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2015.05.29
XML
カテゴリ:🌾7種2次裏




***************
没話


嵐視点で、01の少し前+続きです。




********
◆◆◆◆◆◆◆◆
********

ロープとナイフをもう一度
02

********
◆◆◆◆◆◆◆◆
********


辛い現実を、必ず乗り越えなくちゃいけないとか、立ちはだかる人を必ず倒さなくちゃいけないとか、誰が決めた?


「逃げればいいじゃん」

 俺にそう教えてくれたのは


逃げたっていい。
逃げないとやってられない。

逃げないと、大事なものを失ってしまう。

だから俺は、逃げられる時は逃げるようにしてきた。

ただ一つの例外は、大事な人を傷付けられた時だ。
その時は全力でその相手に攻撃した。

普段守りに入ってるばかりで、自分を体力トレーニングで追い込んでいるばかりだからやり過ぎることもあったし、だからこそ余計に力をふるう場所に気をつけなくちゃいけなかった。

逃げる事は悪いことじゃない。権利だ。
向き合っても、言葉を尽くしても、響かない人は居るから悪戯に傷付け合うよりは逃げた方がいいに決まってる。




過去は変えられる。
嵐は今回身をもって示すチャンスだと考えていた。








「……いいよ、別に。好きに選んでいいんだよ、自由にね」

それが君の答えなんだろうと要は笑う。

「因みに聞いてもいいかい?」
「…どうぞ」

「逃げて、どこへ行くんだい?」
「それは…どこかの保護施設、とか…」

二十数年後に死ぬとしても、今すぐ死ぬよりは余程幸福でしょうと嵐は言っていた。
だから希望を語れる筈だ。
安居は縋るような目で嵐を見る。
その目付きは外見相応に幼く、普段の緊張で凝り固まった顔との落差が激しい。
そして、茂の複雑な視線にも気付かない程にひたむきだ。





***************



安居は夜、流水になる。

周りが砂漠なら染み込んで大事なことを忘れてしまい、
周りが海なら流されて生きることを忘れてしまう。


***************


連夜悪意の底に安居は落ちていく。

途中には要先輩の白い羽のような希望と、貴士先生の黒い花のような絶望がぐるぐると回る。

だが安居は知っている。このそこの向こう、微かに光る世界には茂が居るのだと。



けれどいつもそこに辿り着く前に安居は救い上げられてしまう。


安居は目覚める度に手を振り払うが、それはまるで無意味だった。






やっとそこに辿り着いたのに、底には薄い膜があって、通り抜けられない。
この向こうにあるのに、かつてなくした夢が、想いが。
この向こうにいるのに、かつて消えた仲間が、あいつが。

暫く押し弾きしていたら、向こうから強い衝撃が加えられた。

弾むようにして安居は再び上の方へ浮上していった。


意識の海面に浮上して、安居は今日も現実の青空の空虚さを思い知る。



+++++++++++











***************
没話1





2018.01.07 XML
…に願いを    (7種SS・番外編後ネタバレ/安居の後悔と航海の話)
テーマ:二次創作小説(253)
カテゴリ:・7種2次NL
明けましておめでとうございます。
素敵な一年でありますように。



新年と言えば、7SEEDS世界の元旦(仮)の初夢はそれぞれどんなものだったんだろうなと気になります。


さて以下、自己解釈補完的な安居独白+船組の日常妄想三人称SSです。

※注意※
・夏A選抜施設のシステムについてくどめな脳内補完部分があります
・嵐の「逃げてもよかった」→安居救われる、の流れについての自己解釈があります

大丈夫な方どうぞ↓



********
********
********



 理解と謝罪と同情は似ているのだろうか。
 安居は時々考える。


********

 『…に願いを』

********






 理解や同情が伴わない謝罪とは得てして表層的で、けれど理解と同情を求めることは、求める者の身を削り声を荒れさせる。
 また、糾弾は弱さや痛みを武器にできるが、それが武器として機能しない場合もある。
 夏のAチームは、教師の頑なさと悪意を覚えている。外に出る時は7人に残った時で、教師の手から逃れる時は落ちた時だという切迫感を覚えている。弱さや痛みや助けを求める声が空しく響いた空を覚えている。

