自身達を庇うことに必死だ。 くそ、素手だから大丈夫だと思ったのに、何故こんなことになっている。 逃げ続ける私達の体力はもう限界だ。対照的にあいつは何故かぴんぴんしている。化け物か。物置のちかちかと点滅するまばらな灯りのせいで余計にそう見えて仕方がない。 「――っ…!」 私のほうに、来た。 何故か怯えて立ちすくむ奴には目もくれず。机を挟んで対峙する、奴の目を見て狙いを探ろうとするが、そこには純粋な欲望以外何も見えない。妬みと恨みと悦び。ああ気持ち悪い。 「……私、こまわりは効くんだから」 机は立って登れるほど低くない。どうにかよじ登ろうとしたらその最中に逃げてやる。他の奴らが彼女の時と違って、この隙に距離をとろうとしているのが分かる。くそこの野郎。 このまま均衡が続く――と思われたその時、 「はっ……そんなのあり!?」 唯一そこそこ近くに残っていた友人が声をあげた。唐突に椅子を投げてきたのだ。 それをどうにかして避けるが、そうしている間にやつは段々と近付いて来ていた。 「くそ、そっちがその気ならこっちだって…!」 非使用品置き場でこれまで誰も道具を使わなかったのが奇跡だろう。私はさっき投げられた椅子を落ちたそれを掴んで投げ返す。追ってくるスピードはそんなに速くなかった癖に避けるのだけやたらと速くて軽やかだ、畜生。 駄目だ、投げて振りかぶっている間にも距離を詰められている。周囲にあるものを投げまくるが書類なんて目くらまし程度にしかならない。追われているのは私だけ。畜生。 「この野郎」 それでも捕まらない私に業を煮やしたのか、唐突にそいつが投げてきたのは、パソコン。……え? 「あっ、しまっ……」 放さない。これさえあれば外部に連絡が取れるのだから。 それにもしかしたら犯罪計画が載っているのがこいつのノートパソコンかもしれないのに、みすみす放すわけないだろ。 相変わらず一人で逃げまくる私。 背後から迫る存在に気付ける余裕などなかった。 直前までは。 「……え?」 そこには、そこそこ人気のある枯れた雰囲気の先生。 「なんで、××先生……」 「××先生!助けて下さい!急に担任が……」 「…………」 ゆらりと幽鬼のように動く先生は、唐突に私の抱えるノートパソコンを奪おうとしてきた。 「くそっ、やめてください…!」 何だ、何が起こっているんだ。 まさかこの先生までグルなのか。 信じられないような思いのまま、左手でノートパソコン、右手で椅子を持って担任に投げるも、かする程度で終わる。 椅子の重さ舐めてた。このままじゃ腕が死ぬ。 だがそれを続けるうち、どの程度高く掲げれば投げる間に途中で落ちないかも把握できるようになってきた。 「よし、一発当てた……!」 そう叫んだ瞬間、奴の顔が目の前にあった。 「しまっ……」 畜生、私はこれまで奴を直接嫌な目に遭わせたりなどしないようにしてきたのに、どうして。 凍りつく顔の友人を遠目に、私の頭には何故か学級崩壊した担任に対しての罪悪感があった。 奴が「これでやっと触れた」と言うのを最後に、私の意識は途切れた。 ……………… なんだ、ただの夢か。 夏の終わり、あと数日で終わる夏休みの午後を無駄にしてしまった。 昼寝して妙にすっきりとした頭で想う。 あくびを一つして、気晴らしに弟の新しく買ったらしいゲームで対戦をして、私はその夢をすっかりと忘れた。 9月1日、私と、はじめにつっかかった彼女と、先生以外全員が、それぞれ別の原因で眠り続けていると耳にするまでは。 【END?】 ***** --彼のノートパソコンに残された一通のメール抜粋-- このメールを開いたノートパソコンはゲームの通達役となります。ノートパソコンが壊れたり持ち主以外が不用意に操作するとゲーム自体が中止され、夢から抜け出していない人達は自動的に夢の中に閉じ込められます。 最後まで逃げた一人以外は、鬼自身含め鬼に触れられることでその世界から死亡=現実世界での起床、をすることができます。 鬼がそれを追われる側に告げることはルール違反です。あくまで追われる側が逃げ続けるという状況を作り出さなければなりません。 夢の世界が、そこに残された人たちがどうなったかは、起床した3人が生き残った者同士協力して夢の世界に向かうかどうかにかかっていますが、それは逃げ惑われた鬼の良心に一任されます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.08.29 18:31:30
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