北松戸のインド酒場
ぼくなどが子供だった時分には、インド料理店など見たこともありませんでした。それは特段ぼくの転々と移り住んできた町が地方都市だったからというのが理由ではなく、そもそもが日本では東京などのごく限られた場所にしかもごく少ない数の店があるだけだったようだから目にすることがなかったのは当然の事なのです。ところがですよ、近頃旅行をしているととにかくどこにだってインド料理店を目にするようになりました。それも地方都市どころか駅前離れが進み町としての体裁を失いつつあるような寂れ切った土地にすらインド料理店は存在していたりするのだから、インド人達の土地への順能力の高さに驚かざるを得ないのです。人気のない駅前通りにケバケバしい外観の料理店を見てももはや驚くこともなくなり、けれどこんな田舎町にインド料理がそれ程の需要があるものだろうか、そしてこの店を営むインド人はじめの周縁国の人達は、この町でどんな生活を送っているのだろうか、などなど止めどもなく疑問が噴出するのですが、日本人はカレーと呼ばれるものであれば選り好みなく好きであり、店を出すインド人らはとりあえずの出稼ぎ気分で田舎暮らしを長い人生のわずかひと時の退屈な暮らしと割り切っていると考えておくことにしよう。問題なのは、何度も語っているけれどインド料理店が居酒屋化を加速させているように思われるという事です。本場中華料理店もそうですが、これらの店で日本の町が席巻されることを思うとゾッとした思いに囚われるのです。インド料理も中華料理も大好きで、実のところ昔ながらの町の居酒屋で出される日本の肴は大概旨くない事を思うとむしろそちらの方がいいかも知れんと思ったりもするのです。しかも日本の居酒屋で出されるインド風だったり中華料理風だったりする料理がそれに輪をかけて不味かったりするものだから居酒屋の価値を主に肴の良し悪しで判断するような方はもしかするとそちらにシフトしていくことになるのかもしれない。いや、現在の活況を鑑みるにすでにそうなり始めているということなのだろう。 馴染みたいと思っているわけじゃないけれどすっかりお馴染みになりました北松戸にもレッドとブルーの2軒のインド料理店があります。先に出来たブルー、つまりは「アジアンダイニング ブルースカイ」はなかなか宴会に使い勝手が良いと教えられていて利用の機会を窺っていたのだけれど、知らぬ間にレッド、つまりは「インド料理 レッドローズ」がオープンしており、お手頃さではこちらが勝ったというその一点に惹かれてここを訪れることを決めたのでした。値段は評判をも凌駕するのです。さて、店の構えは薄っぺらでゴテゴテしたインド料理店のそれでしかなく、まあその安っぽさがインド料理店である証しともなっているから戦略としてはありかもしれぬけれど、ぼくにはどうも面白くない。むしろブルーは田舎町のキャバクラみたいな内実のえげつなさと裏腹のさわやかな青を基調とした見栄えで全く趣味とは違っているけれし、品のないこと甚だしいけれど工夫した痕跡は感じられます。店内も全く凡庸の極みであるけれど仕方ないですね。さて、こちらは料理が11品(といっても〆のカレーとナンとライスが別記載なので実質は9品と数えるべきだろう)に90分の呑み放題が付いて3,000円のBコースを注文しました。パパド、サラダ、枝豆、チキンティッカ、ポテトフライ、モモ、アルジラに好みのカレー1種が付いてだから確かにお得なのだ。さらに下の2,500円コースもあるから立派なものです。パパド、サラダ、枝豆、ポテトフライと何とも味気ない品が続きますが、サラダに掛かったアイランドドレッシング風のが妙に旨かったのです。ハナマサなんかの市販の業務用になにかを混ぜ込んだ程度に違いないのですが、あの味になるならぜひレシピを知りたいものです。チキンティッカ、アルジラはまあねえこんなものかな。モモは案外うまかったけれど、これもハナマサの冷凍ショーロンポーではないかと推察したがどうだろう。ここですでに満腹であります。カレーのルーすら胃に収まりそうにありません。とここでさらなるサービス。お持ち帰り対応してくれるのですね。現場で食べるよりナンはかなりボリュームダウンしていたけれど、味は悪くなかった。ラムカレーを持ち帰り、食べたけれどこちらはう~ん、自分で作った方が旨いかなあ。ただ、現地でホウレン草カレーを食べていたのに一口分けてもらったらこれはなかなか良かったですね。次の機会があればそちらにしようと思いつつも、キラ星の如く乱立するインド料理店をみたらあえてここを選ぶ理由はなさそうにも思えるのです。