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長押 綴

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2014.09.20
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カテゴリ:🔗少プリ



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闇に吸い込まれていく二つの小さな背中。
何を思うでもなくそれを見詰めていると、唐突に何かに気付いたかのように
ざわりと悪寒のようなものが走る。ゴキブリを発見した時の生理的な拒絶反応に限りなく近い。
だが今ここにはゴキブリなど存在しない、何故そんな反応が出るのか分からない、腑に落ちない。
分からないということが生乾きの靴を履いた時のような感覚を脳に与えてくる。
無意識に立つ鳥肌を好奇心や高揚と無理に結論付けようとするが、
取り繕おうとすればするほど、自分が抱いているものが嫌な予感や、惧れの類であることを実感してしまう。ここはただ静かな人の少ない観光地の筈だった。実際昼間はこれは薄暗く湿度が高いが普通の、よくある単なるトンネルだったのだ。だが、それが何の保障になる?先程までは賑やかさに少し圧倒されていたが、昼安全なものが夜安全とは限らない。企画計画したヨンイルやレイジはある程度の危険は自分で対処できるせいで感覚が麻痺している節がある、当てにすることはできない。先程の自分の言動への後悔が止まらない、今更後戻りは出来ないというのに。駄目だ、後悔は後回しだ、今やるべきことをしなければ。もしこのトンネルが本当に危険なものであるとすれば僕はどうすればいいのかを考えなければ。

「何処にかけている、直」
「……トンネル通過にかかる時間が10分ならば、レイジやロンはそろそろトンネルの向こう側に着いている頃だ。……一応確認しておきたい。別に心配しているわけではない、レイジがロンとふざけていてそもそもの目的を忘れ他のことに夢中になっている可能性もある。その場合に備え警告をしておきたいというだけだ」
「………そうか」
「……」
「………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…なあ、呼び出し音長すぎやない?」

作業を終えたらしいヨンイルが訝しげに画面を覗きこんで来る。

「……気付いていないのか、それとも……」

『お客様のお掛けになった電話は、現在電波の届かない所に居られるか電源が入っていない為、掛かりません。』


昼間は通じていた筈の電話。


闇夜に高めの女性の声が何度も何度も響く、一つ繰り返される毎に嫌な予感が一層強くなる。

「…直ちゃん、もっかい掛け直してみい」
「言われなくともそうするつもりだ」

一度。二度。三度。
間隔をあけ掛けた電話は全て同じ声を垂れ流す。

『お掛けになった電話は』

ピッと無機質な音を立て通話を終了する。
辺りに散漫していた沈黙が重く圧し掛かる。

「……そろそろ10分だ」
「もうそんな時間か……行く…か、なあ、行くってことでええ……よな?」
「………真相を確かめる手段としてはそれが一番近道だろう」

携帯を最後に少しだけ操作して、僕達は隧道に足を踏み入れた。










走り過ぎた。

普段から喧嘩や遊びで走り続けることは珍しくなかったが、
意地になってレイジをおいてきてしまったことに今更罪悪感が募る。

「……」

悪いことをしたかもしれない。レイジは今頃、携帯の明かりか何かで
俺を追いかけてきているだろう。

いつもこうだ。突っ走ってしまう。抑えが利かない。

今更、誰もいない見通しの聞かない空間にいることが恐ろしくなってくる。
壁に寄りかかる。

その時、遠くから軽快な足音が聞こえてきた。
この足音は。

「……レイジ?レイジなのか?」

小さく呼びかけてみる。

だが足音の聞こえてくる方向から返事はなく、不安が増す。

「……な、なあ、レイジだよな」

聞こえなかったのかと、今度は少し大きな声で呼びかける。

明らかにさっきより近付いて大きく聞こえる足音、
それでも返事はない。

この足音がレイジって保障はどこにある?と自問自答の声。
だが別のやつってことはないだろう、入り口には他に5人も居るんだから。
地獄耳のレイジならきっととっくに俺の声なんか聞こえてる、
その上できっと楽しんでやがるんだろう、趣味が悪い。

「いい加減にしろよ、レイジ!明かりも持たねえ、返事もしねえ!足音だけって不気味なんだよ!
 俺をびびらせようって魂胆ならぶん殴るぞ!」

怒鳴るように言う。レイジの足音がぴたりと止む、

さっきまで不安要素だった足音が途端に恋しくなってくる。

「……なんだよ、立ち止まんなよ。」

仕方ねえ。広く浅く照らしていた懐中電灯の先に、少しすぼめた手を置く。
サーチライトのようにして足音の方向を照らす。

だが、何も見当たらない。灰色の壁と不気味なシミだけが目に入る。
隠れて俺をからかってんのか。くそ、趣味悪い。

「……おい…」
全方向を照らしても見えない。手が熱くなってきたのでぱっと離す、
光がまた俺の周りに散乱する。

「…」

静かで、静かすぎて、声が出せない。
逆に心音はどくどくどっどっと段々早まってくる、それが周りに響いていないか心配になる。
下手に動けねえ、音も立てられねえ、目線を動かすにも多大な精神力を必要としちまう。

なにかが居るかもしれないことにびびって、それに気付こうとしているのか
気付きたくないから余計なことをしたくないのか自分でも分からない。

一声。一声だけ掛けて、もし、返事がなかったら、入り口のほうへひたすら走ろう。
意地と本能と混乱とがぐちゃぐちゃになった状態のまま、頼むからと声を絞り出す。



「なあ」





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最終更新日  2014.09.20 01:20:49
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