忘れるって、マイナスばかり？

2018.11.01

冬もののセーターやズボンや靴下を持って、かあさんのいる施設へ。

いつものように広い食堂にいるかな？とガラスのドア越しに探したけど、かあさんの姿は見えず。

多分トイレに行ってると思いますのでお待ちください。
いつもここに座られるんで。

と、スタッフが丸椅子を2つ持って来て、食堂のかあさんのいつもの席の横に並べてくれた。

夫と2人そこに座ると、トイレから出てくるかあさんが見えた。

ひゃあ、珍しいなぁ。
と、息子の顔を見て言う。

会う度に珍しいんだな。

あんた、ここに座り。
と私に自分の座っていた背もたれと肘掛けのついた椅子をすすめる。

かあさんが座りいな。

いや、あんたが座り。
そんな椅子、しんどいやろ。

って、かあさん、
自分が腰の曲がったばあさんだとも、薬を何種類も飲んでる病人だとも思ってないんだな。

クルマで来たんか？
大変やったな。

あんた、クルマで毎日仕事行ってるんやろ。
と夫に言う。

かあさんの息子はとっくに定年のトシを過ぎて、お勤めはもうしてないよ。

今どこに住んでるんや。
と聞くから、今の住所を言ったら、

へぇ〜そうかぁ。
ここもそうやろ？
そしたら、近くにいるんやな。

って、今自分がどの地域で暮らしてるのかわかってるんや。

すごい！
だって以前は京都だと言ってたよ。

あんたお勤めしてるんか。
と私に聞くから、

うん、してるよ。
と答えたら、

そうかぁ
子供おらへんしな。

って、よくわかってるやん。

今日はかあさんのセーターとかズボン持って来たんやで。
と言ったら、

そうかぁ
そら助かるわ。
ズボン、これ1つしかないんや。
と言う。

なわけないやん。
ズボンは7、8本は持ってきてあるはず。

なんでそんなふうに思うんだろ。
かあさんは家にいた時も、たくさんズボンを持ってるくせに、ずーっと同じズボンばかりはいてた。

今回は暖かそうなのお店で探して、2本追加で持って来た。
けっこうフンパツしたけど、気に入って使ってくれるかどうかはわからない。
気に入らなかったら頭の中から消えちゃうんだろう。

もうすぐ晩ごはんやな。
と夫が言うと、

そうか、晩ごはんか。
晩ごはん、どうしてたんやろな。
と言う。
ほんま、晩ごはんはいつもどないしてたんやったかな。

前回訪ねた時夫が、もうすぐ昼ごはんやな。
と言ったら、

ここで昼ごはんなんか食べたことないわ。
と言ってたかあさん。

昼ごはんだけじゃなく、晩ごはんの記憶もないようだ。

見ると、食堂の壁に本日のメニューを書いた紙が貼ってあった。

夕食は、
ご飯、お好み焼き、野菜サラダ、お漬物。
だって。

お昼ごはんは、
ご飯、豚肉ときのこの炒めもの、味噌汁、フルーツ。

おやつはバームクーヘン。

へぇ〜
私たちよりいいもの食べてるな〜
と思ったけど、

あんなん貼ってるけど、一度も頼んだことないねん。
と言うかあさん。

いったい、毎日何を食べてるつもりなんだろ。

なんで食べたことは必ず忘れちゃうんだろ。

ここにいてもな、腹立つことあんねんで。
ほんま情けなくなるねん。

急にそんなふうにぼやくかあさん。

やっぱり、嫌な思いしたことは忘れないんだな。

ここでたいてい機嫌よさそうにしてるように見えたかあさんだけど、そらそうやろな。

家ではあんなに怒ってばかりいたかあさん、いくら薬のおかげで穏やかになってるとはいえ、時々は機嫌悪くなるんだろう。

いつもいつも優しく接してくれるスタッフさんばかりじゃないのかも。

どうか、薬が効いて、爆発しないで過ごしてほしい。

それにしても……

忘れるってことはいつもマイナスなんだぁって思う。

何本もズボンを持ってるの忘れて、たった1本。
かなりのマイナス。

3食食べてる食事。
全部忘れて、ゼロ。

2週間に1度会っても、3年くらい会ってないな〜とか言う。

みんなマイナス。

覚えてることは、嫌なことだけ？
それじゃあ、覚えてることもマイナスっぽいな。

今のかあさん、マイナスばかり？

だけど、食べてないと言う割には…

報告によると、体重だけはプラスだったようだ。