 だから夏Aは、殊に安居は求めない。ただ苦しいから吐き出しはすれど、理解と同情を、違う立場の人間が本当に出来るとは思っていない。外の人間ならば猶更だ。
 源五郎の肩で泣いた時でさえ、小瑠璃と茂に叫んだ時でさえ、吐き出すだけだった。

 理解も共感も同情も感傷も不必要で、されなくても支障のないものでなければいけなかった。

 しかし理解と同情をされてこなかった・・・・・・・・人間は、どうやって求めに応じればいいのか、そもそも求められていることすら気付けないことがある。

 助けられたことがなければ、助けられないことがある。

「あの時こうして理解してくれる人が居れば」
「あの時こうして同情してくれる人が居れば」
「あの時こうして思いやりを持ち接してもらっていれば」

 その後悔も、理想さえ知らなければ『こうして…いれば』と抱くことすら難しい。

 安居を含め、施設の子供達は理想を知らなかった。外の世界の人の話を聞くことも、芸能人の裏話を知ることも、物語の登場人物が泣き笑う様子を読むことさえなかった。

 親も居ない、宗教もない。教師に下手に甘えた態度を取れば突き放される。
 『7人に残って施設を出る』までに教えられたもの、知ることができたものは、ひたすらに目の前の現実と、未来への称賛だけだった。
 そこから外れるものは物理的に、精神的に殺され続けた。

 生き残った部分は、自分が救われない事を理解していた。だからこそ生きる為に生きられた。
 同時に、誰かを救えない事も理解していた。

 大事なものを喪ったことだけは分かっていた。けれど何を喪ったのかも分からなかった。
 何を喪ったのか、感じる部分さえ壊れていたのかもしれない。
 
 自分の本当に求めるものが分からない安居には、相手の本当に求めるものが分からなかった。




「想定していたよりも減りが早いな」
「次に航海する時はもう少し準備期間を長くとるか」

 夜分、静かな船室で、食材や道具の在庫確認とメンテをしながら涼と安居は話していた。

 陸を離れて一週間。日課は釣りに素潜り、周辺の観察と、星による現在地の確認、天候の確認に、船内で育てられる植物や動物、生け簀の世話、図鑑に載っているものと近い海生生物の試食、手作り道具の試行錯誤と枚挙に暇がない。
 メンバーは3人だけ。クソ真面目な安居に、冷静な涼に、空気を読めるまつり。
 夏Bで旅行していた頃と比べると静かだ。蝉丸のようにふざけたり、ナツや螢やちまきのように物語を話す声がない。
 けれど人が少ないからこそ、一人一人のやることは多い。
 その忙しさと業務の為の話し合いは施設の同クラスとの関わり合いを想起させた。

「そうだな。……もう少し人数も増えるかもしれないし」
「外国で出会った奴らがどういう奴らなのかも分からないしな。保存食を食い潰すタイプや偏食だったら困る」

 子供の頃は食事に頓着しないタイプだった涼、施設の食材に毒草が混ざり始めた頃真っ先にバーベキューを虹子としていた涼。そんな涼の言葉に安居は嘆息しながら返す。

「この世界で生き延びてるなら流石にそこまで酷くはないだろ」
「だといいが、夏のBチームの例もある」

 安居の脳裏に虫に怯えていた嵐と蝉丸が思い浮かぶ。肉を捌けるのに虫には近付きたくないだの何だの、基準が分からない。

「…あいつらだってこの世界に来た当時よりはましになってるんじゃないか。それにきっと、追い詰められたら何だって食べられるだろうよ」

 要さんや牡丹さん達が居たとはいえあれだけ計画性のない食事と危機管理でどうにかなっていたっていうのは一種の才能だ。
 自分が堆肥に慣れた時のようにあいつらにも慣れる時が来ればいいのだが。

