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長押 綴

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2017.03.05
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カテゴリ:.1次小

*叶わない恋をしている。

 僕はいつもその人が出掛けていくのを見送る。
 その人が疲れて帰って来るのを出迎える。
 甘えて、撫でられて、くっついて温まって。そうするとその人は笑って少し泣く。

 その人はどんなに疲れていても僕の生きる世話をしてくれる。
 ガラス窓の向こうの世界に居るあいつらは、それを甘えだと笑う。不自由に甘んじていると嗤う。自立できない者同士が寒さと弱さによって身を寄せ合っているだけなのだと。

「ジェイ」
「にゃあ」

 けれど、僕はそれでもこの関係を嫌いになれなかった。

 その人が僕を自由にしないのは、守る為だということと、きっと帰ってきて誰も居ない事に耐えられないからなんだろうということはなんとなくわかっていた。

 だからその人の一番が僕ならば、それでいいと思ったんだ。
 僕がその人の大きな支えになれているということさえわかればそれでもよかったんだ。

 けれど、そうじゃなかった。
 その人は、僕の知らない臭いをつけて帰って来るようになった。

 そして。じきに聖域のようだった家の中で、その人が、その臭いを出す男に寄り添うのを見た。


 だから僕は、人になろうと思った。
 その人が倒れそうな時に、ただ癒すだけの飼い猫じゃなくて、支えられる人間になりたいと思ったのだ。

 だからクリスマスの雪深い朝に人間になれた時は驚いたけれど、嬉しかったんだ。
 喩え寿命がその分減りやすくなると聞かされても。

 その事は、出来るだけ秘密にするようにって神様と約束したんだ。

 だからこの一週間、ばかみたいなすれ違いばかりしてたけど、本当に楽しかったんだ。
 その人……きみが僕を探し続けた最初の3日、やっと僕が僕だと分かって普通の生活を出来た2日、人間として相談をしてもらえたこの2日間。

 幸せだったんだ。



 ねえ、認めてよ。

 なんで話を聞いた後も、そんなに悲しそうな顔をしているの。

 もう腕が上がらない、涙を拭えないのに。

 仕方がないから最後の力だ笑うと、その人はよりぶわりと涙をあふれさせながら、それでも下手くそに笑って、僕を抱き締めた。

 僕は幸せだった。
 僕はその人を幸せに出来ただろうか。


 足りないのなら、何度でも生まれ変わって会いに行こう。







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最終更新日  2017.03.05 05:07:28
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