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カテゴリ:🔗少プリ
不快でない強さの圧力と生物の柔らかさと音の無い静かな動き。 誰かに撫でられているような気がする。 ……誰の手だろう。 恵の手は、もっと小さくて柔らかい筈だ。 儚いけれど、鍵盤を叩く時は軽やかながら確かな芯を意思を持つ指。 恵のあの手が懐かしい、恵に会いたい。 だがゆっくりと、しかし途切れることなく撫でる手で、系統立った考えは霧散していく。 恵。文化祭が近い。 会いたい。来てもらうなど夢のまた夢だろうか。 優しい手。大きい。 気持ち良い。 温かい。 誰…… 「………」 サムライは直が完全に寝入ったのを確認してから、上着をかけ、周りに散らばったいくつもの部品や破片を片付け始めた。 ふと顔を上げると、黒板に書かれた色とりどりの文字が目に映る。 文化祭まであと何日―毎日数字だけが変われば機能を果たせる筈のその文章は、級友達によって白墨や色紙などで飾り付けられていて、特に白墨による飾りは毎日趣向や文体を変化させている。 文章は簡素だ。けれどそれに対し、どれだけの期待や希望が込められているのか一目で分かる形だ。 授業中に目に入って集中できないと言いながらも満更でもない様子の直を思い出し、サムライはふと微笑んだ。 まだ文化祭直前期ではないが、それゆえに準備も片付けも一々やらねばならない道具類は、一番最後に残る直が恐らく全て引き受けたのだろう。素直ではない言葉で。 大まかに分類し、教室の後ろに道具類を置いておく。 「……サムライ?」 「………!すまん、煩かったか」 席を元に戻している間に出してしまった音で、直が目を覚ました。 「いや、そろそろ帰らなければならなかったのだから丁度良い。というか、寝てしまっていたのか僕は……」 委員長としてあるまじき失態だと嘆く直に苦笑する。 「今日はゆるりと休め」 「……言われなくとも、睡眠は毎日適正な時間を確保している。今日は少し計算を間違ってしまっただけだ。そうだ、君は剣道部の練習は終ったのか?」 「ああ。……すまん、教室の手伝いを出来なくてすまない」 「いや、大会が近いのだから仕方がない。それに授業が潰れた時には手伝っているわけだから君がそう言う必要は全く無い」 そう言いながら、上着を返される。直の温もりが含まれるそれに、サムライはまた眉間の皺を失くす。 「……風邪をひく確率を低下させてくれたことに、感謝しないでもないが……見ていてこちらが寒気を覚える。今度からはそんなことはしなくてもいい、君が風邪をひいてしまったら困るのはこっちだ」 「俺はこれしきのことで風邪などひかん」 「……風邪をひいていても平気だと言い張り真っ赤な顔をマスクで隠し登校するの間違いじゃないか」 からかうように、半分心配するように言われ「そうならないようにする」と言うと「それでいい」と言われた。 だが冷気が立ち込める廊下を抜け木枯らしが吹き荒ぶ校庭を歩く中、サムライは一つの決心をしていた。 一つの毛布を皮切りに、多数の布団、毛布、その中に丸まる生徒が増殖するのはその数日後のことだった。 ------ ------------ レイジ→片付けしようとするロンにじゃれつく ロン→ムキになる 直→片付けの邪魔だから帰れと言う そして上の図 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.10.26 00:27:30
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