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April 25, 2010
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カテゴリ:I just …
「チーフ!」

 街灯に浮かび上がった人物はぼんやりと顔を上げ、相手が美海だと気付くとすぐさま駆け寄ってきた。

「吉野さん!大丈夫なんですか? 昨日怪我したばかりなのに、どこに行ってたんです?」

 綾部の言葉にはっとした。そうだった。自分は怪我をしたので仕事を休んでいたのだ。まずいところで綾部にあってしまったと後悔するが後の祭りだ。

「すみません。尼崎さんと一緒に晩御飯食べることになって」
「やっぱりあの時見かけたのは吉野さんだったんですね。これ、落としたでしょ?」

 綾部は上着のポケットから携帯電話を取り出した。まさかとカバンを確かめるが美海の携帯は見つからなかった。

「慌てて声をかけたんだけど、すぐさまタクシーに乗っちゃったから」

 ああ、なんてドジ。さっきまでの高揚した気持ちがあっという間にしぼんでゆく。

「どうも。」

 携帯を渡されても、なんとなく素直に謝れない。自分が悪いのは分かっているのに。どうしてこう自分はいつも素直じゃないんだろう。情けなさが鼻の辺りまで溢れて、ツーンとなる。

 大きなため息が聞こえてきた。やっぱり呆れられたんだ。昨日は昨日でチーフの話も聞かないで自分のことばっかり聞いてもらおうとしていたし、その上怪我して病院に運んでもらってたのに今日はちゃっかり出歩いて。ああ、しかもこんな時間。

 美海が腕時計をみると、すでに10時を回っていた。走り回った割には本山を助ける事も出来なかった自分に嫌悪感すら覚える。恥ずかしい、消えてなくなりたい。こんなところでは泣きたくなかったが、じわじわと涙が溢れそうになってきた。

「吉野さん。あんまり無理しないでくださいよ」
「チーフ…。勝手ばかりして、すみません」

 やっとの思いで言葉を搾り出した。綾部の手がふいに額に触れて、胸がきゅんと音を立てる。

「傷口、落ち着いているようですね。なんでもなければそれでいいです。僕は、僕はただ…」

 躊躇いがちに紡がれる言葉を、遮るように携帯電話が鳴り出した。一瞬困ったような顔をして、携帯を取り出すと、美海にちょっと手を上げて申し訳なさそうに電話に出た。
 電話の相手とはなにか真剣な話をしているようで、綾部は終始真剣な表情をしている。そして電話が切れると、再び美海に向き直った。

「吉野さん。今日は大変な働きだったんですね。今尼崎さんから電話を頂きました。本山さん、大変だったんですね。僕は、恥ずかしいです。同じ男として彼の異変にもっと早く気付くべきでした。」
「私、少しは役に立ったのでしょうか。」
「もちろんです。だけど、やっぱり無理はしないで下さい。」

 ほんの一瞬だったが切なさを覚えるような瞳の色を見て、どきりとしてしまう。しかし
綾部は何事もなかったように屈託なく笑う。美海はそんな笑顔に癒されるのを感じた。

「室長には僕から伝えておきます。もしかしたら出張の予定を繰り上げてもらうことになるかもしれません。」
「須磨さんの生い立ちと何か関係があるのでしょうか」
「どうでしょうね。でも、それは僕達が考えるべき事ではないでしょう。とりあえず、今日は早く休んで、明日に備えてください」

 逆らえないような優しさとゆるぎない何かを感じ、美海は素直に帰ることにした。じゃあとその場を離れてアパートに向かって歩き出す。振り向くとさっきの場所で綾部が見守っている。

 なんだろう。この心地よさ。

 気持ちがどんどん穏かになっていく。美海はぺこりとお辞儀をして、部屋に帰った。


 翌朝、いつものように出社してお湯を沸かしベランダの花の手入れをした。みなの机を拭いていると、事務所のドアが開いた。

「おはようございます」

 振り向きながら声をかけた美海は意外なその顔に驚いた。三宮室長だったのだ。

「おはよう。やっぱり早いね、吉野くんは」

 三宮は少し疲れたような影を秘めながらも笑顔でベランダに向かった。そこで1つ深呼吸すると、美海に向き直って深々と頭を下げた。

「すまん。出張中の事とはいえ、君たちにまた迷惑をかけてしまった。私もうすうす気付いてはいたんだが、そこまでひどい状況だったとは思いも寄らなかった。淳也は、いや、須磨くんには昨日付けで退職してもらったよ。本山くんから被害届は出されていないが、軽視するわけにはいかない。しばらくカウンセリングを受けることになるだろう。」

