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僕にとってそのひとは女だった。 そのひとにとって僕は弟だった。 僕にとってそのひとは一番目の宝物だった。 そのひとにとって僕は二番目の宝物だった。 ☆ そのひとは夢を叶えた。 僕はずっと応援してた。 だけど土壇場になって、離れていくそのひとが許せなくなった。 だからそのひとが僕の辿り着けない所に旅立つ日、僕は思い出をお願いした。 一つの約束によって、僕の想いは遂げられた。 その裏で僕はその約束を破った。そのひとは気付かなかった。 生まれて初めてそのひととの約束を破った。 ある種の賭け。 目に見えて結果が出るまで、毎日心の中で謝り続けた。 ーごめんなさい。 ーごめんなさい。 ーごめんなさい。 ーこんな奴が君の足を引っ張って、ごめんなさい。 罪悪感が胸を刺す。 それでも約束を破った瞬間、途方もない幸福感に満たされたから僕はこうして救われている。 ー君の未来と引き換えに世界を愛せている。 ー君と離れるか、君を道連れに沈むか。 天使と悪魔の戦いの行く末を、僕は偶然に委ねた。 ☆ ツキは、悪魔に微笑んだようだった。 検査後に送り返されたと泣いて、そのひとは怒った。 だけど、そのひとも悪魔から逃げようとはしなかった。 ある種の医者に行く選択肢もあったのに、そうしなかった。 そのひとは諦めたように、縋る僕の手に自らの手を重ねてきた。 これまでずっと、そうしてきたように。 「寂しかったの」 「そうだよ。……ごめんね」 「ごめん……か。いいよ、もう」 「怒ってないの」 「……この世界で、幸せのまま終われるなら。それはそれでいいのかもしれない」 「…最後まで、一緒に居てね」 「何を今更」 どうして僕らは生きている? 大事なものを見付ける為かな。 大事なものを手に入れる為かもしれない。 なら、大事なものを見付けて、手に入れたなら。 それと一緒に滅びてもいいじゃないか。 僕は目の前の、何よりも大切な宇宙が詰まったたまごを抱き締めた。 ★ 地球は滅ぶのかもしれない。 そのひとが行けなかったから。 あと半年で、宇宙のたまごと呼ばれたそれらが地球に到着する。 宇宙人の乗った侵略船。 そのひとはそいつらと戦う為に、地球を守る為にずっと訓練していた。 本当なら今頃は、そのひとが地球の代表として遠くの空で戦っている筈だった。 切り札のそのひとが居たら、地球は滅びなかったのかもしれない。 だけど地球が滅びなくてもそのひとは死んでいた。 特攻。それがそのひとに架せられた部隊名だったのだから。 だからどうせ死ぬのなら、最期までの時間をともに過ごしたかった。 僕はー顔も名前も知らない沢山の人なんてどうでもよかった。 そのひとの居る、この小さな世界を守りたかった。 たまごの宇宙を優しく撫でる。 頭上で微笑むその人の表情は、日々柔らかくなっていく。 僕は、今日も僕の二番目の宝物を抱き締める。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.05.03 12:09:02
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