「何だって…そうだな、きゃーきゃー喚きながら食うかもな」

 違いない、と2人で少し笑った。

 気付けばメンテは終わっていた。



 夏のBチームとの賑やか……を通り越してかなり騒々しい航海は未だに彼らの記憶に残っていた。

 蟹に貝に海藻などを料理し、三人で食事をする度に、デッキ等の掃除をする度に浮かんでくるそれは温かいものであったし、思い出話を元にして次の予定を立てるのは存外に楽しいものだった。

「陸のものをどれだけ海上で育てられるかが問題だよね」

「植物も動物もそれぞれライフサイクルや生活圏があるしな」

「保存食続きや海のものばかり食べるのも栄養バランスが」

「船室の数は多いから、動線や使い勝手によって各々部屋を選ぶとして…」

 性格への理解や共感が不十分でも、能力や実際に見てきた行動を元に、他人の姿を語ることは出来る。

「海のものを取るのがうまい海チームが…」

「頑張れば海のものを取れるようになりそうなのは…」

「やっぱり途中で小島に降りて…」

「地図がもう少し正確に描ければ…」

「季節で海流と天候が…」

 作業の為の、明日の為の会話。
 そしてたまに、昨日の為の会話、過去の想い出についての話をする。

 次にもう少し大勢で乗る時には、こうした会話が過去になり、経験として血肉になるのだろう。
 まつりと涼と安居とで視点も好みも違っていたが、その違いはむしろ歓迎すべきものだった。
 違う部分が新鮮で、おかしくて、面白くて。
 特に過去の話においてまつりが涼の断言に対し「それは駄目だよ」と怒ったり「辛かったね」と絆したりするのを微笑ましく見ている時間が、安居は好きだった。

 その直後に涼にどつかれることも一度や二度ではなかったが。

 三人で話している内に出てくるのは食事のこと、放課後の生活、授業中の豆知識、校舎の周辺状況、こっそり食べた野イチゴなどなど。巨船で話に出たカレーと同じく、外の世界と自分の世界が繋がっているのは安居にとってわずかな安らぎと慰めとなった。
 涼もそうした話題の時は柔らかい顔をしていた。

 その空間の色はどこか…安居が丘の上で焦がれた、あの遠い世界のそれに似ていた。



 今夜は2日ぶりの快晴、くっきりとした満天の星空が頭上に広がっている。海面も凪いでいて、計測と観測には絶好のコンディションだ。

 夜にする仕事の一つは、星空を眺め位置・方角確認の記録をすることだった。どれだけ進んだか、どういった海流に乗ればスムーズな航海になるか。その情報はきっと今後も役に立つ。

 甲板から混合村の方角を眺めてももうあの灯りは見えない。
 夜の水平線はひたすらに黒かったが、代わりに頭上に広がる星空が安居に夜景を思い起こさせた。

「……滅びなかったな」
「何か言ったか安居」
「!」

 思わず肩が跳ねた。涼は数メートル離れた先で手作りの羅針盤を試している。馬鹿な独り言で邪魔をしてしまった。

「いや…もう流石に村の灯りは見えないなと」

 嘘ではない。
 幸い涼はごまかしとは取らなかったようで、羅針盤の目盛りを微調整しながらも鋭い声で返してくる。

「別に見えなくてもいいだろ。お前は心配し過ぎだ」
「この船を借りるっていうのはそういうことだろ」
「ふん」

 陸を離れてから、安居は混合村の方角で発生するもの、昼の煙や夜の灯りが気になって仕方がなかった。
 いざとなれば大人数で安全に逃げられる手段をたったの3人で独占している。
 正当に交渉した結果とはいえ、その後に災害が起こったならば話は別だ。

