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全てが解放された世界で、私は一人俯きました。
魔王は倒され、英雄たちの凱旋が続く中で、私は一人、フードで顔を隠します。 私は魔王の栄養を吸って殺す為に生まれました。 「なんだ…この城に今、何が起こっている…!?」 ごめんなさい、私の仕業です。 そう思いながらも私はずっと彼の手を取り続けました。 少しずつ彼は弱体化していきます。 私の膝の上で。 私は弱く、生まれた時から親しい誰かの足を引っ張って、不幸にしてばかりでした。 そんな私に初めてできた任務が、最凶の魔王を殺すこと。 魔王はもう居ません。 弱くなるのに、毎日毎日私の膝の上に戻ってくるあの人はもう居ません。 私には仕事も、大事にする相手も居なくなりました。 死ぬ度胸もなく、何かに抗おうという気力はとうに死に絶え。 私に残されたものは、顔に張り付いた臆病な笑顔だけ。 そんな私を連れだしたのは、私の住んでいた元の国でした。 今度こそ普通に愛してもらえるかと思いましたが、そうではありませんでした。 魔王の圧力がなくなって、調子に乗った領主のところに行ってくれとのことでした。 私の脳裏をあの人の最後の喀血が過ります。 ”……ずっと普通になりたかった。 ……そうか、今の俺は、普通なんだな” ただただ戸惑うばかりだったあの頃の言葉。 今となって少しだけ、わかる気がしました。 私はこうして、世界のすべてから傲慢な富を奪って平らな世界にすることこそが、生まれた意味だったのかもしれません。 ー…そう思い、提案に私は乗りました。 いくら埋めても埋まらない穴が埋まるとき、 いくら均しても均しきれない山が平らになるとき、 私の身体には世界が詰まっているかもしれません。 それならもう、何も持たない私でさえも、世界と同じになれるのですから。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.07.28 05:10:47
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