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長押 綴

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2017.04.10
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カテゴリ:.1次小
人はみんな、頭と言う風船を持っている。
身体から離れないように、しっかりと首で結わえ付けている。

風船で鉛のような身体を引きずって、今日も人は生きていく。





けれど、ある日一つの青い風船が、ぶちりと首の皮を破って空へと浮かび上がった。

いくつかの神経の糸がそれでもまだ繋がっていたけれど、それもどんどん浮かんでいくたびに千切れて行った。

その度に風船に浮かぶ顔は明るくなった。
取り残された身体はその度に無様に揺れた。

やがて数本の線を残し、二つは切り離された。

鉛の身体は惨めに地面を這い、足蹴にされた。時々寄りかかれるものがあれば身体は必死に掴んだけれど、それはいつも振り払われた。
顔のない身体を誰もが異様に思った。それまで近くに居た子供たちも、あっと言う間に蜘蛛の子を散らすように消えて行った。
鉛の身体はよく喉を鳴らした。

けれど半分残っている喉では、それが笑っているのか泣いているのかも分からなかった。

顔のない身体は涙を流すことも怒る事も笑う事もなく、普通の人ならば簡単に通り過ぎる迷路を時間をかけて、よく行き止まりに入りながら、それでも這って進み続けた。
風船の糸が引く方向へ、ただただ愚直に進み続けた。

一方風船は、とても自由だった。地を這いつくばる人々を、自分含めすべて見下ろすのは気持ちが良かった。風船には上からすべてが見えていた。だからなんで風船にとっては簡単なちっちゃい世界で人々があがいているのかが分からなかった。
だから、鉛の苦しみも分からなかった。
鉛の痛みを伝える神経なんて、とうの昔にほとんど切り離してしまっていた。

風船を囲むのは、もっと綺麗で楽しい世界だから、そんなところに囚われる必要なんてなかった。
空の上、時々鳥やヘリコプターが横を通り過ぎる世界。
笑っていても怒っていても泣いていても全部空に浮かんでいるというだけで許される世界。
地上を更に離れれば、たまに雲とも触れ合うことが出来る。
たまに幽霊も通りがかる。

自分の力で身一つでそこまで浮かんだ鳥や、工夫してそこまで飛んできたヘリコプターたち、また色々な石を積んで造られた高い塔……それらと違って、風船はただ流されるだけだったけれど、たまに鳥の嘴やヘリコプターの羽に切り刻まれそうにもなったけれど、いつも紙一重で、その風圧で自然と風船はかわしていた。
風船は誰にも攻撃を受けなかった。下からたまに羨ましそうな目を受けた。

風船は笑って見せた。





存在の耐えられない軽さ。


風船は、自分が軽すぎることも知っていた。
軽すぎる自分には何が出来るのだろうと思っていた。

だから風船は夜冷えてくれば地上の近くに降りて、泣いている子供の近くに行って慰めた。

「これにつかまって」

そうすると不思議と子供は泣き止んだ。
子供の顔は本当の子供から、老人まで様々だった。

空色の風船は、誰かの希望になることにした。誰かの心の隙間を埋めることが風船の存在意義になった。





一方、取り残されてぼろぼろになった鉛の身体にも転機が訪れていた。
身体のぼろぼろで寒そうな様子を見かねて、屋根の下に招き、保護してくれる人が居たのだ。

温かいそこで初めて、身体は泣きながら笑った。

身体はそれから、少しずつ大人になっていった。
風船にやはり引きずられても居たけれど…飛びつかれた風船が戻って来る時に、少し優しく迎えられるようになった。

雨が降って、どうしても負けそうな時は風船をかばって、抱きしめた。
泣いている女の子を慰めてよれよれになっている時は、空気を入れ直した。
けして途切れることがないように、少しずつ切られた糸をもう一度結び直していった。

今、風船は昔ほど自由には飛べないけれど、それでも昔より強く、優しく鉛の身体と、他の鉛の身体を引きずる風船を助けはじめている。





風船の中には夢と希望が詰まっている。

空には理想と祈りが浮いている。
地面には現実と血と汗と涙が染み込んでいる。

そこを歩き、立ち上がる鉛の身体は、今日もひたすら生き抜いている。





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最終更新日  2017.04.13 22:07:13
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