 深く刻まれたしわが一層際立って見えた。三宮は手近なイスに腰掛けて、両手で顔をこするようにした。

「そうですか」

 手に持っている雑巾を手持ち無沙汰に握り締めて、美海はソフトクリームを差し出してくれたときの須磨の顔を思い出していた。

「私もこの夏で退職だ。今までいろいろとありがとう。」
「室長!どうして室長まで辞めちゃうんですか?」

 美海は少なからずショックを受けた。しかし三宮は笑って答える。
 
「いやなに。どうせ定年退職まで1年足らずだったんだ。ほんのちょっと早くなっただけなんだ。
淳也が言ってたよ。君と話をしているうちに、もしかしたら自分がやっていることは間違っているんじゃないだろうかって思うことがあったと。
 今まで一度も自分を振り返ることなどしなかったのに。」

 三宮はふと優しい表情をして何度も何度も小さく頷いていた。

「すまないね、忙しいときに。ただ、吉野くんには先にお礼を言っておきたかったんだ。詳しいことはまた朝礼のときに話すことになるだろう。じゃあ。」

 三宮はゆっくりと立ち上がると、室長室へと消えていった。


 朝礼が終わってそれぞれが仕事を始めると企画室内は噂話でざわめいたが、須磨と本山、二人の席が空いたチームAは口を閉ざしていた。

「いい加減にしないか! 須磨君は迷惑をかけていたことに違いないが、病んでいたというのだから仕方がないだろう。責任を取ってやめたのだから、それ以上笑いものにする必要はない」

 企画室内がしんと静まった。声を上げた本人は、言うだけ言うとそっと席に戻って表の色塗りに集中した。その時、ノックが聞こえ、西宮が入ってきた。

「ごめんなさい。大矢さん、室長室までおいでください」

 のっそりと立ち上がった大矢が素直に西宮に従った。背中を丸めた後姿が消えると、美海は一抹の不安を覚えた。室長が退職する前に、大矢の進退について何らかの結論が出されたのかもしれない。大矢は普段は表の色塗りばかりしているが、それは本当の姿ではないはず。それは以前須磨が伝説の営業マンだと話していたことからも想像がついた。

 それに…。 美海は故郷からの帰りに駅で見かけた大矢の意外な一面を思い出す。迷子の子どもを保護していたときだ。

 午後になっても大矢は席に戻らず、時間だけが過ぎていった。3時になってコーヒーを淹れていると、今度は綾部が室長室に入っていくのが見えた。

何かが変ろうとしているのかもしれない。三宮の今朝の表情から考えて、悪いようにはならないだろうと予測はついたが、誤解されやすい大矢の進退だけが気がかりだ。


 企画室に戻ってコーヒーを配り始めると、大矢がのんびりと帰ってきた。いつものように背中を丸めていたが、その手は机の上の書類をかき集めて片付けている。
 
 何があったんだろう。

 美海はそっと大矢の机にもコーヒーカップを置いた。

「いつも、ありがとう」
「えっ?」

 驚く美海を不慣れな笑顔が包んだ。

「私もまたがんばるよ」

 そういうと、慌てて席を立ち今までの営業ファイルを何冊も引っ張り出して読み始めた。美海はなぜか心が浮き立ってくるのを感じていた。きっとこれが大矢の本来の姿なのだろう。

 その日を境に大矢が室長室に入り浸るようになってきた。日に日に顔つきも明るくなってくる。時には室長室から笑い声が漏れることさえあった。
 本来大矢が在籍していたチームBは、猫背の中年男を戦力と見なしていなかったので、仕事に支障が出ることもなく、不思議なぐらい平穏な毎日が続いている。しかし、その進退がどうなるかという噂は一向に流れては来なかった。

