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長押 綴

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2017.04.09
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カテゴリ:.1次小


 僕にとってそのひとは女だった。
 そのひとにとって僕は弟だった。

 僕にとってそのひとは一番目の宝物だった。
 そのひとにとって僕は二番目の宝物だった。





 そのひとは夢を叶えた。
 僕はずっと応援してた。

 だけど土壇場になって、離れていくそのひとが許せなくなった。

 だからそのひとが僕の辿り着けない所に旅立つ日、僕は思い出をお願いした。

 一つの約束によって、僕の想いは遂げられた。
 その裏で僕はその約束を破った。そのひとは気付かなかった。

 生まれて初めてそのひととの約束を破った。

 ある種の賭け。


 目に見えて結果が出るまで、毎日心の中で謝り続けた。

ーごめんなさい。
ーごめんなさい。
ーごめんなさい。
ーこんな奴が君の足を引っ張って、ごめんなさい。

 罪悪感が胸を刺す。
 それでも約束を破った瞬間、途方もない幸福感に満たされたから僕はこうして救われている。
ー君の未来と引き換えに世界を愛せている。

ー君と離れるか、君を道連れに沈むか。


 天使と悪魔の戦いの行く末を、僕は偶然に委ねた。





 ツキは、悪魔に微笑んだようだった。
 検査後に送り返されたと泣いて、そのひとは怒った。
 だけど、そのひとも悪魔から逃げようとはしなかった。
 ある種の医者に行く選択肢もあったのに、そうしなかった。

 そのひとは諦めたように、縋る僕の手に自らの手を重ねてきた。

 これまでずっと、そうしてきたように。

「寂しかったの」
「そうだよ。……ごめんね」
「ごめん……か。いいよ、もう」
「怒ってないの」
「……この世界で、幸せのまま終われるなら。それはそれでいいのかもしれない」
「…最後まで、一緒に居てね」
「何を今更」

 どうして僕らは生きている?
 大事なものを見付ける為かな。
 大事なものを手に入れる為かもしれない。

 なら、大事なものを見付けて、手に入れたなら。


 それと一緒に滅びてもいいじゃないか。


 僕は目の前の、何よりも大切な宇宙が詰まったたまごを抱き締めた。











 地球は滅ぶのかもしれない。
 そのひとが行けなかったから。


 あと半年で、宇宙のたまごと呼ばれたそれらが地球に到着する。
 宇宙人の乗った侵略船。
 そのひとはそいつらと戦う為に、地球を守る為にずっと訓練していた。
 本当なら今頃は、そのひとが地球の代表として遠くの空で戦っている筈だった。



 切り札のそのひとが居たら、地球は滅びなかったのかもしれない。
 だけど地球が滅びなくてもそのひとは死んでいた。
 特攻。それがそのひとに架せられた部隊名だったのだから。


 だからどうせ死ぬのなら、最期までの時間をともに過ごしたかった。

 僕はー顔も名前も知らない沢山の人なんてどうでもよかった。

 そのひとの居る、この小さな世界を守りたかった。


 たまごの宇宙を優しく撫でる。


 頭上で微笑むその人の表情は、日々柔らかくなっていく。




 僕は、今日も僕の二番目の宝物を抱き締める。





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最終更新日  2017.05.03 12:09:02
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