 けれど、ここ数日間のろしやモールス信号が助けを求めてくることはなかった。
 心配を抑えられなかった安居は主に小瑠璃に向けて灯りのモールス信号を打っていたが、結局は大丈夫と言われ、食べられるものが増えただの新しく楽器を作っただの近況報告を返されるだけだった。
 頻繁に連絡していたせいか、簡単なモールス信号を夏Bが覚え始めたり蝉丸が妙なテスト連絡をしてきたりと馬鹿馬鹿しいトラブルはあったが、概ね陸も海も平和だった。
 物理的な距離は遠くとも、船出前よりも距離が近い連絡は、安居の心の安定に一役買っていた。

『滅びるんだ』

 陸の灯り、安居達に向けて放たれる光は平穏の証だった。
 けれど、安居はそれをもう呪うことはない。
 その平穏は、彼らが必死にこの世界で生きて獲得したものだから。

『滅びてしまえ』

 あの時見た灯りと、あそこにある灯りは同一ではない。



 …外の方が幸せならば、外の方が劣っている筈だった。
 彼らは施設の子供達よりも犠牲にしているものが少ないから、未来では夏のAチームに依存し、運命を託し、夏Aを師として尊重し、ついてくる筈だった。

 そうでないと思ってしまったら、楽しくわいわいと囲む火を犠牲にしてまで得た未来を握りつぶしたくなってしまうから。
 けれど、夏のAチームは教師にはなり得なかったし、他のチームは生徒にはなり得なかった。

 井戸の外に出て乾いた地平を歩いて歩いて、ようやく辿り着いた『他のチーム』という大海では、”子供”達はそれでも無知を突きつけられた。

 井戸の中の理想は、井戸の外の理想とは食い違っていた。
 井戸の中で見た『理想の未来』を愛せないのに、外の世界の『理想の過去』を愛せないのに、憧れだけが身を食い潰してきた。

 安居が洞窟で見た黒い頭の自身は、美しい過去であり、憧れの亡霊だった。
 けれど、白い頭の安居も、黒い頭の安居も、求めるべき目的を知らなかった。

 角又の弔いによって、茂と、繭、のばらと一緒にやっと憧れの亡霊も眠りにつけた。
 亡霊が消えて目の前が晴れた時、直面しなければならないことはとても多かった。
 かつての認めたくない自身の暴走と、その時殺してしまった十六夜の顔、合同葬儀の後の蘭の声が迫ってきて、けれどかつてのように怒りに身を任せるわけにはいかないから、ひたすらに歩いて尽くして、どこにあるとも知れない目的に向かって前のめりに進み続けた。

 背中の重みを追い風にするのは安居の得意分野だ。

 人道を捨てさせる卯浪達を憎んで、外を憎んで、過去を憎んで、現在を憎んで、喪ったものに焦がれて、喪ったものと引き換えに求めた理想を憎んだ頃もそうだった。
 しかし、過去の世界では背負い追い立てて来るものは憎しみや切迫感や責任感ばかりだった。
 日々の罪悪感や人間性や違和感を踏みつぶしながらやっと、17歳の安居は歩き続けていた。

 徐々に進む場所を失うばかりだったあの頃は地獄だった。
 どこにも行けずに蹲って潰れて、ただ掠れた息をしていた未来もまた、地獄だった。

 先生はもう居ないのに。

 置かれている状況が違うならば、もっと違うことが出来るようになる筈なのに、未来で重りは増えて見える道は少なくなる一方だった。

 自分の力を最大限に発揮し、皆を助け、皆の力を活かし、自分も救われることが安居の理想のリーダー像だった。
 そうした目的地は分かっていた。
 また、どんな道でも歩く為の力と技術はあの地獄の中で身に着けていた。