 アパートに帰ると電話が鳴っていた。慌てて靴を脱ぎ捨てて受話器を掴み取る。

「もしもし」
「あ~んた! なにやってるのよ。もうすぐお盆休みでしょうに、なんで連絡してこないの? 父さんがアンタの予定を聞けってうるさいのよ。」
「ごめん。いろいろと忙しかったのよ。そうねぇ、休みは12日からだから11日の夜から帰れるかな。でも、あてにしないで。一昨年みたいに急に仕事が入ることもあるから。」

 会社のことばかり考えていたらいつのまにか夏季休暇が目の前まで迫っていた。父が予定を聞くということは、旅行にでもいくつもりなのだろうか。

 美海は一昨年急に入った仕事で夏季休暇が9月になるまでもらえなかったことを思い出していた。父は普通のサラリーマンなので、休みもきちんともらえるようだが、近所のお土産物屋でパートタイムの仕事をしている母や顧客からの依頼でどうしても動かざるを得ない状況が生じやすい自分はそうもいかない。
 母はできるだけ夫の意向を汲もうとしているようだが、そればっかりは付き合うこともままならない。

「もう、アンタはノリが悪いねぇ。芳雄なんて二つ返事で旅行に行こうって言ってたのに。」
「芳雄がぁ?」

 大学生にもなって親と旅行に行きたいなんて、あやしい。

「あの子は片道だけよ。向こうでどうしても調べ物がしたいんだって。勉強熱心なことよねぇ。あははは」
「やっぱり…。何の勉強してるんだか。」
「片道だけでも荷物持ちしてやるよって言うんだもの。親孝行だよ」

 まったくおだて上手なやつ。

 美海は旅の行き先とすでに予約された日程をメモして電話を切った。

「はぁ、尼崎さんはフィジーで本山さんはハワイ。塩見さんは御主人のご実家がある北海道に行くって言ってたのになぁ。なんで私だけ千鳥山温泉なのよ。オマケにお宿はまるきち旅館。毎年おんなじ場所じゃない。」

 千鳥山温泉は熱海のような隆盛を誇った時代はないが、同じぐらい歴史の古い温泉地で、わびさびを求める大人が好んでいく温泉だ。レストランや喫茶店は70年代の雰囲気を色濃く残し、美海らのような若者には退屈な場所でもある。

 毎年の事ながら、実家からこの類の電話が入ると、美海はブルーな気分で出社することになる。こんなことならいっそのこと仕事が入ったほうがずっと気が紛れるというものだ。


 その日も黙々と掃除を済ませ机を拭いていると、綾部が出社してきた。険しい表情からなにかトラブルがあったらしいと美海も身構えた。

「吉野さん、お盆休みの予定は決まりましたか?」

 突然の話に美海は思わず首を振った。

「申し訳ないのですが、先日のうちの企画にちょっとした問題が生じてしまって、どうやらうちのチームからも誰か現地に行かなければならないようなんです。僕は当然行くとして、もう一人連絡係をお願いしたいのですが、頼んでもいいでしょうか?」
「その企画って、本山さんが先日ぼやいていた…」

 綾部は肩を落としてため息をついた。

「そうなんです。顧客のやり方が強引だったので心配していたのですが、やはり想像通りの結果になりました。ただ、本山さんは旅行の予約が入ってしまったということですし、元々の担当は須磨さんでしたから、困り果てていて…」
「わかりました。承ります。」

 美海は半分やけっぱちで了解した。千鳥山温泉より仕事の方が気が紛れる。綾部はほっとした表情になって礼を言った。その表情に随分と救われた気分になる。

 午後になって、本山が美海の元にやってきた。

「吉野さん、ごめんね。お盆休みの予定はよかったの?」

 申し訳なさそうな本山だったが、美海には好都合だった。

「気にしないで下さい。たいした予定もなかったし。」
「ありがとう。綾部チーフは貴方に譲るわ。」

 楽しげに笑っているが、無理をしているのがわかる。頬の腫れは引いたが、心の傷は残っているのだ。それでも美海にはその心意気が嬉しかった。






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最終更新日  April 25, 2010 02:14:16 PM
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う~ん(>_<)   りき&りさ さん

