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長押 綴

長押 綴

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2017.03.04
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カテゴリ:.1次小
全てが解放された世界で、私は一人俯きました。
魔王は倒され、英雄たちの凱旋が続く中で、私は一人、フードで顔を隠します。

私は魔王の栄養を吸って殺す為に生まれました。
「なんだ…この城に今、何が起こっている…!?」

ごめんなさい、私の仕業です。

そう思いながらも私はずっと彼の手を取り続けました。
少しずつ彼は弱体化していきます。
私の膝の上で。


私は弱く、生まれた時から親しい誰かの足を引っ張って、不幸にしてばかりでした。
そんな私に初めてできた任務が、最凶の魔王を殺すこと。


魔王はもう居ません。
弱くなるのに、毎日毎日私の膝の上に戻ってくるあの人はもう居ません。

私には仕事も、大事にする相手も居なくなりました。

死ぬ度胸もなく、何かに抗おうという気力はとうに死に絶え。
私に残されたものは、顔に張り付いた臆病な笑顔だけ。

そんな私を連れだしたのは、私の住んでいた元の国でした。
今度こそ普通に愛してもらえるかと思いましたが、そうではありませんでした。

魔王の圧力がなくなって、調子に乗った領主のところに行ってくれとのことでした。
私の脳裏をあの人の最後の喀血が過ります。

”……ずっと普通になりたかった。
 ……そうか、今の俺は、普通なんだな”

ただただ戸惑うばかりだったあの頃の言葉。

今となって少しだけ、わかる気がしました。

私はこうして、世界のすべてから傲慢な富を奪って平らな世界にすることこそが、生まれた意味だったのかもしれません。

ー…そう思い、提案に私は乗りました。

いくら埋めても埋まらない穴が埋まるとき、
いくら均しても均しきれない山が平らになるとき、
私の身体には世界が詰まっているかもしれません。


それならもう、何も持たない私でさえも、世界と同じになれるのですから。





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最終更新日  2017.07.28 05:10:47
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