 選ぶべき道だけが見えなかった。

 だから、折られて転んで泥沼を這うようにして、安居はやり残したこと、これまでできなかったことを始めた。
 それは、かつて憎み、不必要と切り捨てたものを掘り起こし、耳を傾けることだった。

 特に大きな契機は、膿んだ場所を切り捨てるような嵐の断言だった。

『貴方たちは』

 安居は、誰かの理想を、誰かの希望を、心のどこかで求めていたのかもしれない。

 あの時、過去の全てに疲れ、無防備に慟哭することしかできなかった安居には馬鹿馬鹿しい夢こそ新鮮に響いた。
 外の世界で、大人が子供の何気ない言葉に驚き癒される瞬間があるように。

 卯浪や貴士先生や最終試験結果を見る前の要先輩ならば切り捨てていたような考えこそ、鮮烈に、痛烈に安居の心に刺さった。

 
ー逃げてもよかった。


 安居はその青い理想に救われた。
 過去の安居の葛藤を殺す劇薬のような言葉だったが、誰からもそんなことを聞いたことがなかった安居には痛みとともに目を洗われる心地を与えた。
 そして続く涼の証言と、茂の励ましが傷口を癒した。

 救われた心持と、確かに地に足のついた感覚だけが残った。

 闇しかない世界に光が訪れるように、追い詰められた先の海が割れるように、あるいは全ての生き物に歓迎される人間に赦しを得たように、……かつて安居自身が、茂や小瑠璃の為に卯浪に立ち向かったように、綺麗ごとと物理的な救いの組み合わせは、時に人の心の支えとなる。
 自分を救う者が語る綺麗ごとが、今自分の立っている場所で通用する、自分は綺麗ごとに守られ認められていると実感出来るからだ。

 過去の世界の中で、捨ててもいいものがあるのだと安居は気付いた。

 思い返せば。
 新たな世界でいくつも思った「ずるい」…『自分達は救われなかったのに不公平だ』という想いを持って行った数々の事は、かつての小さな安居が理不尽だと思ったことばかりだった。

ー理不尽な要求は、した者が悪い。喩え相手が権力者であっても従う必要はない。

 押し殺してきたいくつもの小さな安居が、少しずつ蘇ってきた。

ー人の想いと倫理観は一貫しない。それが許される人間が居る。

 嵐の理想は、かつての教師達を、それに屈した安居達を断罪していた。
 けれど小さな頃の安居のままでは、ここまで生き残れなかったこともまた事実だった。
 要先輩が持たせた手土産が、安居と涼の歩く力に代わっていた。

ー自分で考えて自分で動くことは時折贅沢なことである。

 巨船の中で茂が右手に触れた感覚が、崩れそうな気持を支えてくれた。

ー親子の縁というものは独特な条件を持っている。


 だが、救われることと赦されることは別だ。
 立ち直ることと受け容れられることは別だ。


 逃げられなかった彼らは、要求されたものしか持ってこられなかった彼らは、権力を常に意識させられた彼らは、倫理を限られた者からしか伝えられなかった彼らは、自分で考えて自分で動くことを最低条件とされた彼らは、親の居ない彼らは、『欠けている』ものを、聞きかじった知識で、外部の者達の観察でもって補うしかなかった。

 その積み重ねの結果安居は未来で、花が自身に抱く嫌悪の形を明確には理解しきれないながらも謝罪した。
 ちさの言う『自分が楽になる為の謝罪』という言葉も覚えておいた、ならばどうすればいいのか、以前こうした経験はないか、背負う以外に今できることは何か。
 …しかし、考えても考えても何も浮かばなかった。

『怖いんだよ』

 あの時。
 その声を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
 突然10歳の頃に戻ってしまったようで、安居は何も言うことができなかった。

 自身には何かが絶対的に欠けているのに、それを認識してしまったのに、補うことが出来なかった。…相談し頼る相手も居るはずがない。償う相手には距離を取り何もしないことを求められた。
 