煽てるの使い方等、ちょっと違和感が…って所も多かったけど、
表現の仕方かな、と思える所はスルーしたよ。
★どうしてこう自分はいつも素直じゃないんだろう。
→どうして自分は いつもこう素直じゃないんだろう
★その上怪我して病院に運んでもらってたのに今日はちゃっかり出歩いて。
→貰った
→貰ったというのに
★美海にちょっと手を上げて申し訳なさそうに電話に出た。
→美海にちょっと申し訳なさそうに手を上げて電話に出た
★電話の相手とはなにか真剣な話をしているようで、綾部は終始真剣な表情をしている。そして電話が切れると、再び美海に向き直った。
→深刻な話
→電話を切ると
★気持ちがどんどん穏かになっていく。美海はぺこりとお辞儀をして、部屋に帰った。
→穏やか
→部屋に入った
★三宮の今朝の表情から考えて、悪いようにはならないだろうと予測はついたが、誤解されやすい大矢の進退だけが気がかりだ。
→予測が+進退だけは
★母はできるだけ夫の意向を汲もうとしているようだが、
→父の
→妻としては
こんな感じかな(^^?
送り仮名以外は間違いでは無いので、一々断らないけどスルーしてね(^^ゞ
何話か読む内、綾部の存在をすっかり忘れていたわ(^^;
こっちに興味があったのに… 須磨のヤツめ(>_<)
(April 25, 2010 07:58:07 PM)

ちょっと共感。    ネオ・リーブス さん
美海が、温泉よりも仕事を選んだのは
分かるような気がしますね。
普段、私もそんなことが多いです(苦笑)
まあ、あまりそういう選択はよくないんですけどね… 
   (April 25, 2010 10:25:34 PM)

確かに   嵯峨山登 さん
どうして~「いつもこう」の方が「も」「こ」とO音が続いてリズムがいいですね。ついでに、自分、自分と続いてくどいので、どうして自分は、の「自分は」も省略しちゃいましょうか。
…くどい言い方になりましたが、これで誤解はないでしょう(笑)。
くどいといえば千鳥山温泉、温泉、温泉地。ひとつの文に三つもあるので、(例えば)最後を穴場にするとか。
りささんへ
しんたさんと僕の間にはギャグ的な師弟関係があるので(笑)先生と呼ばれてもそのままにしていますが、りささんに言われるとくすぐったいので、さんづけでお願いします。
(April 26, 2010 05:40:55 AM)

セカンドオピニオン   嵯峨山登 さん
部屋に帰った→部屋に入った
確かにそうなんですが、帰ったというニュアンスを生かしたければ、戻った。
参考までに。 (April 26, 2010 05:48:49 AM)

りさちゃん   カフェしんた さん
うおお~~~!
うわわわ!!
そうやんなぁ。。。

と、モニターに叫び続けておりまする。
言われたらわかる。でも何度読み返しても
自分では発見できない。。。
ホントはね、こういうときは半年とか1年とか放置して
改めて読み直すと分かったりするんだけどねぇ。。。

でも、りさちゃんのおかげで一つ悪い癖が分かりました。
それは形容詞を早めにつけすぎるってこと!
今度から、ここのところは特に気をつけますわ!
おー!! (April 26, 2010 09:23:25 AM)

ネオ様   カフェしんた さん
まあ、お仕事していると仕方がない部分ってあると思うんですよね。
仕事が全てじゃないけど、職種によっては待ってもらえないですからねぇ。(^_^;) (April 26, 2010 09:25:10 AM)

嵯峨山先生   カフェしんた さん
あい!了解であります!笑
そうですよね。声に出して音で確かめるっていうのも方法ですよね。
ああ、また自分の連呼しちゃってましたか。。。
チェックが甘いですね。
自分で書いて自分で読んでると自分ワールドに没頭しちゃってチェック機能が手薄になっちゃうんですね。

ギャグ的師弟関係!! バカウケしております!!笑 (April 26, 2010 09:29:24 AM)

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