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あの日俺はこのロボットに救われた。
壊れかけて、俺を前の雇い主(ロボットを不法投棄した奴だ)と勘違いして助けたそいつ。 ずっとそいつと一緒に居た。 そいつは壊れかけのくせに案外使える奴で、捨てた奴は勿体ないことをしたもんだと思ってた。 でもそいつはやっぱりポンコツだった。 どうしようもなく、憎くなるくらいに。 ***** ロボットは小さくもこもこしてて、目玉だけくりくりとして、後で知ったことにはひと昔前に流行った『フアピー』とかいうやつをまねたということだった。 弱弱しい様子だったが案外うるさい奴で、構わないと拗ねるし、構っても気持ち悪い声を上げるし、返答は時々おかしいしで俺ははじめ拾ったことを後悔していた。 だけどそいつが弱弱しいのは外見だけだった。 俺がいつも通りそいつを秘密の場所に隠してうちに戻ろうとした時、そいつはついてきた。 やめろ、ついてくんな、お前の為だぞといってもそいつはぎょろぎょろと目玉を動かした。 何でそういう時に限って無言なんだ、とイライラした。 そして。 「ガキィ……お前また、なんか拾ってきたろ……」 やばい。 「野良猫野良犬は家が臭くなっからいれんなっつってんだろうが……! もっかい痛い目見せねえと分かんねえのかなあ…!」 「い、いや待って父さん、こいつは臭くは」 「口答えすんなっつってんだろうが!!!」 親父の眉毛がぴくぴくと吊り上げられ、同時に弱者を痛めつけることに興奮の笑みを浮かべる口元。 今でも夢に見る。 振り上げられる親父の腕。目線の先にはふわふわした弱い生き物。親父の腕の先、光るのは酒瓶の割れた切っ先。 「こいつか…!」 途端。 ロボットが動いた。 庇おうと前に出た俺の股を抜けてジャンプし、ロボットが酒瓶を受けた。 「……!」 ぼろぼろになるかと思った。 俺が昔拾ってきたあいつらみたいに。 だけどそうはならなかった。 「…ってえええ!?」 「アソンデヨー」 ぼろぼろになってるのは酒瓶、そしてその破片を受けた親父の腕。 「ナデナデシテー」 「このや…ろ!!お前っ、ロボットか!!」 親父が蹴りを入れる。 「かっ……た」 「ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー…」 親父の軍靴が。 どんなに金に困って酒に溺れても手放さず磨いていた軍靴がひしゃげている。 「くそ!」 ロボットには拉致があかないと考えたらしく、親父は標的を俺に変えた。 フェイントをロボットにかまし、ロボットが防御態勢をとったところで、目線はそのまま、拳を俺に向けた。 「教育してやるよ」 「!」 「ロボットなんぞに頼りやがって」 俺は御伽噺の代わりに、親父のうんざりする自慢話を聞かされて育った。 その一つがこれだ。 『ロボットなんかにはできねえ仕事だ』 親父の教育とやらを受けた奴は必ず記憶が飛んでしまっている部分がある。 親父の執拗な拷問に近い教育で、そうしないと心が保てなくなるんだ。 そんなことをぐだぐだと頭に浮かべたのに、体はちっとも動かなかった。 動いたら余計に後で教育される。 勿論何か他のものを庇ったらそれ以上に教育されるんだ。 だから俺は母と妹を捨てることになった。 「モルスァ」 「!!!!!」 「……はっ、はは、無理な姿勢だなあおい」 「……っ」 そのロボットはやはり俺を庇った。 「……おい、どこへ行くんだよ…?」 「……」 最後に何か言ってやりたかった。 だけど、こんな奴に俺の、俺達の記憶を残したくなんかなかった。 「……」 「おい、逃げんなよ!話してんだろうが!!」 「守りながら、ついてこい、ロボ」 「ボクフアピー!イッショニアソンデ!」 「ああ、後でな」 あの時は確かに幸せだったんだ。 【続】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.10.28 09:26:39
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