 目的がない安居は、無力だった。

 庇おうとすることさえ拒まれて、話す相手も居らず、丘の上でわいわいとやっている『皆』との距離を感じた時、安居は一人泣いた。
 風と草の鳴る音が孤独感と無力感を助長した。

 …何も出来ない。…何者にもなれない。
 何かをする為に考え続け、誰かと話し合って進めてきたあらゆる過去が、今となっては遥か遠くにあった。

 拭うこともない涙で歪む景色の中頭を過ったのが、洞窟で遭遇した時の要だった。

 あの時安居は『皆』の側に立っていた、暴走している要と同じ倫理を持つ必要はないと嵐、そして涼が初めに間に立ってくれていたから。
 そこで見た要はどうしようもなく安居の『さあるべき』憧れと乖離していた。

 一緒に歩むことは出来ない、この人に保護される時期、この人に責任を負われる時期はもう過ぎたのだと悟ったのだ。

 過去の人間関係の後悔から現在の人間関係の補完をすることは時に見当違いで、お節介で時に被害妄想や加害妄想と重なると、茂とナツの違いから安居は判っていた。

 けれどあの時感じたどうしようもなさを、何を言っても届かないであろう言葉の無力さを、現在の花に置き換えて距離を取ることが安居に出来る精一杯だった。

 外国で灯りを見付けて、交渉して、一緒に歩むことが出来る人々を連れ帰るとして。
 陸の灯りの一員になるのか。……それとも。

 海図のメモが、手の中でくしゃりと音を立てる。

 螢ならば、こういう時にも星から未来を読めるのだろうか。
 かつて訝しんだあの力が、安居には少し羨ましく思えた。








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没話2

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Last updated 2017.12.03 20:28:48


2018.01.07 XML
…に願いを    (7種SS・番外編後ネタバレ/安居の後悔と航海の話)
テーマ:二次創作小説(253)
カテゴリ:・7種2次NL
明けましておめでとうございます。
素敵な一年でありますように。



新年と言えば、7SEEDS世界の元旦(仮)の初夢はそれぞれどんなものだったんだろうなと気になります。


さて以下、自己解釈補完的な安居独白+船組の日常妄想三人称SSです。

※注意※
・夏A選抜施設のシステムについてくどめな脳内補完部分があります
・嵐の「逃げてもよかった」→安居救われる、の流れについての自己解釈があります

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 理解と謝罪と同情は似ているのだろうか。
 安居は時々考える。





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『…に願いを』

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 理解も、謝罪も、同情も、最後まで先生と先輩は口にしなかった。

 教師の頑なでエゴイスティックな使命感と、日常に根を伸ばした悪意によって、考えすら浮かばなかったのかもしれない。

 外に出る時は7人に残った時、教師の手から逃れる時は落ちた時だという切迫感を覚えていて、弱さや痛みや助けを求める声が空しく響いた空を覚えている夏のAチームにとって、そんな養い親は切り捨てるべきものにしかならなかった……が、先生と先輩に取ってはそれらを言わないことが美徳だったのかもしれない。

 生き残るためには理解も共感も同情も感傷も逃避も不必要。
 なくても支障ないようにするべき。

 それが先生達、特に要のように未来にすべてを賭けた人の思う、子供達の理想形だった。

 しかし、なくても支障がないということは、しばしば人の鈍感さを助長し、ストッパーを減らすことにも繋がる。

『逃がさない』
『逃げられなかった』
『あの時もしも逃げていれば』

 逃がされなかったから、逃がせない。
 やり方も分からないし、意志も働かない。

 外の世界で人をしばしば救う美談や噂話や物語といった理想は施設に存在しなかった。
 外の世界で人をしばしば守るよすがは、同級生や校舎や教師や所属感にあったけれどそれらはみなぼろぼろにされた。
 理想の先にあるものも、ただ一つ残ったよすがも、教師の語る未来だけだった。
 それでも生まれる夢や情といった芽は精神的にあるいは物理的に、丁寧に摘み取られた。

