ブリストル・セントーラス エンジン
セントーラス(Centaurus )は第二次世界大戦期に英・ブリストルで開発された航空機用の複列18シリンダー空冷星型エンジン。 スリーブバルブを採用したこと、大出力3,000hp、大排気量53,600ccが特徴。 例えば、零戦、隼に搭載された栄21型エンジンは、出力1,130hp、排気量27,864cc。 米国のF6Fヘルキャット、F4Uコルセアに搭載されたプラット&ホイットニーR-2800の出力は2,000hp、排気量は45,900cc。 長い歳月と多額の費用(当時の金額で200万ポンド、スピットファイアの試作予算の20倍以上)を使って開発されたこともあってか、この時期の大出力航空エンジンには珍しく、セントーラスは初期段階に生じた不具合の解決後は特に問題が生じなかったとされる。 セントーラスや、米国の四重星型28気筒ターボチャージャー付のプラット&ホイットニーR-4360-51VDT(4,300hp)、B-29スーパーフォートレスやA-1スカイレイダーに搭載されたカーチス・ライトのR-3350-26WA(2,700hp)など開発・実用化に苦労した大出力レシプロエンジンの役割は、次第にジェットエンジンに置き換えられていく。 【スリーブ・バルブ】 スリーブ・バルブ(Sleeve valve)はレシプロエンジンの吸排気弁機構形式の一つ。 摺動弁式とも言う。 吸気ポートと排気ポートをシリンダ側面に開け、シリンダ外部を二重構造とする。 二重構造部分に、吸排気口を開けた筒状の「スリーブ」を挿入し、片方をクランクシャフトに同調して、上下もしくは円周(回転)方向に往復させて、ポートを開閉することで給排気を行う。 1940年代以前の自動車・航空機の一部で、ポペットバルブよりも吸排気抵抗が小さいこと、燃焼室形状の自由度が高いこと、動弁系の打音が無く静粛性が高いとして採用された。 静粛性が評価され大型の高級車にも採用された。 実際は熱で膨張、変形するシリンダ部でスリーブを摺動させるため、高速になればなるほど、スリーブの慣性による抵抗が増大し高回転化が困難。 スリーブ内外の広い面積で接するため、高い工作精度が必要とされた。 摺動面積の大きさは潤滑面積の大きさとなり、大量のエンジンオイル消費を招いた。 スリーブバルブはエンジンの回転数が低かった時代にのみ有効な給排気弁機構だった。 航空機用星型エンジンでは動弁機構も自動車の直列エンジン以上に複雑化した。 【セントーラス搭載機】 〈エアスピード〉 アンバサダー(旅客機) 〈ブラックバーン〉 ビバリー(輸送機)、 ファイアブランド(艦上戦闘雷撃機)、 ファイアクレスト(戦闘爆撃機) 〈ブリストル〉 ブラバゾン(旅客機)、ブリガンド(爆撃機)、 バッキンガム(爆撃機)、 バックマスター(高等練習機) 〈フェアリー〉 スピアフィッシュ(艦上雷撃機) 〈ホーカー〉 シーフューリー(艦上戦闘機)、 テンペストMk.II(戦闘爆撃機)、 トルネード(戦闘機) 〈ショート〉 ソレント(旅客用飛行艇) 〈ヴィッカース〉 ウォーウィック(哨戒機/救難機/輸送機) 〈ブレダ〉 ザパタ BZ.308(旅客機/輸送機)