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カテゴリ:🔗少プリ
壱弐
---------------- 風がざわざわと葉を枝を揺らす。 「いよいよ雰囲気が出てきたね」 目の前のリョウが笑う。その笑顔は少し引き攣っている。 レイジがトンネルに入ってから、そろそろ5分が経過する。 屈み込んで何かの細工に集中しているヨンイル、元から寡黙なサムライ、騒ぐ気になれない僕の前、次に出発するリョウとビバリーのペアの声が夜闇に不釣り合いなほど明るく響く。ビバリーは初めは大げさに怯えていたものの、止められないと悟ってからは段々と落ち着いてきていた。リョウを宥めるために落ち着かざるを得なかったと言うべきかもしれない。 「まだなのー?もう僕待ちくたびれちゃったよ」 「もうあとちょっとっスよ、待ってる間機材のチェックでもしますか」 「全部終わっちゃったもん。あー、こういうのって待ってるのが一番きついんだよね。 中途半端に怖い状態で吊るされてるっていうか」 ビバリーとは逆に、リョウは段々と焦れたような声色になっていく。 高揚か、それとも恐怖を通り越して躁状態になっているのか。 どちらにしろ煩わしいことに変わりはないが。 「…覚悟を決めて来ているのではなかったのか。そんな重装備でやってきた癖に、今更つべこべ言っているんじゃない。耳障りだ、嫌ならさっさと帰れ」 「こういうのはつべこべ言うのが楽しいんでしょ。眼鏡くんこそさっきからくどくどうるさいんだよ、こんなのただの遊びじゃん。そっちこそ嫌なら最初言ってたみたいに帰ればいいじゃん」 「ああもう、お二人さん喧嘩は…」 「別に喧嘩なんてしてないよ、こいつが口うるさく言ってきてるだけだってば」 ああ言えばこう言う、リョウの態度に苛立ちが募る。 以前から幾度も繰り返されている状況であることを自覚しつつも言い返そうと一歩進み出る。 「直」 突然掛けられた声に振り返る。 サムライが鉄面皮ながら少し困ったような様子をしている。 「……何だ」 少し鎮静したものの、未だに少し苛立ちを含んだ声で問うと、サムライは懐中時計を掲げる。 「時間だ」 ◆ 結局、鍵屋崎との口喧嘩は尻すぼみになった。 「あー、ほんと気分最悪。地味だし暗いし鍵屋崎はうざったいし」 「まあまあ、いいじゃないスか。普段はなかなかこんな所来られませんし」 「そうだけどさー…」 トンネルに入る前、怖い話をしている時のような動悸が今では見事に鍵屋崎への苛々に取って代わられている。 好奇心が萎えたせいか、暗いトンネルを一つのライトだけが照らしてる状況も、黒と白のコントラストが綺麗ぐらいにしか思えない。 頭上には割れた電球や切れかけでちかちかしている電球もあるけれど、懐中電灯が結構明るいものだからか、そこまで気にならない。 「もっと暗いのとか小さいの持ってくれば良かったかな。安全過ぎるとあんまりスリル感じない」 「これで十分スリルあると思うっス…」 歩きながら持ち込んだカメラのスイッチを入れる。 「どうせ後で見返しても僕達の会話ぐらいしか聞こえないだろうけど」 「まあそれはそれで想い出になりますって」 想い出として振り返れる過去がある。 想い出を懐古できる未来がある。 「……そうだね」 だからこそ、今が楽しいんだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.09.17 15:17:49
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