 一人足掻いて得られなかったものは、なくてもいいもので、求めるべきでないもの。
 そう思い続けているうちに安居には、必要としていたものが少しずつ見えなくなっていった。

 相対する人の必要としているものも、少しずつ見えなくなっていった。






「想定していたよりも減りが早いな」
「次に航海する時はもう少し準備期間を長くとるか」

 夜分、静かな船室で、食材や道具の在庫確認とメンテをしながら涼と安居は話していた。

 陸を離れて一週間。日課は釣りに素潜り、周辺の観察と、星による現在地の確認、天候の確認に、船内で育てられる植物や動物、生け簀の世話、図鑑に載っているものと近い海生生物の試食、手作り道具の試行錯誤と枚挙に暇がない。
 メンバーは3人だけ。クソ真面目な安居に、冷静な涼に、空気を読めるまつり。
 夏Bで旅行していた頃と比べると静かだ。蝉丸のようにふざけたり、ナツや螢やちまきのように物語を話す声がない。
 けれど人が少ないからこそ、一人一人のやることは多い。
 その忙しさと業務の為の話し合いは施設の同クラスとの関わり合いを想起させた。

「そうだな。……もう少し人数も増えるかもしれないし」
「外国で出会った奴らがどういう奴らなのかも分からないしな。保存食を食い潰すタイプや偏食だったら困る」

 子供の頃は食事に頓着しないタイプだった涼、施設の食材に毒草が混ざり始めた頃真っ先にバーベキューを虹子としていた涼。そんな涼の言葉に安居は嘆息しながら返す。

「この世界で生き延びてるなら流石にそこまで酷くはないだろ」
「だといいが、夏のBチームの例もある」

 安居の脳裏に虫に怯えていた嵐と蝉丸が思い浮かぶ。肉を捌けるのに虫には近付きたくないだの何だの、基準が分からない。
 要さんや牡丹さん達が居たとはいえあれだけ計画性のない食事と危機管理でどうにかなっていたっていうのは一種の才能だ。

「…あいつらだってこの世界に来た当時よりはましになってるんじゃないか。それにきっと、追い詰められたら何だって食べられるだろうよ」
「何だって…そうだな、きゃーきゃー喚きながら食うかもな」

 違いない、と2人で少し笑った。

 気付けばメンテは終わっていた。



 夏のBチームとの賑やか……を通り越してかなり騒々しい航海は未だに彼らの記憶に残っていた。

 蟹に貝に海藻などを料理し、三人で食事をする度に、デッキ等の掃除をする度に浮かんでくるそれは温かいものであったし、思い出話を元にして次の予定を立てるのは存外に楽しいものだった。

「陸のものをどれだけ海上で育てられるかが問題だよね」

「植物も動物もそれぞれライフサイクルや生活圏があるしな」

「保存食続きや海のものばかり食べるのも栄養バランスが」

「船室の数は多いから、動線や使い勝手によって各々部屋を選ぶとして…」

 性格への理解や共感が不十分でも、能力や実際に見てきた行動を元に、他人の姿を語ることは出来る。

「海のものを取るのがうまい海チームが…」

「頑張れば海のものを取れるようになりそうなのは…」

「やっぱり途中で小島に降りて…」

「地図がもう少し正確に描ければ…」

「季節で海流と天候が…」

 作業の為の、明日の為の会話。
 そしてたまに、昨日の為の会話、過去の想い出についての話をする。

 次にもう少し大勢で乗る時には、こうした会話が過去になり、経験として血肉になるのだろう。
 まつりと涼と安居とで視点も好みも違っていたが、その違いはむしろ歓迎すべきものだった。
 違う部分が新鮮で、おかしくて、面白くて。
 特に過去の話においてまつりが涼の断言に対し「それは駄目だよ」と怒ったり「辛かったね」と絆したりするのを微笑ましく見ている時間が、安居は好きだった。

 その直後に涼にどつかれることも一度や二度ではなかったが。

 三人で話している内に出てくるのは食事のこと、放課後の生活、授業中の豆知識、校舎の周辺状況、こっそり食べた野イチゴなどなど。巨船で話に出たカレーと同じく、外の世界と自分の世界が繋がっているのは安居にとってわずかな安らぎと慰めとなった。
 涼もそうした話題の時は柔らかい顔をしていた。

 その空間の色はどこか…安居が丘の上で焦がれた、あの遠い世界のそれに似ていた。



 今夜は2日ぶりの快晴、くっきりとした満天の星空が頭上に広がっている。海面も凪いでいて、計測と観測には絶好のコンディションだ。

 夜にする仕事の一つは、星空を眺め位置・方角確認の記録をすることだった。どれだけ進んだか、どういった海流に乗ればスムーズな航海になるか。その情報はきっと今後も役に立つ。

 いつものように甲板から混合村の方角を眺めるが、もう灯りは見えない。
 夜の水平線はひたすらに黒かったが、代わりに頭上に広がる星空が安居に夜景を思い起こさせた。

「……滅びなかったな」
「何か言ったか安居」
「!」

 思わず肩が跳ねた。涼は数メートル離れた先で手作りの羅針盤を試している。馬鹿な独り言で邪魔をしてしまった。

「いや…もう流石に村の灯りは見えないなと」

 嘘ではない。
 幸い涼はごまかしとは取らなかったようで、羅針盤の目盛りを微調整しながらも鋭い声で返してくる。

「見えなくてもいいだろ。お前は心配し過ぎなんだよ」
「…別にいいだろ」
「ふん」

 陸を離れてから、安居は混合村の方角で発生するもの、昼の煙や夜の灯りが気になって仕方がなかった。
 いざとなれば大人数で安全に逃げられる手段をたったの3人で独占している。
 正当に交渉した結果とはいえ、その後に災害が起こったならば話は別だ。

 けれど、ここ数日間のろしやモールス信号が助けを求めてくることはなかった。
 心配を抑えられなかった安居は主に小瑠璃に向けて灯りのモールス信号を打っていたが、結局は大丈夫と言われ、食べられるものが増えただの新しく楽器を作っただの近況報告を返されるだけだった。
 頻繁に連絡していたせいか、簡単なモールス信号を夏Bが覚え始めたり蝉丸が妙なテスト連絡をしてきたりと馬鹿馬鹿しいトラブルはあったが、概ね陸も海も平和だった。
 そしてこの連絡は、船出前より物理的な距離は遠くとも、心の距離は近いようだった。

『滅びるんだ』

 陸の灯り、安居達に向けて放たれる光は平穏の証だった。
 けれど、安居はそれをもう呪うことはない。
 その平穏は、彼らが必死にこの世界で生きて獲得したものだったし、悲惨な記憶も未練も和らいでいた。

『滅びてしまえ』

 そう呪った安居は、もう死んだ。
 嵐の青い、劇薬のような理想に殺された。
 角又の読経と、殺した十六夜の話を聴いて、霧散した。

 だから、そんな今なら、ここよりもっと外の世界では、憎しみでも切迫でもないものを背負って、誰かとともに歩める筈だ。


 そして、あの灯りを作る側に、いつか。

 

*fin




***************





物語に没入する気持ち、登場人物に共感する気持ちが安居には分からなかった。

そんなことをしていても現実は何も変わらない。

ただ一人、慰められたりするだけだ。

誰も救えない。

そんなことをやっている時間があればナイフの一本でも砥いでおいた方がよほど有意義だし向いている。


だが、理想の世界で出会った言葉を、実際の世界に持ってくることが出来るとすれば。








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最終更新日  2018.01.22 06:58:11
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